日本教育心理学会第61回総会

Presentation information

ポスター発表

[PC] ポスター発表 PC(01-66)

Sat. Sep 14, 2019 3:30 PM - 5:30 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号15:30~16:30
偶数番号16:30~17:30

[PC57] 幼小接続期における教師のモニタリング

「見守り」と関連する行動の内容分析

内海緒香 (お茶の水女子大学)

Keywords:児童、見守り

 大人による子どもの行動や状態の追跡・把握を意味する“モニタリング(monitoring; Dishion & McMahon, 1998)”は,さまざまな発達の時期における子どもの心理的行動的適応と正の関連を持つことがわかっている。内海(2016他)は,保育における“見守り”概念を踏まえ,モニタリングを,潜在的なかかわりと顕在的な行動内容から成る複合的概念と捉え,保育者の見守りと関連行動を明らかにし,子どものウェルビーイングとの関連を示唆してきた。本研究は,就学期以降への展開として,幼小接続期の文脈における,教師のモニタリングの性質について質的分析により調べることを目的とする。
方  法
1. 調査期間,調査対象,調査方法:2018年12月-2019年1月に郵送で都内の公立小学校へ質問紙を配布し,返信用封筒にて返送を依頼した。調査対象者は小学1年学級担任である。30校発送し,17名回収。回収率は56.7%であった。
2. 調査内容:基本情報(教師の年齢,教職歴,担任している学級規模)。児童の安心/安全(心理的健康,身体的健康,安全な学校生活のことを指すと定義した。)を守るための,幼小接続と学校生活上(時間帯・場所ごと)の取り組みや配慮について,自由記述で回答してもらった。
3. 分析方法:自由記述を,KJ法で分類した(使用ソフトIdeaFragment2)。
結果と考察
 教師の年齢(M = 39.48, SD = 9.67),教職歴(M = 15.17, SD = 9.21),学級規模(M = 28.18, SD = 2.94)
1.幼小接続における取り組みや配慮
 取り組み(切り出された断片28件)は4つのカテゴリーに分類された。〈引き継ぎ〉(16件)連絡会,申し送り,聞き取り,情報収集,入学児童の照会,情報交換などのキーワードが含まれており,方法は,要録の受け取りの際の訪問来校,面談,電話,必要に応じて園児の様子を見に行く,などである。〈交流〉(9件)招く,招待,見学,紹介,体験のキーワードが含まれていた。交流方法は,1年生体験,授業見学,小学校行事参加,給食交流,小学生が年長児を学校案内,一緒に遊ぶ,である。〈スタートカリキュラム作成〉に言及した記述が2件,〈入学説明会開催〉として保護者を対象とした説明会に言及した記述は1件であった。配慮している内容は,①基本的生活習慣(午睡の有無・トイレの使い方・時間感覚),②身体状態(アレルギーや疾病),③クラス編成(出身園,幼稚園/保育所,配慮児で偏らないよう)の3点である。
2.学校生活上の取り組みや配慮
 〈指導・ルール〉(59件)下校時や給食時の混雑や登下校に関する事故を防ぐための言葉かけやルール,安全指導,健康指導,休み時間中のルール設定などが含まれた。整理整頓の促し,校舎外では校舎裏での遊びや固定遊具に関する諸注意が多く含まれた。安全安心を守る取り組みの工夫を示す〈授業・指示の構造化〉(14件),〈食の構造化〉(13件),〈集団による構造化〉(13件),〈環境の構造化〉(12件)が抽出された。安全確保,健康心理状態の確認のための〈担任の見守り〉(16件)のほかに,教師間,保護者や他の専門職との間の連携を示す〈担任以外の見守り〉(17件),〈情報共有・協働〉(14件),〈点検・見回り〉(5件)が抽出された。就学直後の特徴として,言葉がけやルール化による指導の頻度が多く,学校生活の広がりとともに構造化の種類や方法が多くなることがあげられる。児童の活動領域の拡大に伴い教師一人では対応できない場面が増えるため,教師・保護者・地域の連携が果たす役割は大きいと考えられる。
 配慮している内容は,①覚醒水準(午睡の習慣や発達に鑑み,授業や活動の時間単位を短くしたり,運動を取り入れる),②食事・アレルギー(食べる前に量を調節,誤食対策),③登下校(安全を確保しながら通学路に慣れる),④学校生活(朝の支度やトイレなどに慣れる),⑤校内安全(靴箱,棚,フックなど尖っている部分にクッション材を貼る,ユニバーサルデザインによる環境整備など)である。集団学習,スモールステップ,モジュール化の考え方が反映されていた。
 これらは,接続期での基本的生活に関する配慮や身体的配慮と連続性があり,新しい学校生活に対応した事柄や内容が多い結果となった。幼小接続の頃と同じように,小学1年生の時期はレディネス,予備訓練的,学校システムに徐々に慣れてもらう,という視点が強い。一方,授業や身体的安全に関する工夫に比較し,情緒の安定など安心に関する見守り(安心できるよう朝笑顔で迎える)のような心理的配慮としてあげられた記述は比較的少ないといえよう。
付  記
 本研究は平成30年度科学研究費基盤研究(C)18K02479の助成を受けた。