日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PE] ポスター発表 PE(01-67)

2019年9月15日(日) 13:30 〜 15:30 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号13:30~14:30
偶数番号14:30~15:30

[PE12] 比喩生成課題を用いた教員養成課程学生の教授学習観の検討

川那部隆司1, 渋谷郁子2 (1.立命館大学, 2.大阪成蹊短期大学)

キーワード:教授学習観、信念、教員養成

問題と目的
 教師の熟達化に関する秋田(1996)の研究では,経験を積んだ教師は,授業を教師と生徒が共同して作り上げる場であり,教師自身の学びの場であると考えており,教師は児童・生徒を導き,支える存在であると捉えていることが示されている。一方,大学生では教員養成課程への在籍有無に関わらず,授業はあくまでも伝達の場であると考える者が多く見られた。この結果からは,教師主導の授業観から,子ども中心の授業観へと変容するには,一定の実践経験を要することが示唆される。
 しかしながら,教育のあり方をめぐる近年の文部科学省の方針等では,教師による一方向的な授業ではなく,子どもを中心とした授業への転換の必要性が説かれ,実際に多くの授業において生徒の討論や発表の機会が取り入れられるようになっている。こうした背景を踏まえると,現在の,特に教職を志望する学生は,子どもの自律を促す機会のある授業を経験してきており,授業や学習に対するイメージも変化してきている可能性が高いと推察される。そこで,本研究では,秋田(1996)の比喩生成課題を援用し,教員養成課程学生の教授学習観を明らかにすることを目的とした。
方  法
対象 教員養成課程を履修する大学生117名(男子55,女子61,無回答1)。平均年齢は18.7歳(SD=.70)であった。
質問紙 秋田(1996)に倣い比喩生成課題を用いた。「良い授業」「教師が教えること」「生徒が学ぶここと」をたとえる言葉(比喩)とその比喩の説明を,思いつく限り記入するものであった。
手続き 教職課程の科目である「教育心理学」の授業時間内に,授業内容について考察を深めるためのワークの中で記入を求めた。研究の目的やデータ利用に関して説明を行い,同意が得られた学生のデータのみをここでの分析対象とした。
結果と考察
 紙幅の関係上,ここでは「良い授業」の比喩に関して得られた148件のみを示す。作成された比喩およびその説明をみると,着目された側面として「授業に伴う感情」,「内容の有用性」,「生徒の参加」,「教師役割」の4側面に分類可能であった。各側面について,内容別に項目として細分類を行った。解釈や分類が困難なものを除き,1件の比喩に複数の側面,あるいは項目にまたがる内容のも含めると計146件となり,全部で20項目となった(Table 1)。最も多かったのは,「授業に伴う感情」であり,次いで「内容の有用性」,最後に「生徒の参加」,「教師役割」の順となっていた(χ2(3)=107.10, p<.01)。
 項目ごとにみると,「没頭・集中できる」が最も多く,「娯楽的面白さがある」,「記憶・印象に残る」が次いで多かった。たとえば「映画」,「テレビ番組」,「スポーツ観戦」,「遊び」,「お笑い」など,児童・生徒の主体的な参加ではなく,教師の働きかけによって実現されることを意味する記述が多く見られた。子ども中心の授業の重要性が強調され,以前と比べるとそうした授業の経験も増えているにも関わらず,「良い授業」として想起されるのが教師主導型の授業であることは興味深い。また,「生徒の参加」に関する記述であっても,あくまでも教師と児童・生徒とのやりとりを意味しており,児童・生徒同士の協同的な学習についてはほとんど言及されていなかった。
引用文献
秋田喜代美 1996 教える経験に伴う授業イメージの変容 教育心理学研究,44(2),176-186.