[PE47] 大学入学期の意思決定と大学適応
Keywords:大学生、意思決定、精神的健康
問題と目的
大学生の各時期の心理的課題を明らかにし,大学生の発達的な理解を深める視点の1つに学生生活サイクル(鶴田,2001)がある。学生生活サイクルでは,学生期を入学期,中間期,卒業期,大学院生期に大別し,各時期の特徴について整理した。その中でも入学期は,慣れ親しんだ生活環境から新しい生活環境への大きな変化を経験し,基本的生活や対人関係,学業面といった幅広い領域において適応を求められる時期とされる(鶴田,2001)。こうした大きな環境の変化に適応するためには,主体的に意思決定を行うだけでなく,周囲と協調し,集団から排除されないように意思決定を行うことも重要であろう。岩渕(2018)では意思決定の傾向を多面的に測定する大学生用主体性尺度を作成し,文化的自己観との関連から妥当性が検証された。しかし,学生生活サイクルの視点から意思決定が大学適応にどのよう寄与するかについては明らかにされていない。そこで本研究では,入学期の大学生を対象に縦断的調査を行い,入学時と1年後の精神的健康や友人満足度の変化に対して意思決定が与える影響について検討することを目的とする。
方 法
大学生548名を対象に質問紙調査を実施し,回答に著しい欠損のなかった533名(男子431名,女子102名,入学時の平均年齢18.37(SD=0.61)歳)を分析対象とした。調査は2016年から2018年にかけて,大学入学時とその1年後の4月に実施した。
使用尺度は1)意思決定の傾向を測定する大学生用主体性尺度(岩渕,2018)12項目5件法,2)精神的健康を測定するUPI16T-GR(岩渕・加藤,2018)16項目4件法,3)友人満足感尺度(加藤,2001)6項目4件法であった。UPI16T-GRは岩渕・加藤(2018)と等化した潜在特性値を分析に用いた。その他の尺度は総得点を項目数で除した値を分析に用いた。
結 果
入学時と1年後(2年時)の各尺度得点を比較したところ,意思決定の「表面的同調」とUPI16T-GRにおいて有意差が示された(Table1)
次に,入学時と1年後(2年時)のUPI16T-GR,友人満足感の変化量(UPI,友人満足)を目的変数,入学時の意思決定の各側面(f1,f2,f3)と,意思決定の1年後の変化量(f1,f2,f3),性別(gender)を説明変数とする重回帰分析を行った。なお,UPI16T-GRは得点が高いほど精神的に不健康であることを表す。分析の結果,UPI16T-GRの変化量に対して「主体的選択」と「衝突回避」の変化量(f1,f2)から負の,「表面的同調」の変化量(f3)から正の影響が示された。また,友人満足感の変化量に対しては「主体的選択」の変化量(f1)から正の影響が示された(Table2)。
考 察
本研究では,大学生の入学期における適応を精神的健康と友人満足感から捉え,意思決定が大学適応に与える影響について検討した。その結果,主体的に意思決定を行う傾向が高まると精神的健康が良好となり,友人満足感が高まることが示された。また,周囲との衝突を避ける傾向が高まると精神的健康が良好になることが示された。しかし,これら2つの意思決定の傾向は1年間で有意に変化していなかった。その一方で,周囲に同調的な傾向は1年間で有意に低下することが示され,この傾向が低下すると精神的健康が良好になることが示された。この「表面的同調」の結果から,入学期の大学生は新しい環境への初期適応方略として周囲に対して同調的に振る舞うこと,そして,大学生活に慣れてくることに伴い,必ずしも同調的に振る舞わずに済むようになることが示唆された。ただし,精神的健康は平均的には有意に悪化することが明らかとなったため,精神的健康や友人満足感を良好な状態に保つために,特に「主体的選択」を高めるようなプログラムを入学期に実施することが有用であると言えよう。
大学生の各時期の心理的課題を明らかにし,大学生の発達的な理解を深める視点の1つに学生生活サイクル(鶴田,2001)がある。学生生活サイクルでは,学生期を入学期,中間期,卒業期,大学院生期に大別し,各時期の特徴について整理した。その中でも入学期は,慣れ親しんだ生活環境から新しい生活環境への大きな変化を経験し,基本的生活や対人関係,学業面といった幅広い領域において適応を求められる時期とされる(鶴田,2001)。こうした大きな環境の変化に適応するためには,主体的に意思決定を行うだけでなく,周囲と協調し,集団から排除されないように意思決定を行うことも重要であろう。岩渕(2018)では意思決定の傾向を多面的に測定する大学生用主体性尺度を作成し,文化的自己観との関連から妥当性が検証された。しかし,学生生活サイクルの視点から意思決定が大学適応にどのよう寄与するかについては明らかにされていない。そこで本研究では,入学期の大学生を対象に縦断的調査を行い,入学時と1年後の精神的健康や友人満足度の変化に対して意思決定が与える影響について検討することを目的とする。
方 法
大学生548名を対象に質問紙調査を実施し,回答に著しい欠損のなかった533名(男子431名,女子102名,入学時の平均年齢18.37(SD=0.61)歳)を分析対象とした。調査は2016年から2018年にかけて,大学入学時とその1年後の4月に実施した。
使用尺度は1)意思決定の傾向を測定する大学生用主体性尺度(岩渕,2018)12項目5件法,2)精神的健康を測定するUPI16T-GR(岩渕・加藤,2018)16項目4件法,3)友人満足感尺度(加藤,2001)6項目4件法であった。UPI16T-GRは岩渕・加藤(2018)と等化した潜在特性値を分析に用いた。その他の尺度は総得点を項目数で除した値を分析に用いた。
結 果
入学時と1年後(2年時)の各尺度得点を比較したところ,意思決定の「表面的同調」とUPI16T-GRにおいて有意差が示された(Table1)
次に,入学時と1年後(2年時)のUPI16T-GR,友人満足感の変化量(UPI,友人満足)を目的変数,入学時の意思決定の各側面(f1,f2,f3)と,意思決定の1年後の変化量(f1,f2,f3),性別(gender)を説明変数とする重回帰分析を行った。なお,UPI16T-GRは得点が高いほど精神的に不健康であることを表す。分析の結果,UPI16T-GRの変化量に対して「主体的選択」と「衝突回避」の変化量(f1,f2)から負の,「表面的同調」の変化量(f3)から正の影響が示された。また,友人満足感の変化量に対しては「主体的選択」の変化量(f1)から正の影響が示された(Table2)。
考 察
本研究では,大学生の入学期における適応を精神的健康と友人満足感から捉え,意思決定が大学適応に与える影響について検討した。その結果,主体的に意思決定を行う傾向が高まると精神的健康が良好となり,友人満足感が高まることが示された。また,周囲との衝突を避ける傾向が高まると精神的健康が良好になることが示された。しかし,これら2つの意思決定の傾向は1年間で有意に変化していなかった。その一方で,周囲に同調的な傾向は1年間で有意に低下することが示され,この傾向が低下すると精神的健康が良好になることが示された。この「表面的同調」の結果から,入学期の大学生は新しい環境への初期適応方略として周囲に対して同調的に振る舞うこと,そして,大学生活に慣れてくることに伴い,必ずしも同調的に振る舞わずに済むようになることが示唆された。ただし,精神的健康は平均的には有意に悪化することが明らかとなったため,精神的健康や友人満足感を良好な状態に保つために,特に「主体的選択」を高めるようなプログラムを入学期に実施することが有用であると言えよう。