[PE19] 鑑賞活動から読譜へのヒントを得て自発的な音楽活動を可能にする要因についての一調査
Keywords:鑑賞、読譜、自発的な音楽活動
背景と目的
成人の読譜力と自発的な音楽活動についての調査より,演奏や歌を聴いて再現できるものの読譜力不足のため自発的な音楽活動を自分が望む領域まで踏み込んで楽しめない,とする例が見られた.また,楽典の知識を持っていても実音化できない例も確認された(牛久,2017).音楽教育の課題について取り上げている畠澤は、技能習得のための練習時間について十分に確保できていないことをあげ(畠澤,2012),音楽を理解し表現意欲を高める方法として映像とICTを導入したイメージ奏法を提唱する武本は, 音楽を作曲家・演奏者・聴取者の三者における情報伝達系統とみなしている(武本,2019).だが,音楽を聴取することと聴取した音楽を再現することの関係性については,取り扱われていない.そこで,楽典の知識がありながらも読譜はできないが演奏や歌を聴いて再現する力を得られているとする者を対象に,聴いたことのある音楽を演奏もしくは歌で再現することを可能にする要因を探りたいと考えた.
方 法
調査者が用意した楽典についてのテストに全問正解できた20歳以上70歳未満男女各世代各15名計180名(49.39歳,SD17.27)を対象として,質問紙によるアンケート調査を2018年2月7日から3月6日の期間で行なった.
アンケート内容は,1)聴いたことがある音楽を再現できるとする事柄は歌であるのか演奏であるのか.演奏であれば楽器は何であるのか.2)聴いたことがある音楽を再現するためには,楽譜を補助的に利用しているか否か.3)2)で楽譜を補助的に利用する場合,楽譜を用いて何を確認しているのか.4)聴いた音楽を再現するためには「聴く」行為によって再現のためのどのような要点を得ていると考えているのか.5)楽典の知識はあるが読譜ができないと判断する理由は何か.,の5点である.
結 果
1)〜3)の調査結果について, 聴いた音楽を再生する対象として,歌である場合及び歌と演奏の両方である場合を選択した調査協力者の合計割合は,85.56%に至ったが,楽譜を補助的に用いる割合については,歌である場合を選択した調査協力者は14.81%であったのに対し,演奏である場合を選択した調査協力者は50.00%,歌と演奏の両方である場合を選択した調査協力者は71.74%に至った.聴いた音楽を再現できる事柄と楽譜を補助的に使用するか否かについての関係を調べるためにt検定を行った結果,0.001%水準で有意であった(t(179)=25.31,p<0.001).
2)〜4)の調査結果について,聴いた音楽を再現できる要因の因果モデルを検証するため,共構造分散分析を行った.CMIFは10.152でこのモデルが採択され,モデルの適合はCFI=.998,RMSEA=.000であった.○1音楽を聴くことは,旋律や音程やリズムを確認でき,歌を歌うことで再現できる行為につながること.○2楽音楽を聴いた後に楽譜を用いて音の長さや階名や調合を確認することで,楽器を演奏して再現できる行為に至ること.○3音楽を聴いた後に楽譜を用いて音の長さや階名や調合を確認して演奏を再現できる行為に至る場合には,歌を歌う行為にも至る可能性が高いこと.○4音楽を聴いた後に楽譜を用いてコードを確認して演奏を再現できるに至る場合もあること.を示した.
さらに,読譜ができないと判断する理由として,読譜を行なっても曲の旋律が浮かばないと回答した割合が,全調査協力者の89.45%にのぼった.
参考文献
畠澤郎(2012)「わが国における音楽教育の課題」椙山女学園大学教育学部紀要5:241〜250
武本京子(2019)「『楽譜』から音楽の内容を復号する『イメージ奏法』の展開-音楽を理解し表現意欲を高める指導法の実践」愛知教育大学研究報告.芸術・保健体育・家政・技術科学・創作編.2019,68,p.11-19
成人の読譜力と自発的な音楽活動についての調査より,演奏や歌を聴いて再現できるものの読譜力不足のため自発的な音楽活動を自分が望む領域まで踏み込んで楽しめない,とする例が見られた.また,楽典の知識を持っていても実音化できない例も確認された(牛久,2017).音楽教育の課題について取り上げている畠澤は、技能習得のための練習時間について十分に確保できていないことをあげ(畠澤,2012),音楽を理解し表現意欲を高める方法として映像とICTを導入したイメージ奏法を提唱する武本は, 音楽を作曲家・演奏者・聴取者の三者における情報伝達系統とみなしている(武本,2019).だが,音楽を聴取することと聴取した音楽を再現することの関係性については,取り扱われていない.そこで,楽典の知識がありながらも読譜はできないが演奏や歌を聴いて再現する力を得られているとする者を対象に,聴いたことのある音楽を演奏もしくは歌で再現することを可能にする要因を探りたいと考えた.
方 法
調査者が用意した楽典についてのテストに全問正解できた20歳以上70歳未満男女各世代各15名計180名(49.39歳,SD17.27)を対象として,質問紙によるアンケート調査を2018年2月7日から3月6日の期間で行なった.
アンケート内容は,1)聴いたことがある音楽を再現できるとする事柄は歌であるのか演奏であるのか.演奏であれば楽器は何であるのか.2)聴いたことがある音楽を再現するためには,楽譜を補助的に利用しているか否か.3)2)で楽譜を補助的に利用する場合,楽譜を用いて何を確認しているのか.4)聴いた音楽を再現するためには「聴く」行為によって再現のためのどのような要点を得ていると考えているのか.5)楽典の知識はあるが読譜ができないと判断する理由は何か.,の5点である.
結 果
1)〜3)の調査結果について, 聴いた音楽を再生する対象として,歌である場合及び歌と演奏の両方である場合を選択した調査協力者の合計割合は,85.56%に至ったが,楽譜を補助的に用いる割合については,歌である場合を選択した調査協力者は14.81%であったのに対し,演奏である場合を選択した調査協力者は50.00%,歌と演奏の両方である場合を選択した調査協力者は71.74%に至った.聴いた音楽を再現できる事柄と楽譜を補助的に使用するか否かについての関係を調べるためにt検定を行った結果,0.001%水準で有意であった(t(179)=25.31,p<0.001).
2)〜4)の調査結果について,聴いた音楽を再現できる要因の因果モデルを検証するため,共構造分散分析を行った.CMIFは10.152でこのモデルが採択され,モデルの適合はCFI=.998,RMSEA=.000であった.○1音楽を聴くことは,旋律や音程やリズムを確認でき,歌を歌うことで再現できる行為につながること.○2楽音楽を聴いた後に楽譜を用いて音の長さや階名や調合を確認することで,楽器を演奏して再現できる行為に至ること.○3音楽を聴いた後に楽譜を用いて音の長さや階名や調合を確認して演奏を再現できる行為に至る場合には,歌を歌う行為にも至る可能性が高いこと.○4音楽を聴いた後に楽譜を用いてコードを確認して演奏を再現できるに至る場合もあること.を示した.
さらに,読譜ができないと判断する理由として,読譜を行なっても曲の旋律が浮かばないと回答した割合が,全調査協力者の89.45%にのぼった.
参考文献
畠澤郎(2012)「わが国における音楽教育の課題」椙山女学園大学教育学部紀要5:241〜250
武本京子(2019)「『楽譜』から音楽の内容を復号する『イメージ奏法』の展開-音楽を理解し表現意欲を高める指導法の実践」愛知教育大学研究報告.芸術・保健体育・家政・技術科学・創作編.2019,68,p.11-19