日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-67)

2019年9月14日(土) 13:00 〜 15:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB57] 困難克服型宿泊研修プログラムが小学生の徳育的能力に与える影響

3泊4日の臨海学校での研修を通して

伊住継行 (環太平洋大学)

キーワード:長期宿泊体験、困難克服型プログラム、IKR

問題と目的
 平成29年3月に新しい小学校学習指導要領が公示された。改訂の基本方針として道徳教育の充実とともに,豊かな体験活動が引き続き重視され,一定期間にわたる集団宿泊活動が望まれている(文部科学省,2018)。長期宿泊研修のプログラムタイプには①困難克服型,②グループ活動重視型,③教科や総合的な学習型,④基本型の4つがあり,近年,困難克服型に移行する学校が増え,宿泊研修に求める目的が明確になっている(国立吉備少年自然の家,2016)。
 ところで,長期宿泊研修の測定尺度としてIKRが開発されている(橘・平野,2001)。IKRは心理社会的,徳育的,身体的の3つの能力から構成され,それらの得点を合計して「生きる力」を測定する尺度である。このIKR得点が長期宿泊研修事前事後で有意に高まる傾向がこれまでの研究で報告されている(藤村・水野,2012)。しかし,徳育的能力については有意差がなかったとする報告もある(橘,2003;神田・佐藤,2012)。その理由として,従来の長期宿泊研修が上記で紹介した研修プログラムタイプの違いを区別して実施していないからではないかと考えられる。
 そこで,本実践では,3泊4日の長期宿泊研修で困難克服型の研修プログラムを設定し,研修前後でIKRの徳育的能力が向上するかどうかを明らかにすることにした。
方  法
(1)対象:中国地方の公立小学校5年生80名。 
(2)困難克服型プログラムについて 
 3泊4日の期間中,2回洋上カッター研修を実施した。1回目は1日目で3時間,2回目は3日目で片道約4㎞ある無人島を目指すカッター研修を行った。カッター研修の後には体験したことを価値付けるためにビーイングを行い,「カッター研修をうまくやるために大切なことは何か」について小グループで振り返った。
(3)IKRの徳育的能力の測定
 事前と事後と1か月後の追跡調査の3時点のIKRの結果に対して「生きる力」の測定・分析ツールを用いて一要因分散分析を行った(国立青少年教育振興機構,2010)。
結  果
(1)困難克服型プログラムについて
 2回目の洋上カッター研修は風向きや潮の流れの関係で無人島までたどり着けないほど困難な研修になった。しかし,その中でも児童の必死で協力し合う姿が見られた。ビーイングの中で児童は,「みんなのために声を出す。」,「心を合わせる。」など大切だと感じた行動や心構えを模造紙に書いてまとめていくことができた。
(2)IKRの徳育的能力の変化について
 回答に不備のあった29名のデータを除外して対応のある一要因分散分析を行った(Table1)。その結果, F(2,100)=3.55,p<.05で時点の効果が有意であることが示され,Bonferroni法による多重比較の結果,事前と事後に有意な差が認められた(p<.01)。
考  察
 困難克服型の研修プログラムによって一人では解決できない課題が生まれ,みんなで協力せざるを得ない状況が生まれた。そのことで,互いを思いやる気持ちやチームワークが向上し, IKRの徳育的能力が向上したものと考えられる。一方,研修後の学校生活でも徳育的能力を向上させる取組を充実させることが今後の課題である。