[PC53] 教室での挑戦は,教師の安らぎから
保護者に対する教師の心理的安全性が創造的な教育実践に及ぼす影響
キーワード:心理的安全性、創造的な教育実践、潜在差得点モデル
問題と目的
中央教育審議会答申「教師に対する揺るぎない信頼を確立する―教師の質の向上―」(文部科学省,2006)において,「教師には,日々成長する子どもの教育に携わり,子どもの可能性を拓くための創造性が求められる」と指摘されて以降,現代の教師に対しては,児童の保護者からもまた創造的な教育を実践することが期待されてきた(リクルートマネジメントソリューションズ,2007;ベネッセ教育研究開発センター,2012)。しかしながら,教師の創造的な教育実践を促す要因については十分な検討がなされていない。
そこで本研究では心理的安全性(Psychological Safety)に着目した。主に産業組織心理学領域において検討されてきた概念であり,この心理的安全性が感じられているほど,組織・チーム内の個人の創造的なアイディア産出が促進されることが示されてきた(例えばBaer & Frese, 2003;Gilson & Shalley, 2004;Kark & Carmeli, 2009など)。
この知見を学校場面にも応用すれば,教師が創造的な取組を実践するためには,心理的安全性が重要であると予測される。また,先述のように創造的な教育実践への期待を強く抱いているのが保護者であることや,その実践が首尾よく行われなかった際の責任や批判が教師―保護者間で言及されやすいことを踏まえれば,保護者に対する心理的安全性が確保されていることが大きな役割を果たすと考えられる。さらにこの心理的安全性は,メンバー間の日頃からのコミュニケーションが促進要因となることも示唆されてきた(例えばKahn, 1990;Frazier et al, 2016など)。
これらを総合し,保護者に対する教師の心理的安全性が創造的な教育実践と関連し,コミュニケーション頻度が心理的安全性と関連するという仮説を想定し検証する。また,限られた期間内での各変数の変化が他の変数の変化と関連するかについても併せて検討する目的で,潜在差得点モデル(McArdle, 2001, 2009)に基づく検討を行う。
方 法
調査対象・手続き 関東圏内22小学校に勤務する教師に縦断的調査を実施した(Time1で467名,Time2で416名;2018年7~11月)。そのうち現在も学級担任をしており,2回とも回答した351名(男性142名,女性209名)を対象とした。
質問紙の構成 (1)保護者とのコミュニケーション頻度として電話および連絡帳の交換頻度(5件法),(2)保護者に対する心理的安全性として,Edmondson (1999)に基づき作成した集団レベルの心理的安全性(7項目,7件法),Tynan(2005)およびSiemsen et al.(2009)に基づき作成した個人レベルの心理的安全性(10項目,7件法),(3)予備調査に基づき作成した創造的な教育実践(18項目,6件法),(4)児童との関係性として,児童集団との関係性(5件法)および親しく交流できている児童の人数など。
結果と考察
潜在差得点モデルに基づく分析の結果(Figure 1), 本研究の仮説は LevelでもDeltaでも支持された。特にDeltaに関する結果からは,Time1からTime2までの4ヶ月間においても,保護者とのコミュニケーション頻度の上昇は保護者に対する教師の心理的安全性の向上と関連しており,さらにその心理的安全性の向上は創造的な教育実践の促進にもつながることが示された。
中央教育審議会答申「教師に対する揺るぎない信頼を確立する―教師の質の向上―」(文部科学省,2006)において,「教師には,日々成長する子どもの教育に携わり,子どもの可能性を拓くための創造性が求められる」と指摘されて以降,現代の教師に対しては,児童の保護者からもまた創造的な教育を実践することが期待されてきた(リクルートマネジメントソリューションズ,2007;ベネッセ教育研究開発センター,2012)。しかしながら,教師の創造的な教育実践を促す要因については十分な検討がなされていない。
そこで本研究では心理的安全性(Psychological Safety)に着目した。主に産業組織心理学領域において検討されてきた概念であり,この心理的安全性が感じられているほど,組織・チーム内の個人の創造的なアイディア産出が促進されることが示されてきた(例えばBaer & Frese, 2003;Gilson & Shalley, 2004;Kark & Carmeli, 2009など)。
この知見を学校場面にも応用すれば,教師が創造的な取組を実践するためには,心理的安全性が重要であると予測される。また,先述のように創造的な教育実践への期待を強く抱いているのが保護者であることや,その実践が首尾よく行われなかった際の責任や批判が教師―保護者間で言及されやすいことを踏まえれば,保護者に対する心理的安全性が確保されていることが大きな役割を果たすと考えられる。さらにこの心理的安全性は,メンバー間の日頃からのコミュニケーションが促進要因となることも示唆されてきた(例えばKahn, 1990;Frazier et al, 2016など)。
これらを総合し,保護者に対する教師の心理的安全性が創造的な教育実践と関連し,コミュニケーション頻度が心理的安全性と関連するという仮説を想定し検証する。また,限られた期間内での各変数の変化が他の変数の変化と関連するかについても併せて検討する目的で,潜在差得点モデル(McArdle, 2001, 2009)に基づく検討を行う。
方 法
調査対象・手続き 関東圏内22小学校に勤務する教師に縦断的調査を実施した(Time1で467名,Time2で416名;2018年7~11月)。そのうち現在も学級担任をしており,2回とも回答した351名(男性142名,女性209名)を対象とした。
質問紙の構成 (1)保護者とのコミュニケーション頻度として電話および連絡帳の交換頻度(5件法),(2)保護者に対する心理的安全性として,Edmondson (1999)に基づき作成した集団レベルの心理的安全性(7項目,7件法),Tynan(2005)およびSiemsen et al.(2009)に基づき作成した個人レベルの心理的安全性(10項目,7件法),(3)予備調査に基づき作成した創造的な教育実践(18項目,6件法),(4)児童との関係性として,児童集団との関係性(5件法)および親しく交流できている児童の人数など。
結果と考察
潜在差得点モデルに基づく分析の結果(Figure 1), 本研究の仮説は LevelでもDeltaでも支持された。特にDeltaに関する結果からは,Time1からTime2までの4ヶ月間においても,保護者とのコミュニケーション頻度の上昇は保護者に対する教師の心理的安全性の向上と関連しており,さらにその心理的安全性の向上は創造的な教育実践の促進にもつながることが示された。