[PE38] ポジティブな強みを活かした防災教育の実践
大学生の協働による地域防災の提案
キーワード:防災教育、ポジティブ心理学、
問題と目的
本研究はポジティブ心理学の観点から,各自の強みを活かした防災教育を行い,その効果を検討した。従来の防災教育は,災害がもたらすネガティブな側面に注目し,被害を抑制することを主な目的としてきた。このような教育は対策の重要性は理解されやすいが,実際に防災行動を促して習慣にすることは難しい。一方,ポジティブ心理学は人が持つポジティブな強みに注目し,それを育み人生の重要な局面で活かすためのアイディアを提供する。ポジティブな介入は視野を広げ,思考を柔軟にし,他者との相互作用を活性化することで,未来に向けたリソースの形成に役立つとされる。本研究はこれを防災教育に導入し,共助の形成に役立つかを検討する。
対象は大学生であり,各自の徳性としての強み(Peterson & Seligman, 2004)と,専門的教養による強みの2つを意識できるようにする。複数の専攻の学生からなるグループ編成を行い,「今までにない新しい地域防災の提案を行う」というテーマのワークを実施する。
方 法
参加者:大学2年生163名。
手続き:(1)授業の到達目標設定,(2)事前調査,(3)共助の重要性の説明,(4)過去の防災教育研究の紹介,(5)ポジティブ心理学の概要の説明,(6)強みの診断,(7)グループワーク,(8)ふりかえり,(9)事後調査,の順に行った。なお,大学の授業1コマ90分で実施した。
調査項目:事前調査では,現在の地域防災への関与度(0:全く関わっていない-2:たくさん関わっている)と今後の地域防災への関与意図(0:全く関わりたくない-2:たくさん関わりたい)を測定した。事後調査では,今後の地域防災への関与意図(事前調査と同じ)を測定した。各グループが提案したアイディアと授業の感想も記録した。
結 果
地域防災意図:学習前と学習後の地域防災への関与意図を比較したところ,学習前(M = 1.09, SD = .46)よりも学習後(M = 1.40, SD = .51)の方が高かった(t (129) = 6.34, p < .001, d = .57)(Figure1)。
新しい地域防災の提案:各専攻の特徴を活かした様々なアイディアが提案された。一例を挙げると,「最先端技術と防災の融合inスポーツフェスティバル」というテーマで,外国人向けには日本の運動文化を伝えるイベント,お年寄りには体力向上のためのイベント,障がいのある方にはダンスを踊るイベントを行い,地域全員の関与を高くしたうえで津波の怖さをリアルに理解するためのVR体験や被災者による講演会を行うという内容であった。他にも,プールでの津波体験,スタンプラリーによる防災イベント,多言語のポスター作成,防災の歌の作詞作曲など,オリジナリティのあるアイディアが多数報告された。
授業の感想:自分とは異なるものの見方があることへの気づき,自分の新たな強みの発見,協働による学びの楽しさが実感できたとの意見が多数見受けられた。一方で,少数ながらディスカッションが盛り上がらなかったグループも見受けら
考 察
本研究は,各自の強み(徳性,専門的教養)を活かすための防災教育を行い,地域防災への関与意図が高くなるかを検討した。その結果,学習前よりも学習後に高くなることが確認できた。今後,実際に行動が変化したかまでを追跡する必要がある。提案内容においても,主に専門的教養を活かした多数のアイディアが報告され,協働の利点を感じることができたようであった。しかしながら,徳性としての強みの活用は十分ではなく,ディスカッションの盛り上がりに欠けたグループもあったことから,更に方法を精緻化させていく必要が示唆された。
付 記
本研究はJSPS科研費JP19K03230の助成を受けた。
本研究はポジティブ心理学の観点から,各自の強みを活かした防災教育を行い,その効果を検討した。従来の防災教育は,災害がもたらすネガティブな側面に注目し,被害を抑制することを主な目的としてきた。このような教育は対策の重要性は理解されやすいが,実際に防災行動を促して習慣にすることは難しい。一方,ポジティブ心理学は人が持つポジティブな強みに注目し,それを育み人生の重要な局面で活かすためのアイディアを提供する。ポジティブな介入は視野を広げ,思考を柔軟にし,他者との相互作用を活性化することで,未来に向けたリソースの形成に役立つとされる。本研究はこれを防災教育に導入し,共助の形成に役立つかを検討する。
対象は大学生であり,各自の徳性としての強み(Peterson & Seligman, 2004)と,専門的教養による強みの2つを意識できるようにする。複数の専攻の学生からなるグループ編成を行い,「今までにない新しい地域防災の提案を行う」というテーマのワークを実施する。
方 法
参加者:大学2年生163名。
手続き:(1)授業の到達目標設定,(2)事前調査,(3)共助の重要性の説明,(4)過去の防災教育研究の紹介,(5)ポジティブ心理学の概要の説明,(6)強みの診断,(7)グループワーク,(8)ふりかえり,(9)事後調査,の順に行った。なお,大学の授業1コマ90分で実施した。
調査項目:事前調査では,現在の地域防災への関与度(0:全く関わっていない-2:たくさん関わっている)と今後の地域防災への関与意図(0:全く関わりたくない-2:たくさん関わりたい)を測定した。事後調査では,今後の地域防災への関与意図(事前調査と同じ)を測定した。各グループが提案したアイディアと授業の感想も記録した。
結 果
地域防災意図:学習前と学習後の地域防災への関与意図を比較したところ,学習前(M = 1.09, SD = .46)よりも学習後(M = 1.40, SD = .51)の方が高かった(t (129) = 6.34, p < .001, d = .57)(Figure1)。
新しい地域防災の提案:各専攻の特徴を活かした様々なアイディアが提案された。一例を挙げると,「最先端技術と防災の融合inスポーツフェスティバル」というテーマで,外国人向けには日本の運動文化を伝えるイベント,お年寄りには体力向上のためのイベント,障がいのある方にはダンスを踊るイベントを行い,地域全員の関与を高くしたうえで津波の怖さをリアルに理解するためのVR体験や被災者による講演会を行うという内容であった。他にも,プールでの津波体験,スタンプラリーによる防災イベント,多言語のポスター作成,防災の歌の作詞作曲など,オリジナリティのあるアイディアが多数報告された。
授業の感想:自分とは異なるものの見方があることへの気づき,自分の新たな強みの発見,協働による学びの楽しさが実感できたとの意見が多数見受けられた。一方で,少数ながらディスカッションが盛り上がらなかったグループも見受けら
考 察
本研究は,各自の強み(徳性,専門的教養)を活かすための防災教育を行い,地域防災への関与意図が高くなるかを検討した。その結果,学習前よりも学習後に高くなることが確認できた。今後,実際に行動が変化したかまでを追跡する必要がある。提案内容においても,主に専門的教養を活かした多数のアイディアが報告され,協働の利点を感じることができたようであった。しかしながら,徳性としての強みの活用は十分ではなく,ディスカッションの盛り上がりに欠けたグループもあったことから,更に方法を精緻化させていく必要が示唆された。
付 記
本研究はJSPS科研費JP19K03230の助成を受けた。