日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PC] ポスター発表 PC(01-66)

2019年9月14日(土) 15:30 〜 17:30 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号15:30~16:30
偶数番号16:30~17:30

[PC07] 青年期における感謝のあり方と対人関係性との関係

池田幸恭 (和洋女子大学)

キーワード:感謝、道徳的感情、青年期

問題と目的
 感謝は,人間関係の発見,再認識,他者との絆を強くするという機能をとおして,人間関係の形成と維持に貢献することが論じられている(Algoe, 2012)。一方で,青年には感謝の背後にある他者に依存しているという感覚と自律という感覚をどのように統合するかが求められる(内藤,2004)。
 感謝が道徳的感情や対人関係の互恵性に関係する感情であると考えると,“感謝する”傾向だけでなく,“感謝される”経験,さらに感謝に関する規範意識をあわせて検討する必要がある。また,日本の小中学校において道徳の授業が教科として位置づけられ実施される中で,感謝のあり方は青年期の対人関係とどのような関係があるかを検討することは有意義であるといえる。
 本研究の目的は,青年期における特性感謝,被感謝経験,感謝規範意識と対人関係性との関係について明らかにすることである。
方  法
調査回答者 関東圏に在住する600名(15-19歳,20-24歳,25-29歳それぞれ男性100名,女性100名の各200名)に調査を実施した。
調査時期と手続き インターネット調査会社(株式会社クロス・マーケティング)を通じて,2014年2月上旬にweb調査を実施した。
調査内容 主な調査内容は以下のとおりであった。
 日本語版特性感謝尺度 GQ-6(McCullough, Emmons, & Tsang, 2002)を邦訳したHatori, Kodama, & Koganei(2014)による6項目を用いた。「全くあてはまらない」から「非常にあてはまる」までの7件法で回答を求めた。
 被感謝経験 池田(2014)が作成した項目を一部修正,加筆した5項目(“これまでに私は,さまざまな人たちから感謝されてきた”など)へ,日本語版特性感謝尺度と同様の7件法で回答を求めた。
 感謝規範意識 先行研究(Buck, 2004; 箱井・高木, 1987; 本多, 2010)を参考に作成した7項目(“自分によくしてくれた相手には感謝しなければならないと思う”など)へ,日本語版特性感謝尺度,被感謝経験と同様の7件法で回答を求めた。
 対人関係性尺度 高井(1999)による「閉鎖性・防衛性」,「ありのままの自己」,「他者依拠」,「他者受容」,「自己優先」の5下位尺度から構成される28項目へ「全くあてはまらない」から「よくあてはまる」までの5件法で回答を求めた。
結果と考察
 主成分分析で負荷量が小さかった項目を除きα係数を算出した結果,特性感謝5項目はα=.80,被感謝経験4項目はα=.86,感謝規範意識6項目はα=.85であり,十分な信頼性が確かめられた。
 各得点について,年代(15-19歳・20-24歳・25-29歳)と性別(男性・女性)を要因とした分散分析と多重比較を行った(Bonferroni法)。その結果,特性感謝,被感謝経験,感謝規範意識は年代による得点に有意差はみられなかったが,すべて女性の得点が男性よりも大きかった(p<.001, η2=.06 to .08)。対人関係性における「閉鎖性・防衛性」は,15歳から19歳の得点が25歳から29歳より大きく(p<.01, η2=.02),「他者依拠」(η2=.04)と「他者受容」(η2=.01)の得点は女性が男性よりも大きかった(p<.001)。
 対人関係性5下位尺度をそれぞれ目的変数にして,特性感謝,被感謝経験,感謝規範意識を説明変数,説明変数間に共分散を仮定したモデルについて,性別(男性・女性)で区分した2群による多母集団同時分析を行った(Table 1)。男女ともに,特性感謝と被感謝経験の両方が「他者受容」と正の関連,特性感謝は「閉鎖性・防衛性」と負の関連,被感謝経験は「ありのままの自己」と,感謝規範意識は「閉鎖性・防衛性」,「他者依拠」,「自己優先」と正の関連がみられた。「他者依拠」などで男女に関連の相違があった。青年期において感謝することと感謝されることは相補的な意味を有しており,感謝を規範的に求めることは閉鎖的で防衛的かつ他者に依拠しながらも,自己を優先するような対人関係につながることが示唆された。
付  記
 本研究は和洋女子大学平成25年度研究奨励費の助成を受けた。