[PE41] 「理想の教師」に関する測定指標作成の試み
教員と高校生との比較
Keywords:理想の教師、尺度構成
問題と目的
理想的な教員とはどのようなものか,古今研究がされ続けている。古くは三隅のP-M型リーダーシップによる検討が行われているが(三隅ら, 1977),いまだに理想的な教員の在り方について研究が続けられている。40年以上にもわたって理想的な教員像に関する結論が出ないのは,教員自身の理想と生徒が求める理想とがずれが原因であると仮定し,高校生と教員との双方に理想的な教員について尋ねることとした。また,学校に対して期待する内容も検討した。
調査対象・時期・手続き
生徒調査は,2017年11月,2018年3月,2019年3月に関東圏内の高校2年生183名を対象として自記入式・集合形式の質問紙調査が実施された。教員調査は,2018年8月に同様の手続きで94名を対象に行われた。
調査内容
「理想の教師」の特徴 理想的な教員が有している特徴を測定するため,32項目の独自尺度を作成した。項目の作成にあたり,中井・庄司(2006)における「生徒の教師に対する信頼感尺度(以下STT尺度とする)」および吉田(2016)における「Participants’ Belief in Teachers’ quality」を参考とした。STT尺度には「不信感」の側面があったが,理想の教師の特徴として適切な表現となるよう,意味を逆にして参考とした。2つの尺度で重複する内容と判断された項目や教員の特徴を表していない項目を除き,1つの尺度として統一感のある表現となるように修正を行った。
学校のイメージ 学校のイメージや,学校に対して期待する内容について測定するため,30項目の独自尺度を作成した。尺度の作成にあたり,佐々木(2015)および吉田(2016)における「Participants’ Belief in Education」を参考とした。佐々木(2015)では有用なことわざから教育観を測定していたことから,ことわざが意味する内容を基に筆者が質問項目を作成した。内容が重複した項目や,ことわざの持つ意味を正確に項目化できないと判断された項目を除き,「学校とは~~場所である」という表現に統一した。また,学校に嫌々通っているといった消極的な態度を測定するため,独自に項目を追加した。
結果と考察
尺度構成 理想の教師の特徴と学校のイメージとのそれぞれに対して探索的因子分析を行った。平行分析およびVSSによって推奨される因子数について検討したところ,どちらも3因子解が推奨された。3因子指定,最小二乗法,promax回転で分析を行い,単純構造が得られるまで項目を削除した。
理想の教師の特徴は,第1因子が「生徒が面白いと感じる授業をすることができる」「生徒の将来や進路に関して相談に乗る」といった項目が負荷したため,「対人・授業実施能力」と命名した。第2因子は「正義感が感じられる」「誠実である」といった項目が負荷したため,「誠実さ」と命名した。第3因子は「常に生徒の味方をする」といった項目が負荷したため,「生徒優先」と命名した。
学校へのイメージは第1因子が「自分を向上させる場所である」「個性を伸ばす場所である」といった項目が負荷したため,「成長・向上」と命名した。第2因子は「やりたくないこともできるようにするための場所である」といった項目が負荷したため,「自己抑圧」と命名した。第3因子は「なんとなく行く場所である」といった項目が負荷したため,「受動性」と命名した。
得点差の検討 各因子に負荷した項目の算術平均を尺度得点とし,高校生と教員との平均差をt検定によって比較した。分析の結果,理想の教師における「対人・授業実施能力」と「生徒優先」に差が見られ,高校生は教員よりも,対人能力が高くて生徒を優先する教師を理想の存在として求めていた。学校へのイメージにおける「自己抑圧」「受動性」にも差が見られ,高校生は教員よりも学校では自己を抑圧しなければならず,なんとなく行く場所であると感じていた。
引用文献
中井大介・庄司一子(2006). 中学生の教師に対する信頼感とその規定要因 教育心理学研究, 54, 453-463.
三隅 二不二・吉崎静夫・篠原しのぶ(1977). 教師のリーダーシップ行動測定尺度の作成とその妥当性の研究 教育心理学研究, 25, 157-166.
佐々木靖(2015). 教師の教育観と子供の価値観に関する考察:ことわざの好みに関する調査から 大阪教育大学紀要. 第4部門, 教育科学, 64, 137-145.
吉田広毅(2016). 教職課程履修者の教師観および教育観の構造分析 常葉大学外国語学部紀要, 32, 49-59.
付 記
因子分析およびt検定の結果詳細は,当日掲示・配布資料に掲載する)
理想的な教員とはどのようなものか,古今研究がされ続けている。古くは三隅のP-M型リーダーシップによる検討が行われているが(三隅ら, 1977),いまだに理想的な教員の在り方について研究が続けられている。40年以上にもわたって理想的な教員像に関する結論が出ないのは,教員自身の理想と生徒が求める理想とがずれが原因であると仮定し,高校生と教員との双方に理想的な教員について尋ねることとした。また,学校に対して期待する内容も検討した。
調査対象・時期・手続き
生徒調査は,2017年11月,2018年3月,2019年3月に関東圏内の高校2年生183名を対象として自記入式・集合形式の質問紙調査が実施された。教員調査は,2018年8月に同様の手続きで94名を対象に行われた。
調査内容
「理想の教師」の特徴 理想的な教員が有している特徴を測定するため,32項目の独自尺度を作成した。項目の作成にあたり,中井・庄司(2006)における「生徒の教師に対する信頼感尺度(以下STT尺度とする)」および吉田(2016)における「Participants’ Belief in Teachers’ quality」を参考とした。STT尺度には「不信感」の側面があったが,理想の教師の特徴として適切な表現となるよう,意味を逆にして参考とした。2つの尺度で重複する内容と判断された項目や教員の特徴を表していない項目を除き,1つの尺度として統一感のある表現となるように修正を行った。
学校のイメージ 学校のイメージや,学校に対して期待する内容について測定するため,30項目の独自尺度を作成した。尺度の作成にあたり,佐々木(2015)および吉田(2016)における「Participants’ Belief in Education」を参考とした。佐々木(2015)では有用なことわざから教育観を測定していたことから,ことわざが意味する内容を基に筆者が質問項目を作成した。内容が重複した項目や,ことわざの持つ意味を正確に項目化できないと判断された項目を除き,「学校とは~~場所である」という表現に統一した。また,学校に嫌々通っているといった消極的な態度を測定するため,独自に項目を追加した。
結果と考察
尺度構成 理想の教師の特徴と学校のイメージとのそれぞれに対して探索的因子分析を行った。平行分析およびVSSによって推奨される因子数について検討したところ,どちらも3因子解が推奨された。3因子指定,最小二乗法,promax回転で分析を行い,単純構造が得られるまで項目を削除した。
理想の教師の特徴は,第1因子が「生徒が面白いと感じる授業をすることができる」「生徒の将来や進路に関して相談に乗る」といった項目が負荷したため,「対人・授業実施能力」と命名した。第2因子は「正義感が感じられる」「誠実である」といった項目が負荷したため,「誠実さ」と命名した。第3因子は「常に生徒の味方をする」といった項目が負荷したため,「生徒優先」と命名した。
学校へのイメージは第1因子が「自分を向上させる場所である」「個性を伸ばす場所である」といった項目が負荷したため,「成長・向上」と命名した。第2因子は「やりたくないこともできるようにするための場所である」といった項目が負荷したため,「自己抑圧」と命名した。第3因子は「なんとなく行く場所である」といった項目が負荷したため,「受動性」と命名した。
得点差の検討 各因子に負荷した項目の算術平均を尺度得点とし,高校生と教員との平均差をt検定によって比較した。分析の結果,理想の教師における「対人・授業実施能力」と「生徒優先」に差が見られ,高校生は教員よりも,対人能力が高くて生徒を優先する教師を理想の存在として求めていた。学校へのイメージにおける「自己抑圧」「受動性」にも差が見られ,高校生は教員よりも学校では自己を抑圧しなければならず,なんとなく行く場所であると感じていた。
引用文献
中井大介・庄司一子(2006). 中学生の教師に対する信頼感とその規定要因 教育心理学研究, 54, 453-463.
三隅 二不二・吉崎静夫・篠原しのぶ(1977). 教師のリーダーシップ行動測定尺度の作成とその妥当性の研究 教育心理学研究, 25, 157-166.
佐々木靖(2015). 教師の教育観と子供の価値観に関する考察:ことわざの好みに関する調査から 大阪教育大学紀要. 第4部門, 教育科学, 64, 137-145.
吉田広毅(2016). 教職課程履修者の教師観および教育観の構造分析 常葉大学外国語学部紀要, 32, 49-59.
付 記
因子分析およびt検定の結果詳細は,当日掲示・配布資料に掲載する)