日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PD] ポスター発表 PD(01-68)

2019年9月15日(日) 10:00 〜 12:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PD19] 潜在曲線モデル分析によるアクティブ・ラーニング型授業の効果測定(4)

所属グループにおける個人の目標と満足度がグループ活動に及ぼす影響

高比良美詠子1, 杉本英晴2, 佐藤友美3 (1.立正大学, 2.駿河台大学, 3.九州工業大学)

キーワード:アクティブ・ラーニング、所属グループの目標、潜在曲線モデル分析

 アクティブ・ラーニングとは,学修者の能動的な学修への参加を基盤とする教授・学修法である (中央教育審議会, 2012)。近年,大学教育においても,このようなアクティブ・ラーニング型授業を行う機会が増えつつあるが,十分な教育効果を上げるためには,講義形式の授業以上に,学生の参加態度の量と質が重要になる(溝上, 2014)。そこで高比良他(2019)では,半期のアクティブ・ラーニング型授業でグループワーク中の学生の発言活動と協同活動を継時的に測定し,各活動が半期の授業を通してどのように変化し,それが学生の個人特性からどのような影響を受けるかを検討した。しかし,グループワーク中の学生の活動は,学生が元々持っていたスキルなどの個人特性に加え,学生が所属するグループ環境をどのように認識するかによっても影響を受ける可能性がある。
 そのため本稿では,所属するグループ環境認識として「所属グループにおける目標と満足度」を取り上げ,グループワーク内で生じた学生の発言活動および協同活動の平均および変化に及ぼす影響を,条件付き潜在曲線モデルで検討する。
方  法
調査対象者 大学生199名(女性73名,男性126名)。半期の必修科目で,オリジナルの心理尺度を作成するグループワークを,4~8名の固定メンバーから成る32グループで実施した。
調査内容 (1)グループワーク活動:杉本(2017) のグループワーク活動尺度(発言活動・協同活動)を使用した(4件法,10項目)。(2)所属グループにおける目標と満足度:本研究のために,3因子(パフォーマンス目標,メンテナンス目標,満足度)を想定した尺度を作成した(5件法,16項目)。
手続き (1)は第2回から第1 回の授業終了時 に毎回測定した。(2)は第15回授業終了時に測定した。本研究の手続きは,中部大学倫理委員会の審査を受け承認された(承認番号290076)。
結果と考察
 13時点で測定した発言および協同活動得点(各1~4点)の切片および傾きの個人差を説明するものとして,所属グループにおける目標と満足度の3因子を説明変数とした条件付き潜在曲線モデルで分析を行った(Figure 1)。説明変数は中心化を行い,切片と説明変数間には共分散を設定した。
 発言活動については,切片平均の推定値は2.879点(p<.001),傾き平均の推定値は0.013点(p=.004)であった。切片と傾きの間には有意な負の共分散がみられた (ψ=-0.011, p=.001)。また,切片とパフォーマンス目標(ψ=0.101, p=.041),メンテナンス目標(ψ=0.154, p=.048),満足度(ψ=0.164, p=.048)の間には有意な正の共分散がみられた。傾きに対しては,各目標および満足度から有意な影響はみられなかった。以上の結果から,グループワーク内の発言活動は半期間で増加しており,発言活動が最初の時点で低い学生ほど発言活動の増加量が大きかった。また,発言活動の初期値には個人差が見られ,所属グループにおけるパフォーマンス目標,メンテナンス目標,満足度が高い学生ほど,最初の時点の発言活動量も多かった。
 協同活動については,切片平均の推定値は3.161点(p<.001)であった。傾き平均の推定値は0.005点(p=.317)であり有意には至らなかった。切片と傾きの間には有意な負の共分散がみられた  (ψ=-0.011, p=.001)。なお,切片とパフォーマンス目標(ψ=0.152, p<.001),メンテナンス目標(ψ=0.276, p<.001)の間には有意な正の共分散がみられたが,満足度との間には有意な共分散はみられなかった。傾きに対しては,各目標および満足度から有意な影響はみられなかった。以上の結果から,グループワーク内の協同活動量は,全体的には変化しなかったが,協同活動量が元から低い学生ほど協同活動の増加量が大きかった。また,協同活動の初期値には個人差が見られ,所属グループにおけるパフォーマンス目標,メンテナンス目標が高い学生ほど,最初の時点の協同活動量も多かった。