[PD56] 小学生のGritとストレス反応との関連
Keywords:小学生、Grit(やり抜く力)、ストレス反応
問題と目的
平成24年度から平成28年度の5年間で,学校内でスクールカウンセラー,相談員による専門的な相談を受けた児童生徒は約11000人増加しており(文部科学省,2017),いじめ,暴力,不登校などの学校不適応行動は深刻な状況であると考えられる。学校不適応行動の原因にはいろいろ考えられるが,友人関係や学業等のストレス反応が蓄積し,陰性のストレス発散行動として表出することがその一つとして考えられている(島,1997)。
文部科学省(2017)は,資質・能力を子どもたちに育むことの重要性を示している。これまでIQなどの認知的な能力に関心が向けられてきたが,ここ最近の非認知的能力への注目度は高い。本研究では,国立教育政策研究所(2017)の研究でも取り上げられているGritに注目する。
Duckworth,Peterson,Matthews,&Kelly (2007)は,長期的な目標を達成することができるか,ということに着目し,「長期目標に向けての粘り強さと情熱」がGritであると定義し,それを測定する尺度を開発した。Gritは米軍の陸軍士官学校や陸軍特殊部隊の選抜コースの厳しい訓練を耐え抜いたり,英単語スペリングコンテストで優勝したりするなど,様々な領域における達成との関連が示されている(Duckworth,2016)。Duckworth&Quinn(2009)は,8項目版のShort Grit(Grit-S)尺度を作成し,本邦でも西上・奥上・雨宮(2015)により,日本語訳された日本語版Grit-S尺度が開発された。
以上を踏まえ,本研究では小学生のGritとストレス反応の関連について検討することを目的とする。仮説としてGritは「根気」と「一貫性」の2つの下位尺度から成り,基本には「やり抜く力」があるので,ストレス反応の「無気力」との間には負の相関関係がみられることが予測される。
方 法
調査時期:20XX年12月 対象学級:公立小学校4~6年生230名 測定用具:日本語版Grit-S尺度(西川・奥上・雨宮,2015)を小学生用に書き変えたもの8項目,②小学生用ストレス反応尺度(嶋田・戸ヶ崎・坂野,1994)20項目を使用した。
調査手続き:学校長,学級担任に承諾を得た上で,学級ごとに集団方式で質問紙における調査を実施した。調査を実施するにあたり,この調査は学校の成績に関係がないこと,回答は強制ではなく回答しなくても不利益を被らないこと,回答は担任教師を含め教職員に見られることなく,データ処理されること,個人のプライバシーは守られることが調査参加者に伝えられた。また,上記内容についてはフェイスシートにも明記した。
結 果
(1)各尺度の因子構造
小学生用Grit-S尺度8項目については逆転項目を処理した上で最尤法,プロマックス回転による因子分析を行った。その結果,先行研究と同様の2因子構造が確認された。小学生用ストレス反応尺度20項目については主因子法,バリマックス回転による因子分析の結果,ほぼ先行研究と同様の4因子構造が確認された。
(2)小学生のGritとストレス反応との関連
「Grit-S」と,「身体的反応」「抑うつ・不安感情」との間にはほとんど相関がみられなかった。「Grit-S」と「不機嫌・怒り」(r=-.26,p<.01),「無気力」(r=-.48,p<.01) との間には有意な負の相関がみられた。結果をTable1に示した。
考 察
POMS短縮版(横山,2005)を用いた西上ら(2015)の報告におけるGritと「抑うつ感」「不安」「怒り-敵意」との間にはほとんど相関がみられなかったという結果は,本研究における小学生用ストレス反応尺度の下位尺度「抑うつ・不安感情」においても同じ傾向を示した。しかし本研究ではGritと「不機嫌・怒り」との間に有意な負の相関がみられ,先行研究と異なる結果となった。それが,「怒り-敵意」と「不機嫌・怒り」という下位尺度のニュアンスの違いによるものか,または,発達段階等との違いによるものなのかは今後さらに検討が必要である。また,本研究で小学生のGritとストレス反応の関連について,小学生のGritが高いほど,無気力ではなくなることが実証的に示され,仮説は支持されたと考えられる。
平成24年度から平成28年度の5年間で,学校内でスクールカウンセラー,相談員による専門的な相談を受けた児童生徒は約11000人増加しており(文部科学省,2017),いじめ,暴力,不登校などの学校不適応行動は深刻な状況であると考えられる。学校不適応行動の原因にはいろいろ考えられるが,友人関係や学業等のストレス反応が蓄積し,陰性のストレス発散行動として表出することがその一つとして考えられている(島,1997)。
文部科学省(2017)は,資質・能力を子どもたちに育むことの重要性を示している。これまでIQなどの認知的な能力に関心が向けられてきたが,ここ最近の非認知的能力への注目度は高い。本研究では,国立教育政策研究所(2017)の研究でも取り上げられているGritに注目する。
Duckworth,Peterson,Matthews,&Kelly (2007)は,長期的な目標を達成することができるか,ということに着目し,「長期目標に向けての粘り強さと情熱」がGritであると定義し,それを測定する尺度を開発した。Gritは米軍の陸軍士官学校や陸軍特殊部隊の選抜コースの厳しい訓練を耐え抜いたり,英単語スペリングコンテストで優勝したりするなど,様々な領域における達成との関連が示されている(Duckworth,2016)。Duckworth&Quinn(2009)は,8項目版のShort Grit(Grit-S)尺度を作成し,本邦でも西上・奥上・雨宮(2015)により,日本語訳された日本語版Grit-S尺度が開発された。
以上を踏まえ,本研究では小学生のGritとストレス反応の関連について検討することを目的とする。仮説としてGritは「根気」と「一貫性」の2つの下位尺度から成り,基本には「やり抜く力」があるので,ストレス反応の「無気力」との間には負の相関関係がみられることが予測される。
方 法
調査時期:20XX年12月 対象学級:公立小学校4~6年生230名 測定用具:日本語版Grit-S尺度(西川・奥上・雨宮,2015)を小学生用に書き変えたもの8項目,②小学生用ストレス反応尺度(嶋田・戸ヶ崎・坂野,1994)20項目を使用した。
調査手続き:学校長,学級担任に承諾を得た上で,学級ごとに集団方式で質問紙における調査を実施した。調査を実施するにあたり,この調査は学校の成績に関係がないこと,回答は強制ではなく回答しなくても不利益を被らないこと,回答は担任教師を含め教職員に見られることなく,データ処理されること,個人のプライバシーは守られることが調査参加者に伝えられた。また,上記内容についてはフェイスシートにも明記した。
結 果
(1)各尺度の因子構造
小学生用Grit-S尺度8項目については逆転項目を処理した上で最尤法,プロマックス回転による因子分析を行った。その結果,先行研究と同様の2因子構造が確認された。小学生用ストレス反応尺度20項目については主因子法,バリマックス回転による因子分析の結果,ほぼ先行研究と同様の4因子構造が確認された。
(2)小学生のGritとストレス反応との関連
「Grit-S」と,「身体的反応」「抑うつ・不安感情」との間にはほとんど相関がみられなかった。「Grit-S」と「不機嫌・怒り」(r=-.26,p<.01),「無気力」(r=-.48,p<.01) との間には有意な負の相関がみられた。結果をTable1に示した。
考 察
POMS短縮版(横山,2005)を用いた西上ら(2015)の報告におけるGritと「抑うつ感」「不安」「怒り-敵意」との間にはほとんど相関がみられなかったという結果は,本研究における小学生用ストレス反応尺度の下位尺度「抑うつ・不安感情」においても同じ傾向を示した。しかし本研究ではGritと「不機嫌・怒り」との間に有意な負の相関がみられ,先行研究と異なる結果となった。それが,「怒り-敵意」と「不機嫌・怒り」という下位尺度のニュアンスの違いによるものか,または,発達段階等との違いによるものなのかは今後さらに検討が必要である。また,本研究で小学生のGritとストレス反応の関連について,小学生のGritが高いほど,無気力ではなくなることが実証的に示され,仮説は支持されたと考えられる。