日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PE] ポスター発表 PE(01-67)

2019年9月15日(日) 13:30 〜 15:30 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号13:30~14:30
偶数番号14:30~15:30

[PE32] 高校生におけるコンピテンシーと達成目標の関連

学校の違いに着目して

押尾恵吾1, 扇原貴志2, 岸学3 (1.東京学芸大学, 2.東京学芸大学, 3.東京学芸大学)

キーワード:資質・能力、達成目標、多母集団同時分析

問  題
近年,21世紀型能力(国立教育政策研究所,2013)やキー・コンピテンシー(OECD, 2005)といった「資質・能力」の育成が重要視されている。関口(2017)は,資質・能力(以降,コンピテンシーとする)の構成要素を検討し,下位概念として7つの汎用的スキルと8つの態度・価値から構成される尺度を作成し,下位概念同士に有意な正の相関が見られることを明らかにした。
しかし,関口(2017)の検討においては,汎用的スキルおよび態度・価値の関連が,学校によって異なるか明らかになっていない。本研究では,コンピテンシーの育成を実践的に取り入れている学校および育成を行っていない学校を対象として,汎用的スキルおよび態度・価値の関連が異なるかを明らかにすることとする。
 また,汎用的スキル,態度・価値といった概念が,既存の動機づけ理論とどのように関連するのかといった検討がなされていない。そこで,本研究では,学習方略の使用に対して正の影響をもつ達成目標(e.g. Elliot, 1999)を取り上げ,汎用的スキルおよび態度・価値に対してどのような影響を与えるのかについても検討する。
方  法
対象 東京都と広島県の3校(以降,それぞれA校,B校,C校とする)に在籍する高校生1533名のうち,質問紙調査の回答内容に不備が見られた者を除いた1409名(1年生577名,2年生572名,3年生260名;性別不問)を分析対象とした。
質問紙 コンピテンシー尺度(関口,2018)の全37項目と達成目標尺度の邦訳版(山口,2015)12項目を用いた。
調査時期 2018年11月から12月に,各学校で学級担任によって実施され,その場で回収された。
結  果
 パス解析を用いて,達成目標から汎用的スキルおよび態度・価値に対してパスを想定し,態度・価値から汎用的スキルに対してパスを想定し,達成目標間,態度・価値間,汎用的スキル間で共分散を想定したモデル(Figure 1)を構築した。学校による差を検討するため,多母集団同時分析を行った結果,学校間で因子の構造が等しく,かつパスに関して学校間で等値制約を入れ,共分散に関して学校間で制約を加えないモデルの適合度が最も良かった(χ2 = 11710.255,df = 441,p<.01,CFI = .988,TLI = .976,SRMR = .036,RMSEA = .044)。
いずれの学校においても,達成目標のうち習得接近がすべての態度・価値に対して有意な正のパスがみられた。また,達成目標から汎用的スキルに対しては,ほとんど関連がない,ないし弱かった。態度・価値から汎用的スキルに対しては,好奇心・探究心から批判的思考,協力する心から協働する力に対して,有意な正のパスがみられた。
学校間で差があった共分散は,汎用的スキルにおいて,協働する力と先を見通す力,協働する力と感性・表現・創造の力,先を見通す力と感性・表現・創造の力であった。態度・価値においては,受容・共感と困難を乗り越える力,協力しあう心と困難を乗り越える力などであった。
考  察
 以上から,コンピテンシーの汎用的スキルおよび態度・価値,達成目標の関連は,学校間で共通するものの,汎用的スキル間の関連,態度・価値間の関連が異なることが明らかになった。ここから,コンピテンシーの育成の有無にかかわらず,達成目標および態度・価値は汎用的スキルの使用に正の影響を与えうることが示唆される。また,コンピテンシーの育成によって,コンピテンシー間の関連が変容しうる可能性があることも示唆された。
付  記
本研究は,東京学芸大学「次世代型コンピテンシー育成のための教育方法開発とその国内外への発信」(文部科学省機能強化経費「機能強化促進分」対象事業)の研究成果の一部である。