日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PD] ポスター発表 PD(01-68)

2019年9月15日(日) 10:00 〜 12:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PD26] 小・中学生の教科別学習観(6)

小学6年生の学習観と記述課題回答の関連

鈴木豪1, 石橋優美2, 青柳尚朗3 (1.群馬大学, 2.共立女子大学, 3.東京大学大学院)

キーワード:学習観、記述型課題、小学生

問題と目的
 知識の獲得や利用を方向づけ規定するメタ認知の重要な側面として,学習観があると考えられる(藤村, 2008)が,複数の教科についての差異や関連を検討したものは少ない。
 鈴木・石橋・青柳(2018)などは,小学5年~中学2年生を対象に,国語・算数/数学・社会・理科の4教科の学習観について尋ねる質問紙調査を行い,教科間や学年間に得点差が見られることを明らかにした。鈴木(2016a)は,学習一般に関する学習観尺度得点と記述課題の回答に関連が見られることを示した。また,鈴木(2016b)は,同じグラフに対する読み取りを行う課題であっても,社会科の課題として回答する場合と,算数の課題として回答する場合で,回答に変化が見られることを報告している。本稿では,教科別の学習観と記述型の課題回答との関連が見られるかを検討する。
方  法
調査対象者と調査時期 静岡県内の公立小学校の6年生144名を対象とした。2018年2月の終わり頃に収集された。なお,本稿で分析対象とするデータは,鈴木・石橋・青柳(2018)で用いられたデータの一部である。
調査内容と調査手続き 鈴木(2013)による学習一般に関する学習観尺度の項目から,意味理解志向学習観と暗記再生志向学習観の5項目ずつを採用し,それぞれの項目について,「国語の学習において~」などと文言を追加した。また,追加された文言に併せて若干の表現の修正を行った。1教科あたり10項目で,質問項目は合計で40項目であった。調査は,学級ごとに教科の順番を入れ替え,学級担任の指示のもと実施した。
 学習観との関連を検討する課題として,2題を設定した。(1)鈴木(2016a)がPISA調査課題(国立教育政策研究所, 2001)を参考に作成した,2本の下部が省略された棒グラフに対する架空人物による説明について,適切か否かを判断する課題(餃子課題)と,(2)2種類の温度の水を混ぜ合わせた場合の温度を問う課題(金田(2009),Nesher(1990)を参考に作成, 温度課題)を用いた。調査対象者をランダムに2分し,いずれか一問の回答を求めた。
結果と考察
餃子課題
 棒グラフの見た目のみで判断せず,具体的な数値を読み取った上で判断した回答を1,そうでない回答を0として目的変数とし,4教科の2種の学習観尺度得点を説明変数としてロジスティック回帰分析を行った。その結果,説明変数のないモデルとの差は有意でなかった(χ2(8)=14.40, p=.072)。
 この課題は,グラフに付随する説明回答として,グラフ読み取り結果そのものでなく,架空人物の言葉の選択等に言及する回答が多かった(e.g., このような言い方は聞き手が嫌な思いをするので不適切)。事前に学習観尺度への回答を求めたこと自体が影響した可能性も考えられる。
温度課題
 混ぜた水の温度が元よりも低くなるとした回答を1,そうでない回答を0として目的変数とし,餃子課題と同様の分析を行った。説明変数を投入しないモデルとの比較をしたところ,学習観を説明変数として投入したモデルと差は有意であった(χ2(8)=14.40, p=.034)。Table 1に結果を示す。
 国語の意味理解志向学習観の得点が高いほど,水を混ぜるとその温度は単純な加法では求められないと考える回答になる確率が高かった。本課題は,算数または理科の側面を持つ課題として想定したが,関連が見られたのは国語学習観であった。文章題の文章を読み,現実場面でどうなっているかを考えなければ,本課題に適切に回答することができない。一方で,場面想定ができれば,回答を得るための計算は難しくなく,国語の学習観との関連が見られた可能性がある。
付  記
 本研究は,公益財団法人博報児童教育振興会 第12回児童教育実践についての研究助成を受けて実施された。