[PD28] グループワークによる議論関連能力の学習
失敗と成功の振り返りの影響に及ぼす知能観の調整効果
キーワード:成功経験と失敗経験、リフレクション、知能観
問 題
授業中に実施したグループでのディスカッションやディベートによって,学生の議論する力やチームで協働する力はどのように育成されるのであろうか。教育の手法や形態が多様化する中で,その効果の検証は十分とは言い難い。本研究では,議論に関わるスキルとして,“ディスカッション・スキル”の議事進行と論理構成の2因子,そしてコミュニケーションにおける “基本スキル(堀毛,1994)”の解読,統制,記号化の3因子を取り上げ,グループによる議論や発表を行う授業前後の変化を測定する。そして,自他の成功や失敗を意図的,認知的に振り返る程度が議論に関わるスキルの学習効果を高めること,それは個人の能力や知能に対する信念を意味する知能観(Dweck, 1999)によって調整されることを検証した。
方 法
調査対象者:福岡県内の学生80名。(性別:女性24名,男性56名。学年:1年79名,不明1名)
調査時期:2018年10月から2019年1月
手続き:1年次後期に実施される全学共通科目の一部として調査を実施した。授業では学生はテーマについてグループで議論と発表を行う。各グループには上級生をCommunication Assistance (CA)として配置。グループに対してフィードバックを実施した。授業期間は週2コマ×4週で授業前後にアンケートを実施した。
調査項目:
以下の尺度を7件法でたずねた。
①ディスカッション・スキル:議論に必要なスキルとして新たに作成した11項目
②基本的スキル尺度(堀毛,1994):解読,統制,実行の3因子13項目 ③自尊心尺度Rosenberg,1965):10項目④知能観(Hong,Chiu, Dweck, Lin, & Wan,1999):得点が高いほど個人の能力や技術は柔軟で可変性を持つという信念を持つ(3項目)⑤成功経験と失敗経験の振り返り(藤村,2014):自己成功,自己失敗,他者成功,他者失敗について各2項目で経験の振り返りの程度を尋ねた。
結果と考察
まず“議論”に関わる尺度について,ポストテストの得点からプレテストの得点を差し引いた変化量を算出した。次に,自他の成功と失敗の振り返りと知能観を説明変数,議論に関わる尺度の各下位尺度を目的変数とした階層的重回帰分析を行った(表1)。
分析の結果,基本的スキルの「解読」以外の下位尺度において,交互作用が有意であった。結果を概観すると,(1)自己の成功経験の振り返りは,他者の失敗や成功のふり返りとの調整効果を持つこと,(2)知能観は,自他の失敗と成功の振り返りと調整効果を示すことが分かった。そして,単純傾斜の分析の結果,自己の成功経験の振り返りの高低,もしくは知能観の高低によって,他者の成功や失敗の振り返りの効果に違いが生じていた。
今後の課題として,学生の個人要因以外に,授業中のフィードバックの効果やグループ要因などの状況要因の検討が必要と思われた。
付 記
調査に際して講義担当者の山田政寛先生(九州大学基幹教育院)の協力を得ました。深く御礼申し上げます。
授業中に実施したグループでのディスカッションやディベートによって,学生の議論する力やチームで協働する力はどのように育成されるのであろうか。教育の手法や形態が多様化する中で,その効果の検証は十分とは言い難い。本研究では,議論に関わるスキルとして,“ディスカッション・スキル”の議事進行と論理構成の2因子,そしてコミュニケーションにおける “基本スキル(堀毛,1994)”の解読,統制,記号化の3因子を取り上げ,グループによる議論や発表を行う授業前後の変化を測定する。そして,自他の成功や失敗を意図的,認知的に振り返る程度が議論に関わるスキルの学習効果を高めること,それは個人の能力や知能に対する信念を意味する知能観(Dweck, 1999)によって調整されることを検証した。
方 法
調査対象者:福岡県内の学生80名。(性別:女性24名,男性56名。学年:1年79名,不明1名)
調査時期:2018年10月から2019年1月
手続き:1年次後期に実施される全学共通科目の一部として調査を実施した。授業では学生はテーマについてグループで議論と発表を行う。各グループには上級生をCommunication Assistance (CA)として配置。グループに対してフィードバックを実施した。授業期間は週2コマ×4週で授業前後にアンケートを実施した。
調査項目:
以下の尺度を7件法でたずねた。
①ディスカッション・スキル:議論に必要なスキルとして新たに作成した11項目
②基本的スキル尺度(堀毛,1994):解読,統制,実行の3因子13項目 ③自尊心尺度Rosenberg,1965):10項目④知能観(Hong,Chiu, Dweck, Lin, & Wan,1999):得点が高いほど個人の能力や技術は柔軟で可変性を持つという信念を持つ(3項目)⑤成功経験と失敗経験の振り返り(藤村,2014):自己成功,自己失敗,他者成功,他者失敗について各2項目で経験の振り返りの程度を尋ねた。
結果と考察
まず“議論”に関わる尺度について,ポストテストの得点からプレテストの得点を差し引いた変化量を算出した。次に,自他の成功と失敗の振り返りと知能観を説明変数,議論に関わる尺度の各下位尺度を目的変数とした階層的重回帰分析を行った(表1)。
分析の結果,基本的スキルの「解読」以外の下位尺度において,交互作用が有意であった。結果を概観すると,(1)自己の成功経験の振り返りは,他者の失敗や成功のふり返りとの調整効果を持つこと,(2)知能観は,自他の失敗と成功の振り返りと調整効果を示すことが分かった。そして,単純傾斜の分析の結果,自己の成功経験の振り返りの高低,もしくは知能観の高低によって,他者の成功や失敗の振り返りの効果に違いが生じていた。
今後の課題として,学生の個人要因以外に,授業中のフィードバックの効果やグループ要因などの状況要因の検討が必要と思われた。
付 記
調査に際して講義担当者の山田政寛先生(九州大学基幹教育院)の協力を得ました。深く御礼申し上げます。