[PD23] 店と客の集合的学習による規範の変更と新たな価値の創発過程
フレンチレストランの実践から,お子様メニューの変遷
Keywords:集合的学習、規範、価値創発
目 的
店と客の関係は,経済的なマクロ視点においては共存共栄の二つのコミュニティを形成しているとみなされるが,レストランマネジメントにおけるミクロな視点では提案側と選択側であり,利益は背反し,目的は異なる(會津,2016)。本調査では、「生産側」の店と「消費側」の客という目的を異にする二つのコミュニティが当該レストランにおいて協働することで,店の規範に変更を促し,新たな価値が生産・推進される過程を明らかにすることを試みる。
実践者であり,分析者でもある筆者が経営するフレンチレストラン(以下,F店)において店と客の行動を調査・分析し,それぞれの変容を記述する。これにより,飲食店の新しい価値(文化)が生産・推進される過程を示すことを目的とする。
方 法
対象は, F店(開店2年目)店長(男・40代)及び不特定多数の顧客である。実施は2016年5月,方法は,対象者のやりとり及びインタビューを元に記述・分析した。データより,客と店側が互いの規範の逸脱に言及した言葉と行動,新たな規範が生成されることで起こる,お子様メニューの変遷に特に焦点化し分析した。
結果と考察
結果:「Fレストラン」は,既存のフランス料理レストランとは違ったコンセプト―(1)セルフサービス(2)券売機清算(3)バリュー価格(品質に比べて価格が低いこと)の割に(4)料理は本格的なフランス料理(以下フレンチ)―を提供する(5)大人のための店として開店した。開店後,子供連れの若いファミリー層の来店が増加するとともに,親達から子供用メニューの要望が相次いだ。店は当初「大人のための本格的フレンチ(4)(5)」から,親の要望を断っていたが,やがて子供用メニューを開発・提供するようになった。その後,子供用メニューは廃止され,子供もフレンチを消費するように変化した。この店の子供向けメニューの変遷について,筆者および店長の回想場面を記述した。
筆者による店長へのインタビュー記録(抜粋)
筆者:「子供用メニューの始まりを教えて下さい」
店長:「開店してすぐに,子供同伴の親から子供の食べられる物が無いって言われて…」
筆者:「本格フレンチは,子供用メニューは出さない?」
店長:「そう,でも…,今までのフレンチとは逆で出来た店だし…」「さらに,子供連れのお客さんが増えて,シェフが大人用の牛フィレ肉の余りで『お子様フレンチ』を出した」
筆者:「ということは『お子様フレンチ』って,中身は大人用と同じだよね」
店長:「同じ,名前と見た目が違うだけ(笑い)」
筆者:「『お子様フレンチ』を廃止したのはなぜ?」
店長:「さらに子供連れ客が増えて,余り肉が不足に」
筆者:「『お子様フレンチ』をやめてクレームは?」
店長:「いや,その頃は子供連れの親も子供に,大人の料理を食べさせていたから」
筆者:「その後は,苦情もなく?」
店長:「そう,大人と一緒にフレンチを食べるよ,小さな子がお誕生日の時に,『牛フィレ1皿食べに来ました』って言うんだ(笑)」
考察:客は既存のフレンチ店の客としてあるべき規範を超えた欲望(子供用メニューの要望)を表出させ,店はそれを拒否したが客の欲望表出は継続した。それが契機となり,店側は,自ら設定した「Fレストラン」の規範「今までのフレンチとは逆で出来た店だし…」に直面させられ,規範を再考し,「ファミリー・フレンチ」という新たなジャンルの飲食店の規範を構築した。それによって,大人専用と考えられていたフレンチへの子供の来店及び消費という新たな規範が創発された。客による「客としての規範の逸脱」と,店による「店の規範の再考」における互いの利益創発プロセスの結果とその時の状況への依存は,集合的な学習(Lave & Wenger,1991)の場面であったと考える。
店と客の関係は,経済的なマクロ視点においては共存共栄の二つのコミュニティを形成しているとみなされるが,レストランマネジメントにおけるミクロな視点では提案側と選択側であり,利益は背反し,目的は異なる(會津,2016)。本調査では、「生産側」の店と「消費側」の客という目的を異にする二つのコミュニティが当該レストランにおいて協働することで,店の規範に変更を促し,新たな価値が生産・推進される過程を明らかにすることを試みる。
実践者であり,分析者でもある筆者が経営するフレンチレストラン(以下,F店)において店と客の行動を調査・分析し,それぞれの変容を記述する。これにより,飲食店の新しい価値(文化)が生産・推進される過程を示すことを目的とする。
方 法
対象は, F店(開店2年目)店長(男・40代)及び不特定多数の顧客である。実施は2016年5月,方法は,対象者のやりとり及びインタビューを元に記述・分析した。データより,客と店側が互いの規範の逸脱に言及した言葉と行動,新たな規範が生成されることで起こる,お子様メニューの変遷に特に焦点化し分析した。
結果と考察
結果:「Fレストラン」は,既存のフランス料理レストランとは違ったコンセプト―(1)セルフサービス(2)券売機清算(3)バリュー価格(品質に比べて価格が低いこと)の割に(4)料理は本格的なフランス料理(以下フレンチ)―を提供する(5)大人のための店として開店した。開店後,子供連れの若いファミリー層の来店が増加するとともに,親達から子供用メニューの要望が相次いだ。店は当初「大人のための本格的フレンチ(4)(5)」から,親の要望を断っていたが,やがて子供用メニューを開発・提供するようになった。その後,子供用メニューは廃止され,子供もフレンチを消費するように変化した。この店の子供向けメニューの変遷について,筆者および店長の回想場面を記述した。
筆者による店長へのインタビュー記録(抜粋)
筆者:「子供用メニューの始まりを教えて下さい」
店長:「開店してすぐに,子供同伴の親から子供の食べられる物が無いって言われて…」
筆者:「本格フレンチは,子供用メニューは出さない?」
店長:「そう,でも…,今までのフレンチとは逆で出来た店だし…」「さらに,子供連れのお客さんが増えて,シェフが大人用の牛フィレ肉の余りで『お子様フレンチ』を出した」
筆者:「ということは『お子様フレンチ』って,中身は大人用と同じだよね」
店長:「同じ,名前と見た目が違うだけ(笑い)」
筆者:「『お子様フレンチ』を廃止したのはなぜ?」
店長:「さらに子供連れ客が増えて,余り肉が不足に」
筆者:「『お子様フレンチ』をやめてクレームは?」
店長:「いや,その頃は子供連れの親も子供に,大人の料理を食べさせていたから」
筆者:「その後は,苦情もなく?」
店長:「そう,大人と一緒にフレンチを食べるよ,小さな子がお誕生日の時に,『牛フィレ1皿食べに来ました』って言うんだ(笑)」
考察:客は既存のフレンチ店の客としてあるべき規範を超えた欲望(子供用メニューの要望)を表出させ,店はそれを拒否したが客の欲望表出は継続した。それが契機となり,店側は,自ら設定した「Fレストラン」の規範「今までのフレンチとは逆で出来た店だし…」に直面させられ,規範を再考し,「ファミリー・フレンチ」という新たなジャンルの飲食店の規範を構築した。それによって,大人専用と考えられていたフレンチへの子供の来店及び消費という新たな規範が創発された。客による「客としての規範の逸脱」と,店による「店の規範の再考」における互いの利益創発プロセスの結果とその時の状況への依存は,集合的な学習(Lave & Wenger,1991)の場面であったと考える。