日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PC] ポスター発表 PC(01-66)

2019年9月14日(土) 15:30 〜 17:30 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号15:30~16:30
偶数番号16:30~17:30

[PC62] 社会性と情動の学習プログラムが援助要請力とソーシャルサポート認知に及ぼす影響

SEL-8Sの試行的実践の事前事後測定より

吉永真理1, 小泉令三2 (1.昭和薬科大学, 2.福岡教育大学)

キーワード:援助要請、ソーシャルサポート、SEL-8S

はじめに
 援助要請行動とは,自分だけでは解決できない状況に直面した時に周囲の人や親しい人,家族,友人,先生などに助けを求める行動をさす。援助要請に至るには問題状況の認識,自己解決可能性の判断,相談の必要性の検討,相談の意思決定を経て,相談の実行に至るとされる(本田,2011)。しかし,助けを必要とするような状況にいるという認識がない,助けてもらえるわけがない,助けを求めるのは恥ずかしい,相手に悪い等という思いに阻まれて,助けを求めないことが往々にしてある。中学生に対する調査(水野,2007)によると,学校でうまくいってる子どもほどスクールカウンセラーに相談しやすいという結果が出ており,学校適応と援助要請行動の関連がうかがえるが,詳細には調べられていない。学校適応の状態によって生徒の助けを求める力の状況が異なることを把握できると,適切な援助要請行動を育む関わりにつなげることができる。
 本研究では,学校適応を向上させるSEL-8S(小泉・山田,2011)の試行的実践に取り組む中学校において,援助要請力とソーシャルサポート認知がどのように変化したかを調べることを目的に,質問紙調査を実践の前後に行って比較した。
方法と対象
 首都圏の中学校で2017年度からSEL-8Sの試行的実践に取り組み,プログラム開始前と一年後に自己効力感,自己有用感,メンタルヘルス,援助要請行動(1因子構造,8項目),ソーシャルサポート認知(「ソーシャルサポート」「共感覚」の2因子構造,13項目)について質問紙調査を通して把握を行なった。調査には一年生から三年生までの820名が参加した。
結果と考察
1)男女別・学年別の援助要請行動得点とソーシャルサポート認知,抑うつ傾向
 性別については,男子より女子生徒の方が,また学年については3年生の方が,援助要請もソーシャルサポート認知も得点が有意に高くなった。WHO-5によって測定したメンタルヘルスの状況も事前事後共に3年生がもっとも良好であった。性別や学年ごとに見られた結果については,3年間の成長の影響,この年度の生徒たちの特徴,あるいはプログラム実施の影響が関連している可能性がある。WHO-5は13点未満は抑うつ傾向ありとされる。事前事後で抑うつ傾向有無について4群(抑うつ傾向なし→なし,なし→あり,あり→なし,あり→あり)を設定,学年,性でクロス表解析をしたが,各類型の出現頻度には有意差は見られなかった。
2)抑うつ傾向の有無の変化と援助要請行動得点・ソーシャルサポート認知得点の関連性
 抑うつ傾向が「なし」から「あり」に変化した群では,援助要請行動もソーシャルサポート認知2項目も得点が下がっていた。「あり」から「なし」に変化した群ではこれらの3項目の得点が上がっていた。また,事前は「なし」だったのに事後に「なし」「あり」となった2群間では事後の3項目の得点に有意差が見られ,「なし」に変化した群はより得点が高くなった(†)。一方,事前に「あり」で事後に「なし」「あり」となった2群間では「なし」に変化した群で3項目の得点が有意に高い結果となった(*)。
まとめ
 男子より女子,学年が上だと援助要請やソーシャルサポート認知得点が高かった。抑うつ傾向と援助要請及びソーシャルサポート認知には関連が見られ,SEL-8Sにより抑うつ傾向が改善することで周囲のサポートに気づき援助要請力が向上する可能性が示唆された。引き続き検証が必要である。
付  記
 本研究は日工組社会安全研究財団の助成を受けて実施した。