日本教育心理学会第61回総会

Presentation information

ポスター発表

[PD] ポスター発表 PD(01-68)

Sun. Sep 15, 2019 10:00 AM - 12:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PD14] アクティブ・ラーニングの脳科学

人間固有の学びの構造と機能を知り,学びと教え,教育の再構築を共にデザインしよう

仁木和久1, 内海緒香2, 緩利誠#3, 冨士原紀絵#4, 岩野孝之#5 (1.お茶の水女子大学, 2.お茶の水女子大学, 3.昭和女子大学, 4.お茶の水女子大学, 5.産業技術総合研究所)

Keywords:アクティブラーニング、脳認知科学、教育改革

アクティブ・ラーニングの脳科学と教育
 2020年から始まる教育改革の中核をなすアクティブ・ラーニング(以下ALと略)の正しい普及の為に,ALの諸特性や現象を一貫して説明できる学習理論を脳認知科学の視点から構築することを目指す研究プロジェクト(科研費:挑戦的研究(開拓))を我々は発足させた。生涯にわたり主体的・能動的に学び・成長する人間を支える「アクティブ・ラーニング@脳」を知り,教育に活かす,今までの学習&教育研究とはひと味違う脳認知科学アプローチによる「脳科学と教育の架橋研究」を目指す。本パネルでは,アクティブ・ラーニングが起きる時,脳の中では何が起きているのかを紹介する。
人は行為(意欲と意図をもった行動)から学ぶ
 アクティブ・ラーニングの「主体的・能動的な学び」を解明するため,我々は,教育における学びでの人間固有の「行為(=意欲・意図をもった行動)」に注目する。意図目標を達成した行為は経験の記憶を形成する(「行為の学習と記憶」と命名)。これは,分からなかったことが「分かった」「納得した」時に起こる構成学習(Constructive Learning)であり,ALで注目される学習・記憶の諸特性(頑強性,柔軟性,応用力等)を全て備えている。
アクティブ・ラーニングの脳科学
 行為は,認知的機能だけでなく,それ以上に非認知機能,社会的情緒スキルをも同時に必要とし,脳全体を使って実現される。ALを担う「アクティブ脳」の構造と機能を図1に示す。構成学習を担うAL-Core Netは,Default Mode Net(DMN)に属し「記憶中枢」海馬,「感情中枢」扁桃体,「認知的切り替えや対人認知」を担うACC,「心の理論」を担うTPJ等から構成され,ALで重要な「Playful・ポジティブ感情」「記憶」「自己形成」の諸機能を担う。さらに,AL-Core Netは隣接するAttention Net, Salient Net, PFC-Parietal Netと連携動作し,ALで重要な「目標指向意欲」や自己調整学習を実現する。また,論理的思考とヒューリステック判断を担うPFCは,その情報が不十分の場合,AL-Core Netに属しWorking Memoryを担うParietal(頭頂葉)を経由し経験の記憶等長期記憶にアクセスし,深い学びを起こす。
脳認知科学からのALへの示唆
・構成学習は,「行為の学習と記憶」で海馬が形成する「脳活動のバインディング記憶」で説明される。
・構成学習は,ポジティブ感情で促進される。
・強いネガティブ感情は,構成学習を阻害する。
・脳は意図を実現させる方向に情報処理を調整する為,生徒が「学びの意図」を明確に理解して学ぶことが必要である。
・脳の学習を駆動する「意欲」は重要である。しかし,意欲自体も,生物学的意欲から,価値駆動意欲,目標指向意欲へと学習・発達させる必要がある。この意欲の学習発達自体も,AL教育の目的となるべきである。
・外部から与えられた情報を処理する Surface Learning状態では,PFC-Parietal NetはDMNを抑制する。このため,構成学習は起こらない。
・適切なDeep Learning(深い学び)状態では,外部から全ての情報は与えられないため,自己の記憶からの想起や,仲間との助け合い,先生からの適切なヒント等により,頻繁な構成学習が起こる。
・一般に,アクティブ・ラーニングはAL-Core NetとPFC-Parietal Netとの協働時に起こる。
・AL-Core Netがアクティブ・ラーニングに寄与するには,学びに対する意欲と意図という内的エネルギー・駆動力が必要となる。
・生徒の対話Dialogueは重要だが,その前に先生のMonologue をやめることで、生徒達のWhyを共有しよう。
・アクティブ・ラーニングに寄与する全脳領域は,社会的活動で活性化する「社会脳」に属している。当然,社会的協調作業の中でALが起こり易い。
・Standard教科教育の中でも,生徒の意欲や学びの意図を育てる教えのスタイルであれば,アクティブ・ラーニングが起こる。
アクティブ・ラーニングを指向する教育とは?
 行為者は意図コミュニケーションで相互作用するため,学びと教え,そして教育を,「学びの行為者」と「教えの行為者」,そして「学びの環境」のダイナミックスとして考察できる。
 生徒は,意欲と意図をもった「学びの行為」の能力を生まれながらに持っている。その芽を正しく伸ばすAL教育であれば,「学びの意欲」「学びの意図」,さらに成長マインドセット,GRIT(情熱と努力)など社会的情緒スキルを十数年に渡る教育期間中に段階的に強化し,アクティブラーナーを育てることができる。一方,教師は,多少なりとも強制された教育の中で,くじけず,意欲と学びの意図を保ち続けることができたアクティブラーナーである。しかし,同時に,多くの脱落者がいたことも確かである。アクティブ・ラーニング改革でも,成績上位者だけが対応でき,格差は広がる可能性が強いといわれている。
 皆が教育から恩恵をうけ,人間本来の学びの力を獲得する為には,学びと教え,教育のリデザインが必要である。ALの脳科学からのエビデンスに基づき,人間固有の「行為」の能力を正しく学習・発達させることを目指し,学びと教え,教育の再構成をめざす努力を皆様と共有したい。
引用文献
仁木和久 (2017). アクティブラーニングの脳科学 主体的学び, 5, 17-34.
K.NIKI, etc. (2019). Active Learning on Brain CNS conference 2019.
仁木等. (2018). Active Learning on Brainプロジェクト 日本子ども学会大会.
付  記
 本研究は,科研費:挑戦的研究(開発)18H05318で遂行している。