[PE04] 大学生を対象としたASRS(成人期のADHD自己記入式症状チェックリスト)についての一考察
その信頼性と妥当性
キーワード:ADHD、ASRS、大学生
問題と目的
子どものADHDの有病率は,3~7%といわれている。(APA 2000)ADHDの注意欠如,多動性や衝動性の症状は年齢とともに減少し,変化していくが,30~60%は,大人になってもADHDの症状が継続する。(Mannuzzaら 1993)日本学生支援機構の調査では,診断書を有するADHDの学生は,997人で前年度(667人)より増加している。さらに診断書はないがADHDであることが推察され,教育上の配慮を行っている大学生も491人いると報告されている。インターネットなどで無償で利用できる簡易な自己記入式のADHDのチェックリストなどは,大学生活に困難を感じながらも相談を迷っている学生にとって,支援への一歩を踏み出すきっかけとなるかもしれない。そこで本研究では,大学生に対する,成人期のADHD自己記入式症状チェックリストであるASRS v1-1(WHO・Kesslerら2005)の信頼性と妥当性の検証の一助とすることを目的とする。
方 法
研究の目的と方法・倫理的配慮について,文書および口頭にて説明し,同意が得られた大学生340人(女性256人,男性84人。年齢18~24歳,平均年齢19.24±1.44。)を対象として,以下の自己記入式の質問紙調査を行った。
①回答者の属性(所属・性別・年齢)
②ASRS v1-1(以下ASRS):6項目に5段階評定で回答。
③ASRSの5段階評定の「時々」「頻繁」「非常に頻繁」は、どの程度の頻度を想定したかを、(年に・月に・週に)と(1~2・3~4・5~6・7)の選択肢から各1つずつ選択。
④CAARS日本語版(中村ら 2012):9つの下位尺度からなる66項目に4段階評定で回答。
結果と考察
(1)ASRSの信頼性
ASRSの内的整合性による信頼性を検討するために,クロンバックのα係数を求めたところ,α=.65であった。高いとはいえないが,項目数が6であることや,修正済み項目合計相関ですべての項目間で正の相関がみられたこと,項目が削除された場合のクロンバックのαが特に高い値を示すものがなかったことから,ある程度の信頼性があるものと考えられた。
(2)ASRSの各項目点および合計点の男女差
対象者である大学生のASRSの合計点の平均は8.76,標準偏差は3.44であった。各項目点および合計点に男女差があるかを調べるためにt検定を行った。「物事を行うにあたって難関は乗り越えたのに,最後の詳細をまとめて仕上げるのが困難だったことが,どのくらいの頻度でありましたが」「計画性を要する仕事を行う際に、作業を順序立てるのが困難だったことがどのくらいの頻度でありましたか」(p<.05),「約束や用事を忘れたことが、どのくらいの頻度でありましたか」「長時間座っていなければならない時に、手足を揺すったり、身もだえしたことがどのくらいの頻度でありましたか」(p<.01)の4項目と合計点が,有意に男性の方が高かった。
(3)ASRSの妥当性
ASRSの妥当性を検討するために,ASRSの合計得点と標準化されているCAARS日本語版の9つの下位尺度得点について,相関分析を行った。「D 自己概念の問題」のみr=.35とやや弱かったが、「A 不注意・記憶の問題」(r=.56),「B 多動性・落ち着きのなさ」(r=.46),「C 衝動性・情緒不安定」(r=.48),「E DSM-Ⅳ不注意症状」(r=.60)、「F DSM-Ⅳ多動性・衝動性症状」(r=.49),「G DSM-Ⅳ総合ADHD症状」(r=.60),「H ADHD指標」(r=.60)のいずれにおいても有意な中等度の正の相関がみられた。これらの結果から,ASRSは成人期のADHD症状チェックリストとして基準連関妥当性が高いことが確認された。
(4)ASRSにおける陽性率
ASRSでは,6項目中4項目以上で規定以上の頻度が見られた場合,ADHDの症状を持っている可能性があるとされている。(WHO・Kesslerら2005)今回の対象者である大学生では,43人(12.6%)が陽性であった。(4問該当31人(9.3%),5問該当11人(3.2%),6問該当1人(.3%)。)大学生157人を対象としてASRSを行った三宅ら(2016)の調査では,陽性率は41.4%であった。中村ら(2013)が18歳から49歳の男女3910人を対象としてASRSを行った調査では,5.0%が陽性で,20代に多いことが報告されている。CAARSのT得点70をカットオフポイントとすると,今回の大学生のADHD陽性者は,18人(5.3%)であった。
当日は、更に詳細に報告したい。
子どものADHDの有病率は,3~7%といわれている。(APA 2000)ADHDの注意欠如,多動性や衝動性の症状は年齢とともに減少し,変化していくが,30~60%は,大人になってもADHDの症状が継続する。(Mannuzzaら 1993)日本学生支援機構の調査では,診断書を有するADHDの学生は,997人で前年度(667人)より増加している。さらに診断書はないがADHDであることが推察され,教育上の配慮を行っている大学生も491人いると報告されている。インターネットなどで無償で利用できる簡易な自己記入式のADHDのチェックリストなどは,大学生活に困難を感じながらも相談を迷っている学生にとって,支援への一歩を踏み出すきっかけとなるかもしれない。そこで本研究では,大学生に対する,成人期のADHD自己記入式症状チェックリストであるASRS v1-1(WHO・Kesslerら2005)の信頼性と妥当性の検証の一助とすることを目的とする。
方 法
研究の目的と方法・倫理的配慮について,文書および口頭にて説明し,同意が得られた大学生340人(女性256人,男性84人。年齢18~24歳,平均年齢19.24±1.44。)を対象として,以下の自己記入式の質問紙調査を行った。
①回答者の属性(所属・性別・年齢)
②ASRS v1-1(以下ASRS):6項目に5段階評定で回答。
③ASRSの5段階評定の「時々」「頻繁」「非常に頻繁」は、どの程度の頻度を想定したかを、(年に・月に・週に)と(1~2・3~4・5~6・7)の選択肢から各1つずつ選択。
④CAARS日本語版(中村ら 2012):9つの下位尺度からなる66項目に4段階評定で回答。
結果と考察
(1)ASRSの信頼性
ASRSの内的整合性による信頼性を検討するために,クロンバックのα係数を求めたところ,α=.65であった。高いとはいえないが,項目数が6であることや,修正済み項目合計相関ですべての項目間で正の相関がみられたこと,項目が削除された場合のクロンバックのαが特に高い値を示すものがなかったことから,ある程度の信頼性があるものと考えられた。
(2)ASRSの各項目点および合計点の男女差
対象者である大学生のASRSの合計点の平均は8.76,標準偏差は3.44であった。各項目点および合計点に男女差があるかを調べるためにt検定を行った。「物事を行うにあたって難関は乗り越えたのに,最後の詳細をまとめて仕上げるのが困難だったことが,どのくらいの頻度でありましたが」「計画性を要する仕事を行う際に、作業を順序立てるのが困難だったことがどのくらいの頻度でありましたか」(p<.05),「約束や用事を忘れたことが、どのくらいの頻度でありましたか」「長時間座っていなければならない時に、手足を揺すったり、身もだえしたことがどのくらいの頻度でありましたか」(p<.01)の4項目と合計点が,有意に男性の方が高かった。
(3)ASRSの妥当性
ASRSの妥当性を検討するために,ASRSの合計得点と標準化されているCAARS日本語版の9つの下位尺度得点について,相関分析を行った。「D 自己概念の問題」のみr=.35とやや弱かったが、「A 不注意・記憶の問題」(r=.56),「B 多動性・落ち着きのなさ」(r=.46),「C 衝動性・情緒不安定」(r=.48),「E DSM-Ⅳ不注意症状」(r=.60)、「F DSM-Ⅳ多動性・衝動性症状」(r=.49),「G DSM-Ⅳ総合ADHD症状」(r=.60),「H ADHD指標」(r=.60)のいずれにおいても有意な中等度の正の相関がみられた。これらの結果から,ASRSは成人期のADHD症状チェックリストとして基準連関妥当性が高いことが確認された。
(4)ASRSにおける陽性率
ASRSでは,6項目中4項目以上で規定以上の頻度が見られた場合,ADHDの症状を持っている可能性があるとされている。(WHO・Kesslerら2005)今回の対象者である大学生では,43人(12.6%)が陽性であった。(4問該当31人(9.3%),5問該当11人(3.2%),6問該当1人(.3%)。)大学生157人を対象としてASRSを行った三宅ら(2016)の調査では,陽性率は41.4%であった。中村ら(2013)が18歳から49歳の男女3910人を対象としてASRSを行った調査では,5.0%が陽性で,20代に多いことが報告されている。CAARSのT得点70をカットオフポイントとすると,今回の大学生のADHD陽性者は,18人(5.3%)であった。
当日は、更に詳細に報告したい。