日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PC] ポスター発表 PC(01-66)

Sat. Sep 14, 2019 3:30 PM - 5:30 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号15:30~16:30
偶数番号16:30~17:30

[PC26] ピア・レスポンスにおける相手のプロダクトに対する発話の分析

日本語母語話者を対象として

石毛順子 (国際教養大学)

Keywords:ピア・レスポンス

目  的
 日本語学習者がピア・レスポンス(以下PR)
において感じている困難・不満には,自分の意見を表すための文型の知識・運用能力の不足がある(石毛2016;石毛2018a)。PRにおいてよく使用される機能の文型を学習者に提示する参考にするため,石毛(2018b)は学習者が相手の作文に対してどのように意見を述べているのか分析した。その結果,多く見られた発話の機能は「1.情報要求・確認,2.称賛,3.提案,4.同意」の4カテゴリーであった。そこで,本研究ではこのカテゴリーが日本語母語話者でも見られるのか,また学習者と発話にどのような違いがあるのか分析することを目的とする。
方  法
参加者 レポートの書き方を学ぶ授業の2016年度受講者7名,2017年度9名,および教員1名。
調査期間 2016年4月-7月,2017年4月-7月。
手続き この授業は1学期,75分×約30回で行われ,1つのレポートを書くことを目標としていた。受講者は1回目の授業で興味のある分野・テーマをあげ,2~6回目でそれに関する書籍の要約を報告した。7回目に,研究計画を教員と相談し具体化した。7回目までは授業中の受講者同士のアドバイスは基本的になく,講義および教員との相談のみであったが,教員と受講者のやりとりは他の受講者も見ていた。PRは8回目の授業から開始された。受講者は3名または4名のグループに分かれ,教員もグループに加わった(グループメンバーは固定ではなかった)。受講者がグループで報告したのは,8回目~16回目は研究計画に基づいた自分の興味のある分野の書籍の要約,レポートの構成を決定した17回目より後は,レポートの一部であった。PRでするべきことを書いたレジュメは6回目の授業で解説されていた。指示内容は以下の①~④の通りであった。
①初めてグループが一緒になった人に対しては,素朴な感想・印象を伝えること
②相手の報告資料が研究計画のどの部分にあたるのか質問すること
③相手の報告資料の不明な点を質問すること
④相手が次の授業に準備してくることと,それが研究計画のどの部分にあたるのかを尋ねること
なお,本研究の比較対象とする石毛(2018b)では,「A.クラスの中で誰の作文がいい作文か,理由を含めて話すこと,B.お互いにわからない部分を質問すること」をPRで話すよう指示されていた。
結果・考察
日本語母語話者も同様の4つのカテゴリーが見られたが,特に日本語学習者との大きな違いが見られたのが,「3.提案」における婉曲表現であった。
以下は,Xの提出物内の「自らの自己防衛」という表現の訂正を促す提案が行われた発話である。

A:各々のとかにすればいいんじゃない? 
X:ま,特に考えてなかったんで自己防衛で。
A:(笑いながら)大丈夫?
X:秒で書き上げたんで。
B:はい。なんか自分が自分の力で自分を守る,みたいな時は自らって感じなんです。
A:うーん。
B:何かしら強調入れてもいいのかなって思います。

その他に見られた提案の婉曲表現は,「~かもしれない」,「いい気がする」「てもいいのかな」などであった。特に「~かもしれない」を使った提案は多用されていた。また,学習者にも使われる「~たほうがいい」が母語話者では「~たほうがいいのかなと」いう表現になっているものも見られた。学習者には母語話者が提案を行う際に婉曲表現を多用する実態と文型を示し,日本語母語話者には婉曲表現は日本語学習者には伝わりにくい可能性があることを併せて指導する必要性が示唆された。
引用文献
石毛順子(2016)「『ピア・レスポンスにおける日本語母語話者と日本語学習者の差異』パイロット調査報告」『日本質的心理学会第13回大会抄録集』57.
石毛順子(2018a)「ピア・レスポンスにおける困難の日本語母語話者と日本語学習者の差異」『日本教育心理学会第60回総会論文集』668.
石毛順子(2018b)「ピア・レスポンスにおける相手のプロダクトに対する発話の分析」『韓国日語教育学会・言語文化研究学会(日本)共同開催 2018年度 第34回 冬季国際学術大会』117-120.
付  記
本研究はJSPS科研費15K02645の助成を受けている。