[PB61] 教師にとっての異動の意味と異動に伴う変容プロセス(3)
異動は組織を変えるのか
Keywords:ナラティヴ、教員の異動、組織の変容
問題と目的
教員の異動に関する研究としては,異動に伴う困難の分類,メンタルヘルスへの影響,能力開発・授業改善への影響等,多くは,異動する教員に焦点を当てたものであるが,異動の決定過程に関する研究やそのシステムに関する研究も行われている。
発表者は異動についていくつかの研究を行ってきたが(東海林・上杉,2019;東海林・小田,2019など),それらは異動する個人の経験の意味づけに焦点を当て,危機ともなりうる異動という転機をどのように乗り越えるのか,それにより教師としてどのように発達するのかについて検討しようとするものであった。本発表では,異動そのものや異動してきた個人のアクションが組織にどのような影響を及ぼすのか,またアクションを起こそうとする内的変化を促すもの,アクションを起こそうとする個人を支えるものがどのようなものであるのかについて,異動による気づきから組織の変容に向けたアクションを起こした2つのケースを取り上げ,検討する。
方 法
分析の対象とするのは2名の小学校教師(Aさん,Bさん)であり,教師の異動に関するインタビュー調査によって得られたデータの一部である。全てのケースにおいて対象者の承諾を得て録音し,逐語録を作成している。
本発表で対象とする2名は,40代後半,一児の母,同じ地区ブロックに配属されており,異動先が家庭に課題のある児童の多い学校であるという共通点がある。また,専門職大学院において研修を受けたという共通点もある。Aさんは,異動後に初めて担任から外れて教務担当となり,また研究主任等の業務負担の重い校務分掌を複数担うこととなった。Bさんは担任を持ったが,Aさんと同じく研究主任となった。対象者2名とインタビュアー(発表者)は,異動前から研修等で交流があり,学級経営・授業の場面を何度も見ている。また,異動前・異動後のいずれの学校でも校内研究会の講師等で関わっており,管理職のみながらず他の教員の多くと面識があった。
質問項目は,「学校」「教師,教えること,勉強させること」「児童,学ぶこと,勉強すること」「授業以外の学校生活に関わること(特に学校行事)」「教師にとっての異動の意味」の5点について,話しやすいところから話してもらうという手続きで行った。インタビューの所要時間はAさん116分,Bさん65分であった。
結果と考察
Aさんは業務改善アンケートとその取りまとめ方について,Bさんは支援員の配置の仕方について管理職や同僚に改善の必要性を伝えたり,会議で発言したりした。Bさんのケースではその後すぐに,無理のある配置により業務に重大な滞りが生じたこともあり,配置の仕方が変更された。
異動が組織に及ぼす影響について両者から共に語られたことは,①ある程度経験年数のある人が異動する場合,受け入れる側もその人がどういう人かわかっているので,新年度の配置等をその人ありきで考える。そういう意味で異動前から組織に影響を与えている。②異動してきたからこそ見えることがあるが,1年目は言いたいことが言えず,また異動してきた人を大変なクラスや分掌に配置することがよくあり,それに忙殺されて気づきを忘れてしまうので結果的に何も変わらない,③研修を受けて知識が増えたり新たな視点を獲得したりしたことがアクションを起こすことにつながった。具体的には組織マネジメントやチームでの対応についての知識やそのような視点で学校を見ることであった。また,それによってアクションを起こしたことを後悔しないですんだ,という3点であった。
引用文献
東海林麗香・上杉尚子(2019)教師にとっての異動の意味とそのプロセス:実践者と研究者の往復書簡による検討 教育実践学研究 山梨大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要,24,177-187
東海林麗香・小田雄仁(2019)高校教師にとっての異動の意味と異動に伴う変容プロセス:ナラティヴおよび学校文化という観点から 山梨大学教育学部紀要,28, 233-243
付 記
この研究は科学研究費17K04346(基盤研究(C)「個の多様性を支える教師のありようと教育実践の変容可能性」)の助成を受けて行われた。
教員の異動に関する研究としては,異動に伴う困難の分類,メンタルヘルスへの影響,能力開発・授業改善への影響等,多くは,異動する教員に焦点を当てたものであるが,異動の決定過程に関する研究やそのシステムに関する研究も行われている。
発表者は異動についていくつかの研究を行ってきたが(東海林・上杉,2019;東海林・小田,2019など),それらは異動する個人の経験の意味づけに焦点を当て,危機ともなりうる異動という転機をどのように乗り越えるのか,それにより教師としてどのように発達するのかについて検討しようとするものであった。本発表では,異動そのものや異動してきた個人のアクションが組織にどのような影響を及ぼすのか,またアクションを起こそうとする内的変化を促すもの,アクションを起こそうとする個人を支えるものがどのようなものであるのかについて,異動による気づきから組織の変容に向けたアクションを起こした2つのケースを取り上げ,検討する。
方 法
分析の対象とするのは2名の小学校教師(Aさん,Bさん)であり,教師の異動に関するインタビュー調査によって得られたデータの一部である。全てのケースにおいて対象者の承諾を得て録音し,逐語録を作成している。
本発表で対象とする2名は,40代後半,一児の母,同じ地区ブロックに配属されており,異動先が家庭に課題のある児童の多い学校であるという共通点がある。また,専門職大学院において研修を受けたという共通点もある。Aさんは,異動後に初めて担任から外れて教務担当となり,また研究主任等の業務負担の重い校務分掌を複数担うこととなった。Bさんは担任を持ったが,Aさんと同じく研究主任となった。対象者2名とインタビュアー(発表者)は,異動前から研修等で交流があり,学級経営・授業の場面を何度も見ている。また,異動前・異動後のいずれの学校でも校内研究会の講師等で関わっており,管理職のみながらず他の教員の多くと面識があった。
質問項目は,「学校」「教師,教えること,勉強させること」「児童,学ぶこと,勉強すること」「授業以外の学校生活に関わること(特に学校行事)」「教師にとっての異動の意味」の5点について,話しやすいところから話してもらうという手続きで行った。インタビューの所要時間はAさん116分,Bさん65分であった。
結果と考察
Aさんは業務改善アンケートとその取りまとめ方について,Bさんは支援員の配置の仕方について管理職や同僚に改善の必要性を伝えたり,会議で発言したりした。Bさんのケースではその後すぐに,無理のある配置により業務に重大な滞りが生じたこともあり,配置の仕方が変更された。
異動が組織に及ぼす影響について両者から共に語られたことは,①ある程度経験年数のある人が異動する場合,受け入れる側もその人がどういう人かわかっているので,新年度の配置等をその人ありきで考える。そういう意味で異動前から組織に影響を与えている。②異動してきたからこそ見えることがあるが,1年目は言いたいことが言えず,また異動してきた人を大変なクラスや分掌に配置することがよくあり,それに忙殺されて気づきを忘れてしまうので結果的に何も変わらない,③研修を受けて知識が増えたり新たな視点を獲得したりしたことがアクションを起こすことにつながった。具体的には組織マネジメントやチームでの対応についての知識やそのような視点で学校を見ることであった。また,それによってアクションを起こしたことを後悔しないですんだ,という3点であった。
引用文献
東海林麗香・上杉尚子(2019)教師にとっての異動の意味とそのプロセス:実践者と研究者の往復書簡による検討 教育実践学研究 山梨大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要,24,177-187
東海林麗香・小田雄仁(2019)高校教師にとっての異動の意味と異動に伴う変容プロセス:ナラティヴおよび学校文化という観点から 山梨大学教育学部紀要,28, 233-243
付 記
この研究は科学研究費17K04346(基盤研究(C)「個の多様性を支える教師のありようと教育実践の変容可能性」)の助成を受けて行われた。