[PE15] 情動喚起的内容を含む説明的文章の読解における「想念の侵入」について
キーワード:説明的文章、読解、想念の侵入
問題と目的
説明的文章から学習する際においては,文章の記述を正確に理解することが重要な目標となる。これに関連し,舛田・工藤(2018,前研究とする)は,本来持ち込まれるべきではない,当該の文章から触発された想念(解釈・感想・意見・連想など)の,読解表象の形成過程における「侵入」を,説明的文章の読解における問題点の1つとして指摘している。またこの「想念の侵入」には,文章の構成(文章頭・文章末)に着目して積極的に情報を得ようとする読解方略が影響を及ぼしている可能性も示された。更に読解内容の分析から,文章の記述が情動喚起的なものである場合に,想念の侵入が起こる可能性が高いことが推測された。そこで目的1として,文章構成及び情動喚起的内容の要因が想念の侵入に及ぼす影響について検証を試みる。ところで従来舛田らが用いてきた説明的文章は,主旨が比較的読み取りやすい新聞記事であった。しかし日常的に我々が触れる説明的文章には,ルポルタージュのように複数の関連する内容が並置され,主旨が明確ではないものも多い。そのような説明的文章において読解がどのような影響を受けるのかについては,十分に検討がされてきていない。従って目的2として,このような文章における読解表象について,探索的に検討を行うこととする。
方 法
材料文 英BBCによるweb上の報道記事「Burned to death because of a rumour on WhatsApp(2018/11/12)」を筆者のひとりが抄訳した1624字の文章で,8段落(以下P)によって構成されている。それぞれの内容は以下の通り。P1:SNS等についての我々の考え方を問う,P2~4:メキシコで「フェイクニュース」がSNSで拡散されたことが原因で生じた冤罪暴行殺人事件の顛末,P5:このような事件は稀ではなく諸外国で起こっている,P6:この暴動へのSNSの影響に関するメキシコ有識者の見解2つ,P7:街の人々はみな当該の暴動への関与を否定したという事実,P8:遺族の「情報を確認して欲しかった」との訴え。この文章は主旨や主張は明確ではなく,P1での問いに関連した事例やコメントなどが並列的に提示されるといった構成であり,同時に冤罪による暴行殺人という情動喚起的な内容である。なお,上記は条件E(情動喚起的文章末)の配列であり,条件A(分析的文章末)ではP6とP8が入れ替わる。
質問紙の構成 1.重要個所と気になる箇所の把握 文章を理解する上で重要だと感じる箇所と,個人的に気になる箇所を区別して抽出させた。2.文章全体の読解表象の把握 「文章が全体として説明・解説・知らせようとしている事」を自由に記述させた。教材文の文章末の違い以外は全て同じ構成・内容である。
研究参加者と実施の手続き 研究参加者(Ps)は文系の私立大学生97名で,2019年1月,心理学概論の講義時間中に実施した。上述の質問紙をランダムに配布し,自分のペースで読み進め,回答してもらった。
結果と考察
97名全員が分析の対象となった(E群:47名,A群:50名)。Psの読解表象について,研究者2名が独立に侵入の有無を判定,不一致部分を合議により決定した(一致率74.2%)。侵入ありは41名(42.3%)となり,前研究(44.7%)と比べて明確な差は認められなかった。ここから,情動喚起的内容の要因は侵入に促進的な影響を持たなかったと言える。一方でP8の内容は,それが文章末にあるE群(15名)の方が,A群(2名)よりも有意に多く読解表象に取り入れていた(χ2(1)=9.39,p<.01)。ここから,文章の構成が読解表象に影響を及ぼす可能性が改めて示された。更に,本材料文は主旨が明確でないにも関わらず,読解表象のバリエーションが少なかった。適切な読解とされたものは,大多数がP6の有識者の見解「我々はSNSの真偽や信頼性を見分けねばならない」を引用・言い換えたものであった。Psにとってなじみ深く理解しやすい言説であるため,それに基づいて読解表象を作りやすく,結果として読解表象が収斂したと考えられる。同様に,侵入した内容カテゴリー数についても,前研究の6に対して2と少なかった。内容中で最多だったのは「心理状態」に関するものであり(延べ20名,48.8%),「集団になると人は思わぬことを引き起こす」などの群集心理や,「他人の発言に流されてはならない」などの個人の心理に関するもの等であった。これについては,心理学の講義中の読解という状況的枠組みに影響されて,Psの読解表象の多様化が抑制された可能性がある。これらを踏まえて,「読解表象の作りやすさ」の点からも,今後結果を検討していく必要がある。
引用文献
舛田弘子・工藤与志文(2018).説明的文章の読解表象形成における想念の「侵入」について―想念の「侵入」と文章構成との関連 日本教育心理学会発表論文集, 60, PG16
説明的文章から学習する際においては,文章の記述を正確に理解することが重要な目標となる。これに関連し,舛田・工藤(2018,前研究とする)は,本来持ち込まれるべきではない,当該の文章から触発された想念(解釈・感想・意見・連想など)の,読解表象の形成過程における「侵入」を,説明的文章の読解における問題点の1つとして指摘している。またこの「想念の侵入」には,文章の構成(文章頭・文章末)に着目して積極的に情報を得ようとする読解方略が影響を及ぼしている可能性も示された。更に読解内容の分析から,文章の記述が情動喚起的なものである場合に,想念の侵入が起こる可能性が高いことが推測された。そこで目的1として,文章構成及び情動喚起的内容の要因が想念の侵入に及ぼす影響について検証を試みる。ところで従来舛田らが用いてきた説明的文章は,主旨が比較的読み取りやすい新聞記事であった。しかし日常的に我々が触れる説明的文章には,ルポルタージュのように複数の関連する内容が並置され,主旨が明確ではないものも多い。そのような説明的文章において読解がどのような影響を受けるのかについては,十分に検討がされてきていない。従って目的2として,このような文章における読解表象について,探索的に検討を行うこととする。
方 法
材料文 英BBCによるweb上の報道記事「Burned to death because of a rumour on WhatsApp(2018/11/12)」を筆者のひとりが抄訳した1624字の文章で,8段落(以下P)によって構成されている。それぞれの内容は以下の通り。P1:SNS等についての我々の考え方を問う,P2~4:メキシコで「フェイクニュース」がSNSで拡散されたことが原因で生じた冤罪暴行殺人事件の顛末,P5:このような事件は稀ではなく諸外国で起こっている,P6:この暴動へのSNSの影響に関するメキシコ有識者の見解2つ,P7:街の人々はみな当該の暴動への関与を否定したという事実,P8:遺族の「情報を確認して欲しかった」との訴え。この文章は主旨や主張は明確ではなく,P1での問いに関連した事例やコメントなどが並列的に提示されるといった構成であり,同時に冤罪による暴行殺人という情動喚起的な内容である。なお,上記は条件E(情動喚起的文章末)の配列であり,条件A(分析的文章末)ではP6とP8が入れ替わる。
質問紙の構成 1.重要個所と気になる箇所の把握 文章を理解する上で重要だと感じる箇所と,個人的に気になる箇所を区別して抽出させた。2.文章全体の読解表象の把握 「文章が全体として説明・解説・知らせようとしている事」を自由に記述させた。教材文の文章末の違い以外は全て同じ構成・内容である。
研究参加者と実施の手続き 研究参加者(Ps)は文系の私立大学生97名で,2019年1月,心理学概論の講義時間中に実施した。上述の質問紙をランダムに配布し,自分のペースで読み進め,回答してもらった。
結果と考察
97名全員が分析の対象となった(E群:47名,A群:50名)。Psの読解表象について,研究者2名が独立に侵入の有無を判定,不一致部分を合議により決定した(一致率74.2%)。侵入ありは41名(42.3%)となり,前研究(44.7%)と比べて明確な差は認められなかった。ここから,情動喚起的内容の要因は侵入に促進的な影響を持たなかったと言える。一方でP8の内容は,それが文章末にあるE群(15名)の方が,A群(2名)よりも有意に多く読解表象に取り入れていた(χ2(1)=9.39,p<.01)。ここから,文章の構成が読解表象に影響を及ぼす可能性が改めて示された。更に,本材料文は主旨が明確でないにも関わらず,読解表象のバリエーションが少なかった。適切な読解とされたものは,大多数がP6の有識者の見解「我々はSNSの真偽や信頼性を見分けねばならない」を引用・言い換えたものであった。Psにとってなじみ深く理解しやすい言説であるため,それに基づいて読解表象を作りやすく,結果として読解表象が収斂したと考えられる。同様に,侵入した内容カテゴリー数についても,前研究の6に対して2と少なかった。内容中で最多だったのは「心理状態」に関するものであり(延べ20名,48.8%),「集団になると人は思わぬことを引き起こす」などの群集心理や,「他人の発言に流されてはならない」などの個人の心理に関するもの等であった。これについては,心理学の講義中の読解という状況的枠組みに影響されて,Psの読解表象の多様化が抑制された可能性がある。これらを踏まえて,「読解表象の作りやすさ」の点からも,今後結果を検討していく必要がある。
引用文献
舛田弘子・工藤与志文(2018).説明的文章の読解表象形成における想念の「侵入」について―想念の「侵入」と文章構成との関連 日本教育心理学会発表論文集, 60, PG16