日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PE] ポスター発表 PE(01-67)

2019年9月15日(日) 13:30 〜 15:30 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号13:30~14:30
偶数番号14:30~15:30

[PE58] 中学生に対するフォニックス指導の有効性の検討

小田真実1, 湯澤正通2 (1.広島大学, 2.広島大学)

キーワード:英語、フォニックス、リスニング

問題と目的
 日本人は同じアジア圏に属する周辺諸国と比較しても,英語を用いたコミュニケーションに苦手意識が強いことが指摘されている。また,文字と音が一対一対応である日本語とは異なり,英語の場合は一つの文字に対して複数の音が対応するため,中学校入学後の英語の読み書きの学習にも困難を感じる日本人が多い。ただし, このような音と文字の関係性における複雑さは,英語を母語とするものに対しても,読み障害や英語の学習遅延をもたらすことが指摘されている(Paulsen, Brunswick, & Paganelli,2010)。
 このような英語の習得における困難さを克服するために開発されたのがジョリー・フォニックスである。ジョリー・フォニックスとは,英語の文字とそれに対応する音の間にある規則を教える指導法であり(Wernham & Loyd,2010 山下監訳 2017),フォニックスに基づく指導によって,日本母語話者の英語リスニングスキルや英語に対する効力感の向上が示されている(湯澤・湯澤・関口・李・水口,2010;篠ケ谷,2018)。
 しかしながら,これまでのフォニックスに関する研究は,幼児や小学生を対象にしたものが多く,実際に英語が正式に教科となる中学生に対しても,効果的な支援であるかは検討されていない。したがって,本研究では,ジョリー・フォニックスに基づく指導が,中学生の英語,特にコミュニケーションの基盤であるリスニングに対して有用であるかを検討する。
方  法
参加者 A県の県立中学校に通う中学生29名であった。プレ・ポストテスト双方に参加した生徒は7名,音素の口頭再生に参加した生徒は10名であった。研究授業は放課後に実施され,学校長から保護者および生徒に研究の説明と参加の案内が配布され,希望者が参加した。
フォニックス 2018年11月から12月にかけて全5回の指導を行った。指導は1回50分で実施した。
指導はジョリー・フォニックスに基づき,音と文字の対応の学習,発音の練習,音素同士のブレンディングの練習という3段階からなるプログラムを,英語の基本的な音素となる42音に対して実施した。42音は1回につき7‐9個に分けて指導した。42音の音素は,1文字の音素24個(e.g. [s])と2文字の音素18個(e.g. [oa])で構成された。
プレ・ポストテスト 指導の初回と最終回に,英単語5個のディクテーションを求めた。ディクテーションには,1,2音節の英単語を用いた。
口頭再生 5回目の指導の最後に,42個の音素の読み方がどれだけ定着しているかを確認するため,各音素の読み方を口頭再生で求めた。
結  果
プレ・ポストテスト 英単語の各音節への正誤を判断し,英単語5個に含まれる全ての音節に対する正答率を算出した。そのうえで,正答率を角変換し,プレ・ポストテスト間の正答率を比較したt検定を実施した。その結果,テスト間で有意差は見られなかったが,中程度の効果量が示された(t(6)=-2.05, p=.09,d=-5.98)。
口頭再生 音素の読み方を正しく再生できているかを音素ごとに正誤判断し,文字数別に正答率を算出した。その結果,1文字の音素のほうが,2文字の音素よりも,正確に口頭再生されたことが分かった(t(9)=5.18,p<.01,d=1.45)。
考  察
 本研究の目的は,英語が正式に教科とされている中学生を対象として,ジョリー・フォニックスに基づく指導が英語,特にリスニングに対して有用であるかを検討することであった。本研究の結果として,有意差は示されなかったものの,フォニックス指導は音素のリスニングに対して,中程度の効果をもつことが示された。また,音素の読み方については,1文字の音素のほうが,2文字の音素よりも定着していることが分かった。
 以上より,2文字の音素への指導をより丁寧に行うことで,英語のリスニングに対するフォニックスの効果は増大すると考えられる。