[PE20] ワークプレイスにおける教授・学習方略に関する検討
派遣事業経験の内観記録をデータとして
キーワード:教授・学習方略、学習環境デザイン、当事者研究
問題と目的
福島(2010)はワークプレイスにおける徒弟制による学習と学校システムによる学習を比較し,その差について言及している。徒弟制による学習とは,現場で行われている仕事をマスターすることであり,労働と学習は不可分の一体である。一方で,学校システムによる学習は社会的に機能分化しているために学校内で自律的に実践されていると説明している。2つの教授・学習方略には機能的な差があるため,徒弟制モデルと学校システムの接合には困難が生じることが指摘されている。
現在,徒弟制と学校システムを比較し,それらの接合を図るために実践場面における学習を客観的に分析した研究は数多くある。しかし,実践の当事者として内側からその学習を検討した例は少ない。そこで,本研究では実践に参加した当事者が自ら収集した内観データをもとに実践現場での学習について検討し,徒弟制モデルと学校システムの接合の一助とすることを目的とする。
方 法
本研究では,実践場面を当事者として記述するために有元(2016)の「他人の行為中の省察」を参考にした。進行中の実践に伴う他者の行為に対する自身の違和感を記述することで,自己省察を行い無意識の意識化を目指した。今回は筆者自ら人材派遣会社が提供する労働者派遣事業の業務に従事した。勤務中は逐一フィールドノートを作成することができないため,休憩時間及び業務終了後当日のうちに業務従事の際の内観を記したレポートを作成した。レポートは時系列に沿って業務内容と業務中の出来事,及び筆者の心情や考察を記述した。従事した派遣事業についてはTable1の通りである。
結果と考察
レポートの記述を時系列に沿って「業務に関する内容」「筆者の内観」「他者とのやりとり」の3つに分類した。その後,「筆者の内観」の流れを軸に筆者の違和感と自己省察に関する記述を抽出し,考察を行った。なお,記述の抽出は心理学を専門とする大学教員1名と同大学院生2名及び筆者の協議によって行った。
⑴業務内容とその教え方に関する記述
筆者はレポートの中で度々,事前の説明不足や業務内容の教え方に対する不満を記述している(Table2参照)。また,業務終了後にそれらに関する考察を行っている(Figure 1参照)。
このことから,筆者は事前に説明や教授を受けられることを期待していたにも関わらず,それが無かった事に対し不満や違和感を覚えていると考えられる。また,自身の期待と異なる状況は教授スタイルの文化的な差異によって生み出されていると考えていることが推察される。
総合考察
結果と考察より,筆者と工場労働者間では学習方略が異なっていた可能性が示唆される。工場労働者の学習方略が実践の中で行為によって学んでいく徒弟制的な「行為による学習(learning by doing)」であったとするならば、筆者の学習方略は自身の学びを他者に教えることを前提とする学校システム的な「教授による学習(learning by teaching)」であったと考えられる。
福島(2010)は学校を徒弟制モデルの論理で説明する場合,中核的実践に当たる部分が決定不可能な未来にしか存在しない「空洞の共同体」であると述べている。学校システム内で扱われる教授・学習方略が実践場面で扱われるものと異なっているからこそ,学校教育と日常的な実践の接続を意識した学習環境のデザインが行われるべきである。
福島(2010)はワークプレイスにおける徒弟制による学習と学校システムによる学習を比較し,その差について言及している。徒弟制による学習とは,現場で行われている仕事をマスターすることであり,労働と学習は不可分の一体である。一方で,学校システムによる学習は社会的に機能分化しているために学校内で自律的に実践されていると説明している。2つの教授・学習方略には機能的な差があるため,徒弟制モデルと学校システムの接合には困難が生じることが指摘されている。
現在,徒弟制と学校システムを比較し,それらの接合を図るために実践場面における学習を客観的に分析した研究は数多くある。しかし,実践の当事者として内側からその学習を検討した例は少ない。そこで,本研究では実践に参加した当事者が自ら収集した内観データをもとに実践現場での学習について検討し,徒弟制モデルと学校システムの接合の一助とすることを目的とする。
方 法
本研究では,実践場面を当事者として記述するために有元(2016)の「他人の行為中の省察」を参考にした。進行中の実践に伴う他者の行為に対する自身の違和感を記述することで,自己省察を行い無意識の意識化を目指した。今回は筆者自ら人材派遣会社が提供する労働者派遣事業の業務に従事した。勤務中は逐一フィールドノートを作成することができないため,休憩時間及び業務終了後当日のうちに業務従事の際の内観を記したレポートを作成した。レポートは時系列に沿って業務内容と業務中の出来事,及び筆者の心情や考察を記述した。従事した派遣事業についてはTable1の通りである。
結果と考察
レポートの記述を時系列に沿って「業務に関する内容」「筆者の内観」「他者とのやりとり」の3つに分類した。その後,「筆者の内観」の流れを軸に筆者の違和感と自己省察に関する記述を抽出し,考察を行った。なお,記述の抽出は心理学を専門とする大学教員1名と同大学院生2名及び筆者の協議によって行った。
⑴業務内容とその教え方に関する記述
筆者はレポートの中で度々,事前の説明不足や業務内容の教え方に対する不満を記述している(Table2参照)。また,業務終了後にそれらに関する考察を行っている(Figure 1参照)。
このことから,筆者は事前に説明や教授を受けられることを期待していたにも関わらず,それが無かった事に対し不満や違和感を覚えていると考えられる。また,自身の期待と異なる状況は教授スタイルの文化的な差異によって生み出されていると考えていることが推察される。
総合考察
結果と考察より,筆者と工場労働者間では学習方略が異なっていた可能性が示唆される。工場労働者の学習方略が実践の中で行為によって学んでいく徒弟制的な「行為による学習(learning by doing)」であったとするならば、筆者の学習方略は自身の学びを他者に教えることを前提とする学校システム的な「教授による学習(learning by teaching)」であったと考えられる。
福島(2010)は学校を徒弟制モデルの論理で説明する場合,中核的実践に当たる部分が決定不可能な未来にしか存在しない「空洞の共同体」であると述べている。学校システム内で扱われる教授・学習方略が実践場面で扱われるものと異なっているからこそ,学校教育と日常的な実践の接続を意識した学習環境のデザインが行われるべきである。