日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PC] ポスター発表 PC(01-66)

2019年9月14日(土) 15:30 〜 17:30 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号15:30~16:30
偶数番号16:30~17:30

[PC63] 学校行事への傾倒のクラスへの同化・差異化を介した高校生活スキルの伸びに対する効果

集団社会化理論の視座から

久保田(河本)愛子 (宇都宮大学)

キーワード:学校行事、集団社会化理論、成長曲線モデル

問題と目的
 体育祭や合唱祭といった学校行事は,年中行われており,学習指導要領において,全ての学校で実施すべき活動と定められている(文部科学省, 2017, 2018)。しかし,その教育的機能,特に活動から数か月以上が経過した後の機能については,未だ多くの実証的な検討が蓄積されているとはいえず,検討が必要である(河本, 2012)。
 これまでの研究では,回顧的な調査から,中学・高校における学校行事に傾倒することの発達上の意味は示されている(河本, 2014)。だが,学校行事の機能を精緻な形で検討するためには,縦断的な手法を用いることが必要である。
 こうした学校行事の機能を検討する際,本研究では集団社会化理論の視座から,その機能の検討を行う。集団社会化理論とは,子どもの長期にわたる社会性・パーソナリティの発達に,仲間集団内での同化と差異化というプロセスが重要であると提唱した理論である(Harris, 1995; 2006)。学校行事は,集団活動を通して社会情緒面を伸ばそうと意図した活動であるため(文部科学省, 2017, 2018),学校行事に参加することは,参加した個人の活動集団の同化や差異化を介して,その後の個人の社会情緒面に影響すると予想される。
 そこで,本研究では,高校における体育祭・文化祭・合唱祭の準備・練習に没頭して参加する(傾倒)体験が,いかにその後のクラス内での同化と差異化を促し,心理的適応に関連するのかについて高校生活スキルを取り上げて,検討を行う。
方  法
 公立普通科高校1校において,平成26年度6月から平成28年度3月に質問紙への協力を行った高校1~3年生1,601名(男子711名,女子890名)を対象に,縦断的な質問紙調査を行った。調査は,東京大学ライフサイエンス委員会倫理審査委員会の承認を受けて行われた。分析で使用した尺度は以下の通りである。
 学校行事への傾倒 高校1年次の体育祭・文化祭・合唱祭それぞれの準備・練習期間中に,どの程度,準備・練習に没頭し,傾倒していたかを学校行事への傾倒尺度(河本, 2014)を用いて測定した。ただし,体育祭は,応援団に所属していた生徒のみが準備練習を行っていたため,応援団所属者のみに測定を行った。回答は5件法で求めた。
 高校生活スキル 生徒が学校で適応していく上でのスキルを測定するため,高校1年の4月から高校3年の16時点で測定された学校生活スキル尺度(飯田・石隈・山口, 2009)の下位尺度うち,コミュニケーション・進路決定・集団活動スキルを用いた。ただし,一部の項目は,内容面での妥当性や現場実施への配慮から実施していない。回答は5件法で求めた。
 クラス内での同化・差異化 高校1年次の4月,から3月の6時点で測定したクラスへの集団内での同化・差異化尺度(河本, 2018)を用いた。回答は5件法で求めた。
結果と考察
 コホート変数を補助変数とした上で完全情報最尤推定法を用いた欠損値処理を行い,Mplus ver.7 (Muthén & Muthén, 2012)を用いて分析を行った。まず,各学校行事への傾倒の確認的因子分析,そして学校生活スキルの各下位尺度,ならびにクラス内の同化・差異化の潜在成長曲線モデルの検討を行い,その適合度や傾きの分散が有意であったかを検討した。その結果,いずれも良好な適合度で,傾きの分散も微弱ながら有意となった。
そのため,各学校行事の傾倒が,集団内での同化・差異化を介して,学校生活スキルの各下位尺度の伸びに関連するか を検討することとした。ただし,モデルの複雑性を回避するため,モデルは,集団内での同化と差異化を別に検討し,さらに従属変数も,学校生活スキルの下位尺度毎に検討した。ただし,同化と差異化は相関の高さを考慮し,同化と差異化の独自の部分による効果を検討するため,同化のモデルには1年4月時の差異化得点,差異化のモデルには1年4月時の同化得点を統制した上で検討を行った。
 その結果,同化のモデルに関しては,1年次の文化祭と合唱祭への傾倒のみが1年次のクラス内での同化を介して,全てのスキルの伸びに関連していた。一方,差異化のモデルに関しては,1年次の文化祭と合唱祭への傾倒が,1年次のクラス内での差異化を介して,コミュニケーションスキルの伸びに関連していた。
 ここから,高校1年次の学校行事では文化的行事の準備・練習に傾倒することが,同じ学年のクラス内での同化や差異化に有用で,同化は全てのスキルの伸び,差異化はコミュニケーションスキルの伸びに有用であることが示唆された。