[PE33] 情報検索学習における練習課題順序の影響
学習の定着と作業負荷
キーワード:情報検索、情報教育、教育方法
問 題
本研究は,大学生の学習を側面から支援するための,一般的な検索エンジンを用いた情報検索の教育方法及び学習用アプリケーション開発を目的にしている。情報検索に必要な資質・能力は多岐に渡り,未習熟者が学習すべき要素も多い。それらの要素のうち,本研究ではサイトの種類や掲載情報に関する知識の育成に重点を置いている。具体的な学習方法として,閲覧時(検索結果一覧の読解,閲覧サイト選択,及びページ閲覧過程)における,逐次的教示によるサイト属性(サイトの種類と掲載情報の質)の予測・検証を通じて閲覧行動・態度を変容させることを提案し,一定の効果が確認されている(大津・植木・阪脇2017;阪脇・植木・大津2017)。
今回の実験では,学習用アプリケーションの課題構成方針を決めるために,学習に用いる課題テーマの種類と順序の違いが,作業負荷と学習の定着に与える影響を検討した。課題テーマは,身近な飲料(コーヒー,緑茶)の健康への影響と,学生にとって比較的馴染みがないと考えられる太陽光発電設備に関する2種類であった。実験では,飲料課題を2回行ってから太陽光課題を行う場合と,飲料課題を1回行ってから太陽光課題を行い,その後再び飲料課題を行う場合を比較した。学習の定着に関する指標は,ページ閲覧前に行うサイト属性予測の正答率であった。作業負荷の指標は作業時間であった。実験に際し,大学生でもある程度事前知識があると期待できる飲料課題で学習を続けた後,作業負荷が高い課題を行う方がより学習が定着すると予測した。
方 法
参加者:大学生33名(男性12:女性21,平均年齢20.03, SD 1.05)
実験計画:要因1課題順序 (緑茶・太陽光群16名,太陽光・緑茶群17名),要因2テーマ種類(緑茶,太陽光)
材料:PC,実験用アプリケーション等
手続と課題:実験者が実験手順を説明し練習課題を行った後,参加者は画面のインストラクションを読みながら3つの模擬閲覧課題を一人で行った。検索目的は全て「授業で課題として出されたレポート作成のための調べもの」であった。各課題では,検索結果一覧として,実在するサイトを8つ提示し,全てのサイトを閲覧させた。各課題のサイト属性構成はほぼ同じであった(Q&Aサイト,まとめサイト,企業サイト,官公庁サイト等)。サイトは,一般検索エンジンの結果一覧を模し,サイトタイトル,URL,スニペット(ページ内容の抜粋)をサイトごとに示した。参加者はタイトルをクリックすることで,各サイトのページを閲覧した。全てのサイトについて,ページ閲覧前に,選択したサイトの属性を予測させた。属性予測時にも,検索結果一覧は表示されたままであった。
課題のテーマ,各群の実施順序は以下の通りであった。
【テーマ】飲料1…コーヒーの健康への影響
飲料2…緑茶の健康への影響
太陽光…建物に太陽光発電設備を設ける是非
【実施順序】緑茶・太陽光群…飲料1→飲料2→太陽光
太陽光・緑茶群…飲料1→太陽光→飲料2
結果と考察
各群が緑茶(飲料2)及び太陽光テーマで行った模擬閲覧課題について,結果の分析を行った。属性予測正答率は,緑茶・太陽光群の緑茶75.0%,太陽光53.1%,太陽光・緑茶群の緑茶68.4%,太陽光40.4%であった。正答率を角変換し,t検定により課題別に平均値を比較したところ,どちらの課題でも群間に有意差はなかった。結果一覧読解時間(検索結果一覧ページ閲覧時間+属性予測を行っていた時間)の平均値について,2要因分散分析(要因1課題順序,要因2テーマ種類)を行った(Figure 1参照)。交互作用が有意(F(1,31) = 37.27, p <.001)であったため各要因の単純主効果を確認したところ,課題順序の効果は,緑茶(F(1,31) = 6.35, p < .05),太陽光(F(1,31) = 11.96, p < .01)ともに有意であった。また,テーマ種類の効果は,太陽光・緑茶の順序のみで有意であった(F(1,31) = 45.13, p < .01)。
結果一覧読解時間の分析から,課題によらず後から行うほど短時間で作業を行えることがわかった。但し太陽光については,先に行った場合はより作業に時間がかかるとわかった。属性正答率の分析では,群間で予測精度の差が観察できなかったことから,課題順序による学習の定着の違いは確認できなかった。しかし,両群とも太陽光の正答率が比較的低い傾向にあることから,同課題の方が比較的属性予測が難しいと推測できる。以上の結果から,検索者が事前知識を有する課題を続けて行ってから,作業負荷の高い課題に移行する方が学習者の負担が少ないと考えられる。
引用文献
大津・植木・阪脇(2017)日本教育心理学会第59回総会発表論文集:310
阪脇・植木・大津(2017)日本教育心理学会第59回総会発表論文集:311
付 記
本研究は科学研究費補助金(挑戦的萌芽研究16K13475)による助成を受けて行った。
本研究は,大学生の学習を側面から支援するための,一般的な検索エンジンを用いた情報検索の教育方法及び学習用アプリケーション開発を目的にしている。情報検索に必要な資質・能力は多岐に渡り,未習熟者が学習すべき要素も多い。それらの要素のうち,本研究ではサイトの種類や掲載情報に関する知識の育成に重点を置いている。具体的な学習方法として,閲覧時(検索結果一覧の読解,閲覧サイト選択,及びページ閲覧過程)における,逐次的教示によるサイト属性(サイトの種類と掲載情報の質)の予測・検証を通じて閲覧行動・態度を変容させることを提案し,一定の効果が確認されている(大津・植木・阪脇2017;阪脇・植木・大津2017)。
今回の実験では,学習用アプリケーションの課題構成方針を決めるために,学習に用いる課題テーマの種類と順序の違いが,作業負荷と学習の定着に与える影響を検討した。課題テーマは,身近な飲料(コーヒー,緑茶)の健康への影響と,学生にとって比較的馴染みがないと考えられる太陽光発電設備に関する2種類であった。実験では,飲料課題を2回行ってから太陽光課題を行う場合と,飲料課題を1回行ってから太陽光課題を行い,その後再び飲料課題を行う場合を比較した。学習の定着に関する指標は,ページ閲覧前に行うサイト属性予測の正答率であった。作業負荷の指標は作業時間であった。実験に際し,大学生でもある程度事前知識があると期待できる飲料課題で学習を続けた後,作業負荷が高い課題を行う方がより学習が定着すると予測した。
方 法
参加者:大学生33名(男性12:女性21,平均年齢20.03, SD 1.05)
実験計画:要因1課題順序 (緑茶・太陽光群16名,太陽光・緑茶群17名),要因2テーマ種類(緑茶,太陽光)
材料:PC,実験用アプリケーション等
手続と課題:実験者が実験手順を説明し練習課題を行った後,参加者は画面のインストラクションを読みながら3つの模擬閲覧課題を一人で行った。検索目的は全て「授業で課題として出されたレポート作成のための調べもの」であった。各課題では,検索結果一覧として,実在するサイトを8つ提示し,全てのサイトを閲覧させた。各課題のサイト属性構成はほぼ同じであった(Q&Aサイト,まとめサイト,企業サイト,官公庁サイト等)。サイトは,一般検索エンジンの結果一覧を模し,サイトタイトル,URL,スニペット(ページ内容の抜粋)をサイトごとに示した。参加者はタイトルをクリックすることで,各サイトのページを閲覧した。全てのサイトについて,ページ閲覧前に,選択したサイトの属性を予測させた。属性予測時にも,検索結果一覧は表示されたままであった。
課題のテーマ,各群の実施順序は以下の通りであった。
【テーマ】飲料1…コーヒーの健康への影響
飲料2…緑茶の健康への影響
太陽光…建物に太陽光発電設備を設ける是非
【実施順序】緑茶・太陽光群…飲料1→飲料2→太陽光
太陽光・緑茶群…飲料1→太陽光→飲料2
結果と考察
各群が緑茶(飲料2)及び太陽光テーマで行った模擬閲覧課題について,結果の分析を行った。属性予測正答率は,緑茶・太陽光群の緑茶75.0%,太陽光53.1%,太陽光・緑茶群の緑茶68.4%,太陽光40.4%であった。正答率を角変換し,t検定により課題別に平均値を比較したところ,どちらの課題でも群間に有意差はなかった。結果一覧読解時間(検索結果一覧ページ閲覧時間+属性予測を行っていた時間)の平均値について,2要因分散分析(要因1課題順序,要因2テーマ種類)を行った(Figure 1参照)。交互作用が有意(F(1,31) = 37.27, p <.001)であったため各要因の単純主効果を確認したところ,課題順序の効果は,緑茶(F(1,31) = 6.35, p < .05),太陽光(F(1,31) = 11.96, p < .01)ともに有意であった。また,テーマ種類の効果は,太陽光・緑茶の順序のみで有意であった(F(1,31) = 45.13, p < .01)。
結果一覧読解時間の分析から,課題によらず後から行うほど短時間で作業を行えることがわかった。但し太陽光については,先に行った場合はより作業に時間がかかるとわかった。属性正答率の分析では,群間で予測精度の差が観察できなかったことから,課題順序による学習の定着の違いは確認できなかった。しかし,両群とも太陽光の正答率が比較的低い傾向にあることから,同課題の方が比較的属性予測が難しいと推測できる。以上の結果から,検索者が事前知識を有する課題を続けて行ってから,作業負荷の高い課題に移行する方が学習者の負担が少ないと考えられる。
引用文献
大津・植木・阪脇(2017)日本教育心理学会第59回総会発表論文集:310
阪脇・植木・大津(2017)日本教育心理学会第59回総会発表論文集:311
付 記
本研究は科学研究費補助金(挑戦的萌芽研究16K13475)による助成を受けて行った。