[PC18] チーム内での立場と学習意欲
少年サッカーチームにおける検討
Keywords:学習意欲、チーム、少年サッカー
目 的
チーム内での立場の違いを超えた「一体感」が生まれることで,チーム全体の意欲が高まったというような逸話を聞くことがある。本研究では,チームの中での立場の違いにより,活動に対する学習意欲に違いがみられるのかを明らかにすることを目的とした。具体的には,少年サッカーチームを題材に,自身のことをレギュラー選手だと自覚している競技者とそれ以外の競技者の学習意欲に,どのような違いがみられるのかを検討した。
方 法
調査対象者および調査時期 東北地方の中核市にある1つの少年サッカーチームに所属する小学5,6年生を対象とした。調査は,2018年11月と12月,2019年2月の3回行った。1回目の調査では18名,2回目の調査では22名,3回目の調査では20名の回答を回収し,不備のなかった回答(1回目18名,2回目19名,3回目19名)を分析の対象とした。全員が男子小学生であった。
調査内容 1)基本属性 性別と年齢に加えて,ポジション(FW・MF・DF・GK・決まっていない)と出場機会(レギュラー・サブ・試合によっていろいろ)を尋ねた。ポジションと出場機会についてはいずれか1つを○で囲むことを求めた。
2)サッカーにおける学習意欲 西田(1989)が標準化を行った体育における学習意欲検査(AMPET)の項目を,サッカーを対象とする表現に変更して用いた。また,AMPETは(1)学習ストラテジー,(2)困難の克服,(3)学習の規範的態度,(4)運動の有能感,(5)学習の価値,(6)緊張性不安,(7)失敗不安という7つの下位尺度とL尺度に8項目ずつの64項目で構成されているが,本研究では,複数回の調査における,対象者の負担軽減のため,短縮版,低学年版も参考にしながら,7つの下位尺度について各4項目の28項目(5件法)で測定した。
調査期間および手続き 2019年8月に地元サッカー協会を通して,調査趣旨の説明をした上で,協力チームを募集した。協力に同意を得た1チームの代表者に,調査対象者分の調査用紙を郵送し,実施とチーム内での回収を依頼した。最終的に調査用紙は郵送にて,回収した。
倫理的配慮 いわき明星大学研究倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号15-05)。
結果と考察
調査回ごとに,サッカーにおける学習意欲の7つの下位尺度について,レギュラーとそれ以外での平均値差の検定を行った。その結果,1回目の調査では,「有能感」(t(16)=3.32,p=.004,d=1.57)と「緊張性不安」(t(16)=2.00,p=.063,d=0.94)で有意差や有意な差のある傾向がみられた。2回目の調査では,「有能感」(t(17)=3.64,p=.002,d=1.67)に加えて,「困難の克服」(t(17)=3.35,p=.004,d=1.54),「規範的態度」(t(17)=2.06,p=.055,d=0.95)「価値」(t(17)=2.73,p=.014,d=1.25)でも有意差や有意な差のある傾向がみられたが,不安については差がみられなかった。さらに,3回目の調査では,「有能感」(t(17)=3.95,p=.001,d=1.84),「困難の克服」(t(17)=1.98,p=.064,d=0.92)に加えて,「ストラテジー」(t(17)=2.28,p=.036,d=1.06)に有意差や有意な差のある傾向がみられた。「規範的な態度」や「価値」では差がみられなかった。
有能感は一貫して,レギュラーの方が高く,レギュラーという立場が自信を生むのだと推測できる。また,困難の克服は後半の3回では,レギュラーの方が高かった。一方で,1回目の調査では,レギュラーの方が低かった不安は,2回目,3回目では,むしろレギュラーの方が高くなっていた。
時期による違いがなぜ生じたのかなど,今後更なる検討を加えることが必要であると考えられる。
引用文献
西田 保 (1989).体育における学習意欲検査(AMPET) の標準化に関する研究―達成動機づけ論的アプローチ― 体育学研究,34,45-62.
付 記
本研究はJSPS科研費JP15K16457の助成をうけたものです。
チーム内での立場の違いを超えた「一体感」が生まれることで,チーム全体の意欲が高まったというような逸話を聞くことがある。本研究では,チームの中での立場の違いにより,活動に対する学習意欲に違いがみられるのかを明らかにすることを目的とした。具体的には,少年サッカーチームを題材に,自身のことをレギュラー選手だと自覚している競技者とそれ以外の競技者の学習意欲に,どのような違いがみられるのかを検討した。
方 法
調査対象者および調査時期 東北地方の中核市にある1つの少年サッカーチームに所属する小学5,6年生を対象とした。調査は,2018年11月と12月,2019年2月の3回行った。1回目の調査では18名,2回目の調査では22名,3回目の調査では20名の回答を回収し,不備のなかった回答(1回目18名,2回目19名,3回目19名)を分析の対象とした。全員が男子小学生であった。
調査内容 1)基本属性 性別と年齢に加えて,ポジション(FW・MF・DF・GK・決まっていない)と出場機会(レギュラー・サブ・試合によっていろいろ)を尋ねた。ポジションと出場機会についてはいずれか1つを○で囲むことを求めた。
2)サッカーにおける学習意欲 西田(1989)が標準化を行った体育における学習意欲検査(AMPET)の項目を,サッカーを対象とする表現に変更して用いた。また,AMPETは(1)学習ストラテジー,(2)困難の克服,(3)学習の規範的態度,(4)運動の有能感,(5)学習の価値,(6)緊張性不安,(7)失敗不安という7つの下位尺度とL尺度に8項目ずつの64項目で構成されているが,本研究では,複数回の調査における,対象者の負担軽減のため,短縮版,低学年版も参考にしながら,7つの下位尺度について各4項目の28項目(5件法)で測定した。
調査期間および手続き 2019年8月に地元サッカー協会を通して,調査趣旨の説明をした上で,協力チームを募集した。協力に同意を得た1チームの代表者に,調査対象者分の調査用紙を郵送し,実施とチーム内での回収を依頼した。最終的に調査用紙は郵送にて,回収した。
倫理的配慮 いわき明星大学研究倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号15-05)。
結果と考察
調査回ごとに,サッカーにおける学習意欲の7つの下位尺度について,レギュラーとそれ以外での平均値差の検定を行った。その結果,1回目の調査では,「有能感」(t(16)=3.32,p=.004,d=1.57)と「緊張性不安」(t(16)=2.00,p=.063,d=0.94)で有意差や有意な差のある傾向がみられた。2回目の調査では,「有能感」(t(17)=3.64,p=.002,d=1.67)に加えて,「困難の克服」(t(17)=3.35,p=.004,d=1.54),「規範的態度」(t(17)=2.06,p=.055,d=0.95)「価値」(t(17)=2.73,p=.014,d=1.25)でも有意差や有意な差のある傾向がみられたが,不安については差がみられなかった。さらに,3回目の調査では,「有能感」(t(17)=3.95,p=.001,d=1.84),「困難の克服」(t(17)=1.98,p=.064,d=0.92)に加えて,「ストラテジー」(t(17)=2.28,p=.036,d=1.06)に有意差や有意な差のある傾向がみられた。「規範的な態度」や「価値」では差がみられなかった。
有能感は一貫して,レギュラーの方が高く,レギュラーという立場が自信を生むのだと推測できる。また,困難の克服は後半の3回では,レギュラーの方が高かった。一方で,1回目の調査では,レギュラーの方が低かった不安は,2回目,3回目では,むしろレギュラーの方が高くなっていた。
時期による違いがなぜ生じたのかなど,今後更なる検討を加えることが必要であると考えられる。
引用文献
西田 保 (1989).体育における学習意欲検査(AMPET) の標準化に関する研究―達成動機づけ論的アプローチ― 体育学研究,34,45-62.
付 記
本研究はJSPS科研費JP15K16457の助成をうけたものです。