[PE08] 中学生の社会的情動スキルの発達
Keywords:道徳、行動基準、多次元共感性
問 題
近年,OECDでは社会的情動スキルの重要性を指摘している(2015)。日本でも中等教育(中学校)における道徳の教科化に伴い,社会的情動スキルに関連する道徳性への関心が高まっている。道徳性はその発達が線形ではないものの(Nucci&Powers,2014),詳細は明らかにされてはいない。そこで,本研究では中学生を対象に道徳性の調査を実施し,その発達を検討した。
道徳性の測定にはDIT(Rest,1971)がよく用いられるが(Bayley,2011),本研究では認知的側面としてDITと関連のある行動基準(菅原ほか,2006;藤澤ほか,2006),情動的側面として多次元共感性(Davis,1980)を用いた。
方 法
研究の主旨に理解した上で調査の参加に同意が得られ,かつ回答に欠損のなかった中学生368名(1年生125(女性60)名,2年生107(女性64)名,3年生136(女性68)名)であった。
測定尺度として,行動基準尺度(永房他, 2012; 菅原他, 2006)と多次元共感性尺度(Davis, 1980)を用いた。行動基準尺度には自分本位,仲間的セケン,地域的セケン,他者配慮,公共利益といった各下位尺度が設けられており,本研究においても先行研究と同様の因子構造が確認された。それぞれ,DITの発達段階と相関がある(藤澤他,2006)多次元共感性尺度には他者視点,想像,共感,苦痛といった下位尺度が設けられており,他者視点と共感では因子負荷量の低かった1項目を除外したが,下位因子の構造は先行研究と同様であった。
結 果
道徳性の発達差と性差を検討するために,行動基準と多次元共感性の各変数をそれぞれ従属変数として,学年(3)×性別(2)の分散分析を行った。主効果,交互作用の有意水準は1%とした。
行動基準尺度の各変数について,学年の主効果が地域的セケンにのみみられた(1 > 2 ≒ 3年生)。また,性別の主効果が自分本位にのみみられた(男性 > 女性)。次に多次元共感性尺度について,学年の主効果はみられなかった。一方で,全ての変数において性差がみられた(全て女性 > 男性)。なお,各尺度のいずれの変数においても,学年×性別の交互作用効果はみられなかった。
考 察
上述のように,学年を通して得点に差がないか,部分的に下降という発達をしていることが示唆された。よって,道徳性の発達は線形ではないという可能性は部分的には支持された。
一方で,本研究は3学年を対象とした横断調査であった。各学年での教育的な特徴が異なる可能性があるだろう。今後は個人差を統制した上で,発達の個人内変動を検討するべきである。そのため,縦断的に調査を実施する必要がある。
主な引用文献
Nucci, L. & Powers, D. W. (2014). Handbook of moral and character education (2nd. ed., pp. 121-139). New York: Routledge.
付 記
本研究は科研費(18K13176),公益財団法人博報児童教育振興会(2019-025)のサポートを受けています。
近年,OECDでは社会的情動スキルの重要性を指摘している(2015)。日本でも中等教育(中学校)における道徳の教科化に伴い,社会的情動スキルに関連する道徳性への関心が高まっている。道徳性はその発達が線形ではないものの(Nucci&Powers,2014),詳細は明らかにされてはいない。そこで,本研究では中学生を対象に道徳性の調査を実施し,その発達を検討した。
道徳性の測定にはDIT(Rest,1971)がよく用いられるが(Bayley,2011),本研究では認知的側面としてDITと関連のある行動基準(菅原ほか,2006;藤澤ほか,2006),情動的側面として多次元共感性(Davis,1980)を用いた。
方 法
研究の主旨に理解した上で調査の参加に同意が得られ,かつ回答に欠損のなかった中学生368名(1年生125(女性60)名,2年生107(女性64)名,3年生136(女性68)名)であった。
測定尺度として,行動基準尺度(永房他, 2012; 菅原他, 2006)と多次元共感性尺度(Davis, 1980)を用いた。行動基準尺度には自分本位,仲間的セケン,地域的セケン,他者配慮,公共利益といった各下位尺度が設けられており,本研究においても先行研究と同様の因子構造が確認された。それぞれ,DITの発達段階と相関がある(藤澤他,2006)多次元共感性尺度には他者視点,想像,共感,苦痛といった下位尺度が設けられており,他者視点と共感では因子負荷量の低かった1項目を除外したが,下位因子の構造は先行研究と同様であった。
結 果
道徳性の発達差と性差を検討するために,行動基準と多次元共感性の各変数をそれぞれ従属変数として,学年(3)×性別(2)の分散分析を行った。主効果,交互作用の有意水準は1%とした。
行動基準尺度の各変数について,学年の主効果が地域的セケンにのみみられた(1 > 2 ≒ 3年生)。また,性別の主効果が自分本位にのみみられた(男性 > 女性)。次に多次元共感性尺度について,学年の主効果はみられなかった。一方で,全ての変数において性差がみられた(全て女性 > 男性)。なお,各尺度のいずれの変数においても,学年×性別の交互作用効果はみられなかった。
考 察
上述のように,学年を通して得点に差がないか,部分的に下降という発達をしていることが示唆された。よって,道徳性の発達は線形ではないという可能性は部分的には支持された。
一方で,本研究は3学年を対象とした横断調査であった。各学年での教育的な特徴が異なる可能性があるだろう。今後は個人差を統制した上で,発達の個人内変動を検討するべきである。そのため,縦断的に調査を実施する必要がある。
主な引用文献
Nucci, L. & Powers, D. W. (2014). Handbook of moral and character education (2nd. ed., pp. 121-139). New York: Routledge.
付 記
本研究は科研費(18K13176),公益財団法人博報児童教育振興会(2019-025)のサポートを受けています。