日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PC] ポスター発表 PC(01-66)

2019年9月14日(土) 15:30 〜 17:30 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号15:30~16:30
偶数番号16:30~17:30

[PC30] 「越境の説明力」育成を目的としたプレゼンテーション・セミナーの効果

スーパーグローバルハイスクールにおける生徒の学びの指標開発

中野美香1, 松本邦明#2 (1.福岡工業大学, 2.福岡県立鞍手高等学校)

キーワード:プレゼンテーション、越境の土俵、SGH

目  的
 福岡県立鞍手高等学校は平成27年度にSGH校に指定され,グループによる課題研究を中心とした取組を行っている。SGH事業を導入する以前と比べて,フィールドワークや海外研修など,学校外部の他者との交流の機会が増加した。生徒一人一人が課題研究における学びを深めるためには,様々な社会的背景を持つ他者との交流が欠かせない。これまでの様々な活動を通して生徒のコミュニケーション能力に成長が見られるが,議論の場で自発的に意見を発表したり,質問やファシリテーションすることに苦手意識を感じる生徒が多い。また学校外の異なる世代や外国人との関わりに対する積極性に課題がある。
 国際化社会においては他者との対話を通して自己を越境し,「越境の土俵」の発見できるような越境の説明力が求められる(中野,2014)。SGH事業においても越境の土俵発見の場を設定するとともに,研究の過程や研修を通して,越境の説明力がどのように育まれているのかを検証している。そこで本論では,第一筆者が高校1年生を対象に実施した越境の説明力育成支援のためのセミナーの効果を明らかにすることを目的とする。
方  法
対象者 福岡県立鞍手高校人間文科コース1年生39(男13,女26)名。
セミナーの概要 2019年3月19日に実施された人間文科コースのスプリングセミナーにおいて,13時30分から15時35分の間,プレゼンテーションの基礎的な方法を学ぶことをねらいとしたアクティブラーニング型授業を第一筆者がおこなった。対象生徒は1か月前に2年生の最終報告会に出席しており,1年後の発表に向けて初めてプレゼンテーションを学ぶ機会であった。講義では越境の説明力の重要性を説明し,プレゼンテーションの技法について並行反復学習法に基づく2回のグループワークによる実践を通して理解を深めた。授業中の発表はPPTではなく紙を用いて3分間の簡易のプレゼンテーションとした。
手続き セミナーの実施前後に調査の趣旨を説明し,プレゼンテーションのルーブリックに回答してもらった。回答時間は10分程度であった。
質問項目 ルーブリックは以下の20項目で構成される:「1. 声」「2. アイコンタクト」「3. ジェスチャー」「4. 話し方」「6. 声のトーン」「7. 画面」「8. アイデア」「9. 絵や写真の挿入」「10. グラフ」「11. 前後の変化」「12. 大きさやフォント」「13. 聴衆を引き付ける内容」「14. 簡潔にまとめる」「15. 発表の雰囲気」「16. 質疑応答」「17. ユーモア」「18. 発表の準備」「19. 情報力」「20. 場の雰囲気」であった。このうち「11. 前後の変化」は授業内容と合致していなかったため対象から除外した。5段階評価(1「相当の努力を要する」~5「期待している以上」)で回答してもらった。
結果と考察
 セミナー前後のルーブリックの得点の変化をFigure 1に示す。19項目中10項目で事前事後に統計的に有意な差が見られた。差が大きかった項目から順に,「場の空気」「ジェスチャー」「発表の雰囲気」「声のトーン」「話し方」「声」「簡潔にまとめる」「質疑応答」「聴衆への配慮」「画面」である。事前事後で最も差が大きかった「場の空気」は,聴衆を意識した上で自分のメッセージの内容や伝え方を工夫できるかどうかを問う,越境の説明力に関する項目であった。講義で越境の説明に関する理解が深まったことで,これらの項目の得点が向上したと考えられる。
 一方,セミナーはパソコンを使用せず,短時間の実践だったため,フォントなどPPT作成に関連する項目は伸びが見られなかった。今後はこの結果を基に,段階的な越境の説明力を育む指導のアプローチを提案し,今後の学びの成長プロセスを明らかにしたい。
引用文献
中野美香 (2014).ディスカッション:学問する主体として学び合う社会を担う 富田英司・田島充士 (編著) 大学教育―越境の説明をはぐくむ心理学 (pp.111-126) ナカニシヤ出版