[PE46] セルフコンパッションが大学生の友人関係に与える影響
ICT教材開発の試み
Keywords:セルフコンパッション、友人関係、ICT教材
問題と目的
大学生が友人関係で葛藤し,友人に対して怒り感情を抱いたときの対処方法は多様である。そのひとつとして他者との関係性を意識しつつ(宮川・谷口,2016)自分を労わるというセルフコンパッション(以下SCと呼ぶ)がある。SCは精神的健康との関連が示され(Neff,2003),SCを高める介入研究が進められている(Neff & Germer,2013)が,日本人大学生を対象とした介入研究の数はまだ限られている。本研究では,大学生が活用しやすいように,SC向上のための心理教育プログラムのアプリケーションを作成,実施し,その効果を明らかにすることを目的とする。
方 法
調査期間:2018年12月~2019年1月
調査協力者:首都圏私立大学在籍者58名
SCアプリケーション心理教育プログラムの構成:
日本語版SC反応尺度を使用した(宮川・谷口,2016)。「あなたが友人との間でトラブルが生じた時に,あなたは何を考え,感じ,行動するかお尋ねします。」と教示し,自分自身や友人関係に対するセルフコンパッション反応を測るための8つの質問を使用した。
尺度構成:
①状態セルフコンパッション尺度:自分へのやさしさ,共通の人間性,マインドフルネス,自己批判,孤独感,過剰同一化の6因子から構成され,「1まったくあてはまらない」から「7非常によくあてはまる」の7件法で尋ねた。
②日本語版セルフ・コンパッション尺度:自分への優しさ,自己批判,人としての普遍的体験,孤立,マインドフルネス,過剰なとらわれの6つの要因から構成されている。「まったくしない」(1点)から「いつもする」(5点)の5件法で回答を求めた(石村・羽鳥・浅野・山口・野村・鋤柄・岩壁,2014)。
③友人関係欲求尺度:相互尊重欲求(8項目),親和欲求(9項目),同調欲求(6項目)から構成され,「まったく思わない(1点)」から「とてもよく思う(6点)」の6件法で尋ねた(榎本,2000)。
手続き:
実験は実験者の授業中に協力者を募り,実施した。まず質問紙①から③までの記入を求めた。次に,参加者を「実験群(n=20)」「黙読群(n=20)」「統制群(n=18)」の3群に無作為に割り当て,群ごとに異なる課題を実施させた。実験群は,本研究で作成されたSC介入心理教育プログラムアプリを操作させた。黙読群は,アプリで用いたSCに関する8つの設問をPC画面で黙読させた。統制群は,羽鳥・石村・樫村・浅野(2013)を参考に,現在はいている靴の特徴と身に着けているものの特徴について詳しく記述するように記入を求めた(千鳥ら,2017)。最後に状態SC尺度のみ回答を求めた。実験群は,PCでアプリを操作して心理教育的介入に関する感想を自由記述で求めた。
結 果
(1)実験群における実験前後の状態SC平均値の比較
実験群の実験参加前後における状態SC尺度得点の各6因子における平均値および標準偏差を求めた。実験前後の各因子のt検定を実施したところ,有意差は見られなかった。
(2)実験群と統制群における実験前後の状態SC平均値の比較
実験群と統制群における実験前後の状態SC尺度得点の各6因子における平均値および標準偏差を求めた。実験後の実験群と統制群の状態セルフコンパッション得点の平均値についてt検定を実施したところ,「自分への優しさ」(t=1.893,p<.05)および「共通の人間性」(t=.420,p<.01)が実験前より実験後のほうが平均値が有意に高かった。しかし「マインドフルネス」「自己批判」「孤独感」「過剰同一化」については有意差は見られなかった。
(3)実験後のPC操作による感想記述について
「こんな方法があるのかと参考になった」とポジティブな意見がある一方で,「もっと自分の意思をSCに関する設問に対しては反映させたかった」という意見も見られた。
考 察
怒り対処スキル向上のためにSCの概念を教える心理教育アプリを用いた方法は,ある程度効果が見られたと考えられる。「自分への優しさ」が5%水準の有意差だが「共通の人間性」は1%水準で実験後に平均値が高まっており,「誰しも不完全な側面がある」と想像できることが肝要であると思われる。一方で被験者がICT教材について,正解が求められているととまどいを感じたものが一部見られた。今後,アプリの教示文を含めたSCの導入方法を改善していくことが課題である。
大学生が友人関係で葛藤し,友人に対して怒り感情を抱いたときの対処方法は多様である。そのひとつとして他者との関係性を意識しつつ(宮川・谷口,2016)自分を労わるというセルフコンパッション(以下SCと呼ぶ)がある。SCは精神的健康との関連が示され(Neff,2003),SCを高める介入研究が進められている(Neff & Germer,2013)が,日本人大学生を対象とした介入研究の数はまだ限られている。本研究では,大学生が活用しやすいように,SC向上のための心理教育プログラムのアプリケーションを作成,実施し,その効果を明らかにすることを目的とする。
方 法
調査期間:2018年12月~2019年1月
調査協力者:首都圏私立大学在籍者58名
SCアプリケーション心理教育プログラムの構成:
日本語版SC反応尺度を使用した(宮川・谷口,2016)。「あなたが友人との間でトラブルが生じた時に,あなたは何を考え,感じ,行動するかお尋ねします。」と教示し,自分自身や友人関係に対するセルフコンパッション反応を測るための8つの質問を使用した。
尺度構成:
①状態セルフコンパッション尺度:自分へのやさしさ,共通の人間性,マインドフルネス,自己批判,孤独感,過剰同一化の6因子から構成され,「1まったくあてはまらない」から「7非常によくあてはまる」の7件法で尋ねた。
②日本語版セルフ・コンパッション尺度:自分への優しさ,自己批判,人としての普遍的体験,孤立,マインドフルネス,過剰なとらわれの6つの要因から構成されている。「まったくしない」(1点)から「いつもする」(5点)の5件法で回答を求めた(石村・羽鳥・浅野・山口・野村・鋤柄・岩壁,2014)。
③友人関係欲求尺度:相互尊重欲求(8項目),親和欲求(9項目),同調欲求(6項目)から構成され,「まったく思わない(1点)」から「とてもよく思う(6点)」の6件法で尋ねた(榎本,2000)。
手続き:
実験は実験者の授業中に協力者を募り,実施した。まず質問紙①から③までの記入を求めた。次に,参加者を「実験群(n=20)」「黙読群(n=20)」「統制群(n=18)」の3群に無作為に割り当て,群ごとに異なる課題を実施させた。実験群は,本研究で作成されたSC介入心理教育プログラムアプリを操作させた。黙読群は,アプリで用いたSCに関する8つの設問をPC画面で黙読させた。統制群は,羽鳥・石村・樫村・浅野(2013)を参考に,現在はいている靴の特徴と身に着けているものの特徴について詳しく記述するように記入を求めた(千鳥ら,2017)。最後に状態SC尺度のみ回答を求めた。実験群は,PCでアプリを操作して心理教育的介入に関する感想を自由記述で求めた。
結 果
(1)実験群における実験前後の状態SC平均値の比較
実験群の実験参加前後における状態SC尺度得点の各6因子における平均値および標準偏差を求めた。実験前後の各因子のt検定を実施したところ,有意差は見られなかった。
(2)実験群と統制群における実験前後の状態SC平均値の比較
実験群と統制群における実験前後の状態SC尺度得点の各6因子における平均値および標準偏差を求めた。実験後の実験群と統制群の状態セルフコンパッション得点の平均値についてt検定を実施したところ,「自分への優しさ」(t=1.893,p<.05)および「共通の人間性」(t=.420,p<.01)が実験前より実験後のほうが平均値が有意に高かった。しかし「マインドフルネス」「自己批判」「孤独感」「過剰同一化」については有意差は見られなかった。
(3)実験後のPC操作による感想記述について
「こんな方法があるのかと参考になった」とポジティブな意見がある一方で,「もっと自分の意思をSCに関する設問に対しては反映させたかった」という意見も見られた。
考 察
怒り対処スキル向上のためにSCの概念を教える心理教育アプリを用いた方法は,ある程度効果が見られたと考えられる。「自分への優しさ」が5%水準の有意差だが「共通の人間性」は1%水準で実験後に平均値が高まっており,「誰しも不完全な側面がある」と想像できることが肝要であると思われる。一方で被験者がICT教材について,正解が求められているととまどいを感じたものが一部見られた。今後,アプリの教示文を含めたSCの導入方法を改善していくことが課題である。