日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PE] ポスター発表 PE(01-67)

Sun. Sep 15, 2019 1:30 PM - 3:30 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号13:30~14:30
偶数番号14:30~15:30

[PE27] 心理学の入門授業における自己介入調査の学習効果

指の爪噛み・皮むきの改善を試みた学生事例

椿田貴史1, 亀倉正彦2 (1.名古屋商科大学, 2.名古屋商科大学)

Keywords:行動分析、自己介入、自己効力感

問題と目的
 心理学の入門段階での教授法として,理論や学説の概論的説明をすることが一般的である。多くの入門的教科書はこうした座学を前提として編纂されているようである。しかし,この手法は「行動や心理を科学的に研究する」という心理学本来のアクティブな姿勢と必ずしも結びつかない。本研究では,教育において近年強調されているアクティブラーニングの動向を踏まえ,「心理学を教える授業」から「心理学を実践する授業」への転換の試みの報告と付随する問題を整理することを目的とする。
方  法
 A大学における心理学入門の講義である。学生は自身の改善したい問題行動に焦点を当て,それを解決するための介入調査(「じぶん実験」島宗2014)を実施,その効果についてクラス内で発表をする。調査はABデザインで一定期間のベースライン測定があり,その後自分で考えた介入を実施すること,介入は複数の介入をパッケージにするのではなく,一つの介入を基本とすること,効果量は介入期の平均値からベースラインの平均値を減じて計算すること,また,効果判定の基準を大,中,小のように事前に設定しておくこと等の条件を提示した。また,標的行動,機能分析,目的変数,説明変数,剰余変数,調整平均,倫理的配慮等,調査実践に必要な観点も教室内での事例検討を通じて事前学習をした。
事例:1年女子学生の嗜癖改善の試み
 学生は幼少時から指の爪や皮をいじる癖があり,なかなかやめることができなかったが,この嗜癖に対して調査を企画した。目的変数を「1日に爪や皮をめくる,傷つける,噛む回数」とし,「講義中・勉強中」に限ってカウントした。10日間のベースライン期の測定を終えたところで,標的行動の機能分析を実施した。その結果「手持ち無沙汰になってしまうこと」「問題等が解けずにイライラしてしまうこと」が影響を与えている変数であることが推定された。そこで,手持ち無沙汰の解消とイライラを同時に解消するために,「スクイーズ」(握って感触を楽しむストレス解消グッズ)を授業中と勉強中に握る介入を導入した。介入期間は11日間であった。ベースライン期の最大値は40回,最小値は28回であったため,大まかに10回程度の変動は介入がなくても生じるとみなし,平均値差が10回を超えた場合に,効果「中」,15回以上を効果「大」と設定した。結果,ベースライン期の平均値が34.4回,介入後の平均値が14.0回であり効果「大」とした。下は学生がレポートで作成した図である。
 学生の考察として,スクイーズを持っていてもおよそ14回は毎日問題行動が生じるため,癖が解決・改善したとは言えないこと,いじる対象が爪や皮からスクイーズに変わっただけで,何かをいじくる癖が解消していないことが指摘された。その一方で,諦めていた嗜癖を改善できるという意味での自己効力感を認識できた。
考  察
 本事例は授業に熱心な学生のものである。自己介入調査で心理学を受動的に学ぶのではなく,実践的に心理学を学ぶことができることがわかった。学生の感想として,主体的に自己の心や行動について考えを巡らし,諦めていた標的行動に対し,自分で介入を考えることが楽しかったこと,事前事後の変化を可視化することが自己効力感の上昇に結びついていることが挙げられた。
 今後の課題として1)「痩せる」「背を高くする」等,短期間での変化が望ましくない又は不可能な悩みに焦点を当てた調査が散見された。標的行動・心理の選択に制約を与えるべきであろう。2)効果判定が恣意的となった。ランダマイゼーション検定等も柔軟に導入すべきである。
参考文献
島宗 理(2014). 使える行動分析学―じぶん実験のすすめ ちくま新書