[PD54] 保育実習生のワーク・エンゲイジメントに関する研究
JD-Rモデルに基づくコーピング仮説の検証
Keywords:保育実習生、ワーク・エンゲイジメント、コーピング仮説
問題と目的
金子(2017)は,保育実習生にワークエンゲイジメントの仕事資源-要求度(JD-R)モデルを適用し,動機づけプロセスのモデルを検証した。本研究では,JD-Rモデルのコーピング仮説を検証することを目的とする。コーピング仮説とは,仕事資源と個人資源は,特に仕事要求度が高い場合に,ワーク・エンゲイジメントの促進に大きく寄与するという仮説を意味する(Bakker et al., 2007)。この仮説に基づくと,保育実習生が実習中に強い困難度(仕事要求度)を認識した際,仕事資源としての指導教諭の指導スタイル及び個人資源としての保育職の適性感と保育者効力感は,ワーク・エンゲイジメントを促進すると予想される。
方 法
調査対象者及び手続き:埼玉県内の保育者養成系の女子短大生258名(1年生:132名,2年生:126名)を対象に,2016年5月から9月にかけて質問紙調査を行った。1年生(観察・参加実習1週間)と2年生(指導実習3週間)共に,教育実習事前・事後指導の講義を活用して行われた。事前と事後の計2回質問紙を配布し,回収した。
調査内容:実習前の質問紙は,(a)保育職の適性感(西山, 2007)の2項目,(b)保育者効力感(三木・桜井,1998)の10項目である。実習後の質問紙は,(c)指導教諭の指導スタイルの12項目(自律性サポート,構造,関わり合いの各4項目),(d)Shimazu et al(2008)を参考に作成した実習に対するワークエンゲイジメントの9項目,(e)「幼稚園教育実習生困難測定尺度(SDKT)」(金子, 2013)の幼児指導,幼児との接触法,実習記録,に関する17項目。
結果と考察
学年別に,ワーク・エンゲイジメントを従属変数,センタリング処理を行った6つの変数(指導教諭の指導スタイル,保育職の適性感,保育者効力感,実習記録,幼児指導,幼児との接触法)を独立変数とする階層的重回帰分析を行った。
第1ステップに仕事資源もしくは個人資源の1変数と仕事要求度の1変数,第2ステップに各々の変数の交互作用項を投入して,回帰分析を行った。交互作用が有意であったのは,1年生の保育職の適性感と幼児指導(β =.25, p<.05),1年生の保育者効力感と幼児との接触法(β =.26, p<.05)の2つであった。さらに,交互作用がみられた変数に関して,Aiken&West(1991)の手順に基づき,単純傾斜検定を行った。その結果,幼児指導の困難度が高い場合の保育職の適性感(β =.40, p<.01)と幼児との接触法が高い場合の保育者効力感の影響(β =.26, p<.05)が有意であった(Figure 1参照)。
保育職の適性感と保育者効力感は,ワーク・エンゲイジメントや実習成果を高めるだけでなく(金子, 2017),実習生が幼児との関わりに強い困難感を抱いた際のコーピングとして機能することが示唆された。ストレス・コーピングの観点から,養成校の教員が学生の適性感や効力感を向上させることの教育的意義が示された。
金子(2017)は,保育実習生にワークエンゲイジメントの仕事資源-要求度(JD-R)モデルを適用し,動機づけプロセスのモデルを検証した。本研究では,JD-Rモデルのコーピング仮説を検証することを目的とする。コーピング仮説とは,仕事資源と個人資源は,特に仕事要求度が高い場合に,ワーク・エンゲイジメントの促進に大きく寄与するという仮説を意味する(Bakker et al., 2007)。この仮説に基づくと,保育実習生が実習中に強い困難度(仕事要求度)を認識した際,仕事資源としての指導教諭の指導スタイル及び個人資源としての保育職の適性感と保育者効力感は,ワーク・エンゲイジメントを促進すると予想される。
方 法
調査対象者及び手続き:埼玉県内の保育者養成系の女子短大生258名(1年生:132名,2年生:126名)を対象に,2016年5月から9月にかけて質問紙調査を行った。1年生(観察・参加実習1週間)と2年生(指導実習3週間)共に,教育実習事前・事後指導の講義を活用して行われた。事前と事後の計2回質問紙を配布し,回収した。
調査内容:実習前の質問紙は,(a)保育職の適性感(西山, 2007)の2項目,(b)保育者効力感(三木・桜井,1998)の10項目である。実習後の質問紙は,(c)指導教諭の指導スタイルの12項目(自律性サポート,構造,関わり合いの各4項目),(d)Shimazu et al(2008)を参考に作成した実習に対するワークエンゲイジメントの9項目,(e)「幼稚園教育実習生困難測定尺度(SDKT)」(金子, 2013)の幼児指導,幼児との接触法,実習記録,に関する17項目。
結果と考察
学年別に,ワーク・エンゲイジメントを従属変数,センタリング処理を行った6つの変数(指導教諭の指導スタイル,保育職の適性感,保育者効力感,実習記録,幼児指導,幼児との接触法)を独立変数とする階層的重回帰分析を行った。
第1ステップに仕事資源もしくは個人資源の1変数と仕事要求度の1変数,第2ステップに各々の変数の交互作用項を投入して,回帰分析を行った。交互作用が有意であったのは,1年生の保育職の適性感と幼児指導(β =.25, p<.05),1年生の保育者効力感と幼児との接触法(β =.26, p<.05)の2つであった。さらに,交互作用がみられた変数に関して,Aiken&West(1991)の手順に基づき,単純傾斜検定を行った。その結果,幼児指導の困難度が高い場合の保育職の適性感(β =.40, p<.01)と幼児との接触法が高い場合の保育者効力感の影響(β =.26, p<.05)が有意であった(Figure 1参照)。
保育職の適性感と保育者効力感は,ワーク・エンゲイジメントや実習成果を高めるだけでなく(金子, 2017),実習生が幼児との関わりに強い困難感を抱いた際のコーピングとして機能することが示唆された。ストレス・コーピングの観点から,養成校の教員が学生の適性感や効力感を向上させることの教育的意義が示された。