[PE60] 教師の関わり方が子どもの動機づけに与える影響
小学生におけるクラスメイトとの関係への動機づけに着目して
Keywords:動機づけ、小学生、マルチレベルSEM
問題と目的
子どもが自律性を持つことは適応的な結果を導くとされており(Ryan & Deci, 2000),学校教育においても自律性支援の必要性が述べられている(Deci & Ryan, 1985)。自律性は対人関係においても重要であり,特に1年以上を共に過ごすクラスメイトとの関係についてもその自律性,すなわち動機づけを検討することの意義は大きい。
また,日本のほとんどの小学校では,1年以上同じ担任教師から教科指導や生活指導を受けるため,子どもの自律性に対して担任教師の関わり方が与える影響は無視できない。そこで,本研究では,教師の関わりとして学級の社会的目標構造を取り上げ,クラスメイトとの関係への自律性(動機づけ)に与える影響について検討する。
方 法
調査対象 中国・九州地方の小学校6校に在籍する4年生から6年生の38学級1152名(男子594名,女子557名,性別回答無し1名)。
調査内容 1)大谷他(2016)の「学級の社会的目標構造尺度」を用いた。「向社会的目標構造」と「規範遵守目標構造」の2因子14項目。2)岡田(2005)の「友人関係への動機づけ尺度」の教示文を変更しクラスメイトとの関係への動機づけを尋ねた。自己決定理論に依拠した「内発」,「同一化」,「取り入れ」,「外的」の4因子16項目。
結果と考察
クラスメイトとの関係への動機づけについて,自己決定理論に依拠した因子構造を仮定し,確認的因子分析行った。分析の結果,適合度はχ2(98)=972.01,p<.001,CFI=.882,RMSEA=.086(95%CI=[.081,.091]),SRMR=.063であり,下位尺度のα係数は.72から.85であった。このことから,一定の信頼性を有すると判断しそれぞれの下位尺度の加算平均を下位尺度得点とした。下位尺度間の相関係数を算出したところ,先行研究と同様に下位尺度間のシンプレックス構造が確認された。
分析に用いる変数のデザインエフェクトを算出したところ,クラスメイトとの関係への動機づけでは1.57以上,学級の社会的目標構造では3.25以上の値が得られたため,マルチレベルモデルを用いることとする。社会的目標構造がクラスメイトとの関係への動機づけに与える影響を検討するため,学級の社会的目標構造からクラスメイトとの関係への動機づけにパスを引き,社会的目標構造と動機づけそれぞれの下位尺度間に共分散を設定した飽和モデルを想定した。マルチレベルSEMによる分析の結果をFigure 1に示す。児童レベルにおいて,向社会的目標構造はすべての動機づけに,規範遵守目標構造は他律的動機づけに影響を与えていた。一方で,学級レベルにおいて,向社会的目標構造が自律的動機づけに影響を与えていた。
本研究の結果から,児童は学級の向社会的な目標を必ずしも内在化しているわけではなく,学級での思いやりや互恵性が強調されることで被統制感を抱き得ることが示された。ただし学級レベルにおいて向社会的目標構造から自律的な動機づけのみに有意なパスが確認されたことから,学級目標としての思いやりや互恵性の強調は児童間の自律的な動機づけを促進しているといえる。
子どもが自律性を持つことは適応的な結果を導くとされており(Ryan & Deci, 2000),学校教育においても自律性支援の必要性が述べられている(Deci & Ryan, 1985)。自律性は対人関係においても重要であり,特に1年以上を共に過ごすクラスメイトとの関係についてもその自律性,すなわち動機づけを検討することの意義は大きい。
また,日本のほとんどの小学校では,1年以上同じ担任教師から教科指導や生活指導を受けるため,子どもの自律性に対して担任教師の関わり方が与える影響は無視できない。そこで,本研究では,教師の関わりとして学級の社会的目標構造を取り上げ,クラスメイトとの関係への自律性(動機づけ)に与える影響について検討する。
方 法
調査対象 中国・九州地方の小学校6校に在籍する4年生から6年生の38学級1152名(男子594名,女子557名,性別回答無し1名)。
調査内容 1)大谷他(2016)の「学級の社会的目標構造尺度」を用いた。「向社会的目標構造」と「規範遵守目標構造」の2因子14項目。2)岡田(2005)の「友人関係への動機づけ尺度」の教示文を変更しクラスメイトとの関係への動機づけを尋ねた。自己決定理論に依拠した「内発」,「同一化」,「取り入れ」,「外的」の4因子16項目。
結果と考察
クラスメイトとの関係への動機づけについて,自己決定理論に依拠した因子構造を仮定し,確認的因子分析行った。分析の結果,適合度はχ2(98)=972.01,p<.001,CFI=.882,RMSEA=.086(95%CI=[.081,.091]),SRMR=.063であり,下位尺度のα係数は.72から.85であった。このことから,一定の信頼性を有すると判断しそれぞれの下位尺度の加算平均を下位尺度得点とした。下位尺度間の相関係数を算出したところ,先行研究と同様に下位尺度間のシンプレックス構造が確認された。
分析に用いる変数のデザインエフェクトを算出したところ,クラスメイトとの関係への動機づけでは1.57以上,学級の社会的目標構造では3.25以上の値が得られたため,マルチレベルモデルを用いることとする。社会的目標構造がクラスメイトとの関係への動機づけに与える影響を検討するため,学級の社会的目標構造からクラスメイトとの関係への動機づけにパスを引き,社会的目標構造と動機づけそれぞれの下位尺度間に共分散を設定した飽和モデルを想定した。マルチレベルSEMによる分析の結果をFigure 1に示す。児童レベルにおいて,向社会的目標構造はすべての動機づけに,規範遵守目標構造は他律的動機づけに影響を与えていた。一方で,学級レベルにおいて,向社会的目標構造が自律的動機づけに影響を与えていた。
本研究の結果から,児童は学級の向社会的な目標を必ずしも内在化しているわけではなく,学級での思いやりや互恵性が強調されることで被統制感を抱き得ることが示された。ただし学級レベルにおいて向社会的目標構造から自律的な動機づけのみに有意なパスが確認されたことから,学級目標としての思いやりや互恵性の強調は児童間の自律的な動機づけを促進しているといえる。