[PD39] 他者意識は対象や知的好奇心の高さによって異なるのか
キーワード:他者意識、共感的好奇心、知識量
問題と目的
学習指導要領では,学習方法としてアクティブ・ラーニングの視点からの授業作りが強調され「主体的・対話的で深い学び」という点から授業改善を行うことが推奨されている(文部科学省,2017)。特に,主体的な学びでは,学ぶことに興味や関心を持つこと,すなわち,学習課題に対して知的好奇心を持つことが学びにおいて大きな役割を果たすことが予想される。
野上(2018)は,知的好奇心とそれに基づく行動には,対象についての知識量が多い分野と少ない分野で違いがあると想定し,知識量を多いと評定した分野の知的好奇心が知識量を少ないと評定した分野のそれよりも高く,学習行動もより適応的であることを示した。
一方で,対話的で協同的な学びでは,学びの仲間に対する興味や関心を持つことが不可欠である。なぜなら,仲間の学習状態や考え,感情を知らなければ,仲間への関わり方が一方的なものとなったり,集団での活動にも関わらず自己中心的な活動に終始してしまったりするからである。
この他者の思考や感情に対する興味関心は,共感的好奇心と呼ばれ,社会的認知や情動知性との関連が示されている(e.g., Mar, 2011)。一方で,知的好奇心との関連や知的好奇心と同様の過程を持つのか否かは明らかになっていない。
そこで,本研究では共感的好奇心の指標として他者意識を取り上げ,他者に対する興味や関心がパーソナリティ特性としての知的好奇心(拡散的好奇心・特殊的好奇心)の高低によって異なるか否かを検討する。また,野上(2018)が示した知識量の違いによって好奇心に差が生じる現象が,共感的好奇心においても起きるのか否かについても検討する。
方 法
対象者 大学生125名(女性112名,男性13名,平均年齢19.1歳)
質問紙 (1)知的好奇心尺度12項目(西川・雨宮, 2015),(2)他者意識尺度15項目(辻, 1993),で構成した。(2)の尺度は,対象を変えて2回評定させており,質問紙は全42項目であった。
手続き 回答用紙を配布し,対象者のペースで回答させた。全ての項目は5件法により,自分にどの程度当てはまるかを回答させた。(2)の尺度は,親しい人(家族・友人・恋人)と全く関わりのない他者を想定させて,それぞれ回答させた。回答時間は約10分であった。
結 果
親しい人と全く関わりのない他者に対する他者意識尺度の得点の平均と標準偏差を下位尺度ごとに示したものがTable 1である。対象に関する知識量の多い親しい人と少ない他者で各尺度の平均に差があるか否かを調べるために対応のあるt検定を行った。その結果,内的他者意識と空想的他者意識において,親しい人の平均得点が他者のそれよりも有意に高かった。
次に,パーソナリティ特性としての知的好奇心の高低によって対象ごとの他者意識に差があるか否かを検討するために,拡散的好奇心得点の高群と低群,および,特殊的好奇心の高群と低群を参加者間要因とする2×2の混合計画による分散分析を行った。その結果,全ての分析で交互作用は有意でなかった。外的他者意識では両要因の主効果も有意ではなかった。対象要因は内的他者意識と空想的他者意識において主効果が有意(Fs>77.31)であった。拡散的好奇心の要因も内的他者意識と空想的他者意識において主効果が有意(Fs>5.25)であった。しかし,特殊的好奇心の要因は内的他者意識と空想的他者意識の主効果は有意ではなかった。
考 察
対象に関する知識量が多い親しい人の内面的他者意識や空想的他者意識は,対象に関する知識がない他者へのそれらより高いことから,共感的好奇心も知的好奇心と同様に,知識量と情報探索傾向に関連があることが示された。また,外見上の変化や特徴に対する気づきには対象の違いや好奇心による差はないことも明らかになった。一方で,共感的好奇心における対象と知的好奇心の交互作用は有意でなく,好奇心が高いからといって関係のほとんどない他者の内面に親しい人と同様に興味関心を持つわけではないことが示された。
学習指導要領では,学習方法としてアクティブ・ラーニングの視点からの授業作りが強調され「主体的・対話的で深い学び」という点から授業改善を行うことが推奨されている(文部科学省,2017)。特に,主体的な学びでは,学ぶことに興味や関心を持つこと,すなわち,学習課題に対して知的好奇心を持つことが学びにおいて大きな役割を果たすことが予想される。
野上(2018)は,知的好奇心とそれに基づく行動には,対象についての知識量が多い分野と少ない分野で違いがあると想定し,知識量を多いと評定した分野の知的好奇心が知識量を少ないと評定した分野のそれよりも高く,学習行動もより適応的であることを示した。
一方で,対話的で協同的な学びでは,学びの仲間に対する興味や関心を持つことが不可欠である。なぜなら,仲間の学習状態や考え,感情を知らなければ,仲間への関わり方が一方的なものとなったり,集団での活動にも関わらず自己中心的な活動に終始してしまったりするからである。
この他者の思考や感情に対する興味関心は,共感的好奇心と呼ばれ,社会的認知や情動知性との関連が示されている(e.g., Mar, 2011)。一方で,知的好奇心との関連や知的好奇心と同様の過程を持つのか否かは明らかになっていない。
そこで,本研究では共感的好奇心の指標として他者意識を取り上げ,他者に対する興味や関心がパーソナリティ特性としての知的好奇心(拡散的好奇心・特殊的好奇心)の高低によって異なるか否かを検討する。また,野上(2018)が示した知識量の違いによって好奇心に差が生じる現象が,共感的好奇心においても起きるのか否かについても検討する。
方 法
対象者 大学生125名(女性112名,男性13名,平均年齢19.1歳)
質問紙 (1)知的好奇心尺度12項目(西川・雨宮, 2015),(2)他者意識尺度15項目(辻, 1993),で構成した。(2)の尺度は,対象を変えて2回評定させており,質問紙は全42項目であった。
手続き 回答用紙を配布し,対象者のペースで回答させた。全ての項目は5件法により,自分にどの程度当てはまるかを回答させた。(2)の尺度は,親しい人(家族・友人・恋人)と全く関わりのない他者を想定させて,それぞれ回答させた。回答時間は約10分であった。
結 果
親しい人と全く関わりのない他者に対する他者意識尺度の得点の平均と標準偏差を下位尺度ごとに示したものがTable 1である。対象に関する知識量の多い親しい人と少ない他者で各尺度の平均に差があるか否かを調べるために対応のあるt検定を行った。その結果,内的他者意識と空想的他者意識において,親しい人の平均得点が他者のそれよりも有意に高かった。
次に,パーソナリティ特性としての知的好奇心の高低によって対象ごとの他者意識に差があるか否かを検討するために,拡散的好奇心得点の高群と低群,および,特殊的好奇心の高群と低群を参加者間要因とする2×2の混合計画による分散分析を行った。その結果,全ての分析で交互作用は有意でなかった。外的他者意識では両要因の主効果も有意ではなかった。対象要因は内的他者意識と空想的他者意識において主効果が有意(Fs>77.31)であった。拡散的好奇心の要因も内的他者意識と空想的他者意識において主効果が有意(Fs>5.25)であった。しかし,特殊的好奇心の要因は内的他者意識と空想的他者意識の主効果は有意ではなかった。
考 察
対象に関する知識量が多い親しい人の内面的他者意識や空想的他者意識は,対象に関する知識がない他者へのそれらより高いことから,共感的好奇心も知的好奇心と同様に,知識量と情報探索傾向に関連があることが示された。また,外見上の変化や特徴に対する気づきには対象の違いや好奇心による差はないことも明らかになった。一方で,共感的好奇心における対象と知的好奇心の交互作用は有意でなく,好奇心が高いからといって関係のほとんどない他者の内面に親しい人と同様に興味関心を持つわけではないことが示された。