[PE22] ポジティブ感情と危険認知との関係
保育場面における楽観バイアスに着目して
Keywords:保育場面、危険認知、ポジティブ感情
保育園や幼稚園での子どもの安全を保証することは最重要事項である。しかし時として経験豊かな保育者でも信じられないようなヒューマンエラーを犯す(関川, 2014)。「事故はおこるもの」としても,どのような条件下でその確率が高まるのか検証する必要が認められる。本研究は,感情価を伴うエピソード想起および,深刻事故への楽観的態度である楽観バイアス(掛札, 2012)が,危険察知に影響する可能性について探索的に検討する。
方 法
本調査には,LimeSurvey(GmbHが公開しているオープンソースシステム)を活用した。2018年12月から2019年1月にかけ,短期大学・大学・専門学校に在籍する学生1750名に調査票を配布し,636名(回収率 36.3%)から回答を得た。
協力者はランダムかつ等確率で,Positive群,Neutral群,Negative群のいずれかに分類された。Positive群では嬉しかった出来事,Negative群では現在の課題について一問一答式の質問を3問表示し,Neutral群では,この設問を省略した。
次いで,保育者が子どもを園外に引率するイラストのシーンが提示され,どのくらいの危険が潜んでいると思うかについて【0点:全く危険が無く安全な状態 ~ 100点:命に関わる事故が起こる可能性がある極めて危険な状態】として直感的に答えるように求めた。協力者は2場面(A場面,B場面)について危険度評定を行った。
最後に,掛札(2012)やCaponecchia(2010)を参考に作成した楽観バイアスに関する質問6項目(例.私は,多少危険なことをしても大丈夫だと思う)について,5件法リッカート尺度【0全くあてはまらない, 4かなりあてはまる】による回答を求めた。
結果と考察
想起群ごとの危険度得点比較
混合計画の2要因共分散分析(被験者内変数:イラスト2場面,被験者内要因:想起エピソード3群)を行った。群間の協力者属性による効果を統制する目的で,性別,学年,幼保の免許状の取得を目指しているか否か,安全に関する専門的授業を受けた経験を有しているか,日常で就学前の子供と接する機会がどの程度あるかについて共変量としてモデルに組み込んだ。
想起群の主効果は有意であり(F(2, 495)=5.08, p=.007, 偏η=.02),Holm法による多重比較においてPositive群とNegative群間に有意差が認められた(t(495)=3.18, p=.005)。ポジティブエピソードの想起はネガティブエピソードの想起よりも危険察知の感受性を低める可能性が示された。
楽観バイアスとエピソード想起の関連
重回帰分析により,想起群と楽観バイアスとの関連を検討した。段階投入法による分析の結果,楽観バイアスと想起群との交互作用項が有意であり(β=-5.96, p=.025, CI [-11.28, -0.67]),主効果のみのモデルに比べ危険度得点に対するモデルの予測力を有意に増加した(ΔR2=.01 (F(2, 484) = 329.76, p<.001)。単純傾斜検定の結果,Neutral群では楽観バイアスのβは有意でなく(β=0.88, p=.48),Positive群においては楽観バイアスのβは有意な負の値を示した(β=-5.08, p=.03)。楽観バイアスが強い人はポジティブ想起によって危険を過小評価する可能性が示された。
付 記
This work was supported by JSPS KAKENHI Grant Number 18K13140.
方 法
本調査には,LimeSurvey(GmbHが公開しているオープンソースシステム)を活用した。2018年12月から2019年1月にかけ,短期大学・大学・専門学校に在籍する学生1750名に調査票を配布し,636名(回収率 36.3%)から回答を得た。
協力者はランダムかつ等確率で,Positive群,Neutral群,Negative群のいずれかに分類された。Positive群では嬉しかった出来事,Negative群では現在の課題について一問一答式の質問を3問表示し,Neutral群では,この設問を省略した。
次いで,保育者が子どもを園外に引率するイラストのシーンが提示され,どのくらいの危険が潜んでいると思うかについて【0点:全く危険が無く安全な状態 ~ 100点:命に関わる事故が起こる可能性がある極めて危険な状態】として直感的に答えるように求めた。協力者は2場面(A場面,B場面)について危険度評定を行った。
最後に,掛札(2012)やCaponecchia(2010)を参考に作成した楽観バイアスに関する質問6項目(例.私は,多少危険なことをしても大丈夫だと思う)について,5件法リッカート尺度【0全くあてはまらない, 4かなりあてはまる】による回答を求めた。
結果と考察
想起群ごとの危険度得点比較
混合計画の2要因共分散分析(被験者内変数:イラスト2場面,被験者内要因:想起エピソード3群)を行った。群間の協力者属性による効果を統制する目的で,性別,学年,幼保の免許状の取得を目指しているか否か,安全に関する専門的授業を受けた経験を有しているか,日常で就学前の子供と接する機会がどの程度あるかについて共変量としてモデルに組み込んだ。
想起群の主効果は有意であり(F(2, 495)=5.08, p=.007, 偏η=.02),Holm法による多重比較においてPositive群とNegative群間に有意差が認められた(t(495)=3.18, p=.005)。ポジティブエピソードの想起はネガティブエピソードの想起よりも危険察知の感受性を低める可能性が示された。
楽観バイアスとエピソード想起の関連
重回帰分析により,想起群と楽観バイアスとの関連を検討した。段階投入法による分析の結果,楽観バイアスと想起群との交互作用項が有意であり(β=-5.96, p=.025, CI [-11.28, -0.67]),主効果のみのモデルに比べ危険度得点に対するモデルの予測力を有意に増加した(ΔR2=.01 (F(2, 484) = 329.76, p<.001)。単純傾斜検定の結果,Neutral群では楽観バイアスのβは有意でなく(β=0.88, p=.48),Positive群においては楽観バイアスのβは有意な負の値を示した(β=-5.08, p=.03)。楽観バイアスが強い人はポジティブ想起によって危険を過小評価する可能性が示された。
付 記
This work was supported by JSPS KAKENHI Grant Number 18K13140.