[PE49] 通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある児童が過ごしやすい学級雰囲気の検討
キーワード:通常の学級、発達障害、学級雰囲気
問題と目的
わが国では共生社会の実現を目指し,幼少期から障害のある者とない者が共に学ぶインクルーシブ教育システムの構築を目指している(文部科学省,2012a)。また,通常の学級には,6.5%の割合で発達障害の可能性のある児童生徒が在籍している(文部科学省,2012b)。特に,日本の学校は,1年間固定されたメンバーで学校行事をはじめとする様々な活動を行うことから(河村,2010),「学級」での過ごしやすさは学校生活を送る上で重要なポイントである。共生社会の実現には,発達障害の可能性のある児童生徒に対する担任教師による指導・支援の工夫や配慮はもちろんのこと,当該児童生徒と共に学ぶクラスメイトの理解や支えが重要となる。したがって,通常の学級における特別支援教育の充実は喫緊の課題である。
そこで本研究は,学級に醸成する“雰囲気”が、発達障害の可能性のあるクラスメイトに対する認知や働きかけに及ぼす影響を明らかにすることを通して,通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある児童が過ごしやすいとされる学級の状態を検討することを目的とした。
方 法
調査対象者 公立小学校に在籍する高学年の児童239名(4年生82名,5年生81名,6年生76名の9学級)を対象に質問紙調査を実施し,233名の回答を分析対象とした(有効回答率97.4%)。
20XX年5月に,授業時間などを用いて各教室において集団で実施し,その場で回収を行った。
調査項目 (1)学級雰囲気に関する項目:「学級雰囲気因子分析結果(三島・宇野,2004)」,「学級雰囲気認知尺度(濵上・米澤,2009)」を参考に,通常の学級に在籍する発達障害の特性を示すクラスメイトとの関係性について問う項目を追加し,独自に作成した24項目を用いた。(2)発達障害の可能性あるクラスメイトに対する認知と働きかけに関する項目:発達障害の可能性のあるクラスメイトを設定するにあたり,発達障害の文言は使用せず,どの児童が回答しても同じ発達障害の特性を示すクラスメイトを想定できるよう,内山(2006)を参考にしたイラストを用いた独自のエピソードを作成した。それらを読んだ後に回答する質問項目は,「問題性評価尺度(竹村,2008)」,「気になる児童の問題行動に関する教師の認知の因子分析結果(児玉・山下,2013)」,「対処行動評価尺度(竹村,2008)」を参考にしながら,平易な文を用いて作成した15項目を用いた。
結果と考察
各質問項目について因子分析(主因子法・Promax回転)を行った結果,(1)学級雰囲気に関する項目は3因子19項目を採用し,第1因子を「規律・ルール」,第2因子を「居心地・仲間意識」,第3因子を「認め合い」と命名した。(2)発達障害の可能性のあるクラスメイトに対する認知と働きかけに関する項目は3因子13項目を採用し,第1因子を「原因究明・問題解決的行動」,第2因子を「対処可能性評価」,第3因子を「影響性評価・情動軽減的行動」と命名した。Cronbach’sのα係数は.70~.86であり,信頼性が確認された。
次に,学級雰囲気が発達障害の可能性のあるクラスメイトに対する認知と働きかけに及ぼす影響について,Pearsonの積率相関係数を求めた結果,「規律・ルール」と「居心地・仲間意識」との間(r=.673,p<.001)に最も強い正の相関が示された。また,「居心地・仲間意識」は「原因究明・問題解決的行動」との間(r=.475,p<.001)および,「対処可能性評価」との間(r=.488,p<.001)にも強い相関を示すことが確認された。
したがって,学級の規律やルールが整った秩序が保たれた学級は,居心地が良く仲間意識が高いことが示された。さらに,学級の「居心地・仲間意識」と発達障害の可能性のあるクラスメイトに対する認知を示す「対処可能性評価」およびポジティブな働きかけを示す「原因究明・問題解決的行動」にも相関がみられた。これらは,学級の居心地の良さは,発達障害の可能性のあるクラスメイトに対するポジティブな評価に繋がり,さらに,ポジティブな評価はポジティブな関わり(援助)を促進する可能性を示唆している。
以上から,通常の学級における特別支援教育の充実には,まずは学校・学級の規律やルール(スタンダード)を整えることが重要であり,そして,学級経営の基盤づくりが発達障害の可能性のある児童が過ごしやすい学級づくりに繋がることが示唆された。これらの結果は,「周りの児童への障害理解を促すためには,学級経営の良好さが重要である」という川合・深山(2012)や曽山・堅田(2012)の報告と類似するものであった。
わが国では共生社会の実現を目指し,幼少期から障害のある者とない者が共に学ぶインクルーシブ教育システムの構築を目指している(文部科学省,2012a)。また,通常の学級には,6.5%の割合で発達障害の可能性のある児童生徒が在籍している(文部科学省,2012b)。特に,日本の学校は,1年間固定されたメンバーで学校行事をはじめとする様々な活動を行うことから(河村,2010),「学級」での過ごしやすさは学校生活を送る上で重要なポイントである。共生社会の実現には,発達障害の可能性のある児童生徒に対する担任教師による指導・支援の工夫や配慮はもちろんのこと,当該児童生徒と共に学ぶクラスメイトの理解や支えが重要となる。したがって,通常の学級における特別支援教育の充実は喫緊の課題である。
そこで本研究は,学級に醸成する“雰囲気”が、発達障害の可能性のあるクラスメイトに対する認知や働きかけに及ぼす影響を明らかにすることを通して,通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある児童が過ごしやすいとされる学級の状態を検討することを目的とした。
方 法
調査対象者 公立小学校に在籍する高学年の児童239名(4年生82名,5年生81名,6年生76名の9学級)を対象に質問紙調査を実施し,233名の回答を分析対象とした(有効回答率97.4%)。
20XX年5月に,授業時間などを用いて各教室において集団で実施し,その場で回収を行った。
調査項目 (1)学級雰囲気に関する項目:「学級雰囲気因子分析結果(三島・宇野,2004)」,「学級雰囲気認知尺度(濵上・米澤,2009)」を参考に,通常の学級に在籍する発達障害の特性を示すクラスメイトとの関係性について問う項目を追加し,独自に作成した24項目を用いた。(2)発達障害の可能性あるクラスメイトに対する認知と働きかけに関する項目:発達障害の可能性のあるクラスメイトを設定するにあたり,発達障害の文言は使用せず,どの児童が回答しても同じ発達障害の特性を示すクラスメイトを想定できるよう,内山(2006)を参考にしたイラストを用いた独自のエピソードを作成した。それらを読んだ後に回答する質問項目は,「問題性評価尺度(竹村,2008)」,「気になる児童の問題行動に関する教師の認知の因子分析結果(児玉・山下,2013)」,「対処行動評価尺度(竹村,2008)」を参考にしながら,平易な文を用いて作成した15項目を用いた。
結果と考察
各質問項目について因子分析(主因子法・Promax回転)を行った結果,(1)学級雰囲気に関する項目は3因子19項目を採用し,第1因子を「規律・ルール」,第2因子を「居心地・仲間意識」,第3因子を「認め合い」と命名した。(2)発達障害の可能性のあるクラスメイトに対する認知と働きかけに関する項目は3因子13項目を採用し,第1因子を「原因究明・問題解決的行動」,第2因子を「対処可能性評価」,第3因子を「影響性評価・情動軽減的行動」と命名した。Cronbach’sのα係数は.70~.86であり,信頼性が確認された。
次に,学級雰囲気が発達障害の可能性のあるクラスメイトに対する認知と働きかけに及ぼす影響について,Pearsonの積率相関係数を求めた結果,「規律・ルール」と「居心地・仲間意識」との間(r=.673,p<.001)に最も強い正の相関が示された。また,「居心地・仲間意識」は「原因究明・問題解決的行動」との間(r=.475,p<.001)および,「対処可能性評価」との間(r=.488,p<.001)にも強い相関を示すことが確認された。
したがって,学級の規律やルールが整った秩序が保たれた学級は,居心地が良く仲間意識が高いことが示された。さらに,学級の「居心地・仲間意識」と発達障害の可能性のあるクラスメイトに対する認知を示す「対処可能性評価」およびポジティブな働きかけを示す「原因究明・問題解決的行動」にも相関がみられた。これらは,学級の居心地の良さは,発達障害の可能性のあるクラスメイトに対するポジティブな評価に繋がり,さらに,ポジティブな評価はポジティブな関わり(援助)を促進する可能性を示唆している。
以上から,通常の学級における特別支援教育の充実には,まずは学校・学級の規律やルール(スタンダード)を整えることが重要であり,そして,学級経営の基盤づくりが発達障害の可能性のある児童が過ごしやすい学級づくりに繋がることが示唆された。これらの結果は,「周りの児童への障害理解を促すためには,学級経営の良好さが重要である」という川合・深山(2012)や曽山・堅田(2012)の報告と類似するものであった。