[PE61] 多様な教育的ニーズを持つ生徒の指導に関する高校教師のビリーフ
学校タイプの比較から「学力低位校」に焦点を当てて
Keywords:高等学校、ビリーフ、生徒指導
問題と目的
「教育困難校」と称される高校では,低学力や学習意欲の低下などの学習面の課題,基本的生活習慣の未確立やソーシャル・スキルの不足,反社会的・非社会的問題の多さ,中途退学率や発達障害等のある生徒の割合の高さなど様々な課題が指摘されている。
本研究では,教師の指導行動に関連する教師特有のビリーフについて高校タイプによる比較をおこない,教師に求められる個々の生徒の多様な教育的ニーズに応じた指導について検討する。
方 法
調査対象 A県の全日制普通科高校の教師177名(男性 137名,女性 40名)
調査時期と手続き 20XX年2月~3月,調査対象の教師に「教師の信念尺度」(鈴木,2008)への回答を求めた。この尺度は河村・國分(1996)により作成された「教師特有のイラショナル・ビリーフ尺度」68項目から選択された26項目3因子(毅然とした集団指導,教職への熱意・使命感 ,敬慕される教師像 )から構成される。
結 果
高校入試情報サイトの高校偏差値.net(2018)に記載されている高校入学の目安となる偏差値により,教師の所属する学校を3つの高校タイプに区分した。平均値±1/2標準偏差により「学力上位校」,「学力中位校」,「学力低位校」に区分した。教師の信念尺度の下位尺度得点を算出し,学校タイプ間の有意差の検定のために一要因分散分析をおこなった。結果,「毅然とした集団指導」ビリーフにおいて有意なF値が得られたため,Tukey法による多重比較をおこなった(Table 1)。「毅然とした集団指導」ビリーフにおいて,学力低位校が学力上位校と学力中位校よりも有意に得点が高いことが明らかになり,高校タイプによる特性の違いによって教師特有のビリーフが強い領域に差異があることが示唆された。
考 察
結果から,学力低位校では教師の生徒を管理・統制するビリーフが強く,画一的・固定的な一斉指導がおこなわれている可能性が示唆された。しかし,学力低位校には多様な教育的ニーズを持つ生徒が多数在籍することが考えられ,教師の管理・統制ビリーフの強さが生徒の多様性を認識することを妨げ,個々の教育的ニーズに応じる指導を阻害するイラショナル・ビリーフであることが示唆された。
学力低位校の教師のイラショナル・ビリーフが強い要因について次の2点が考えられる。第一に,学力低位校では授業不成立が指導の危機とされ(古賀,2001),授業不成立は教師のメンタルヘルスに影響を与えている(小島,2002)。このため授業不成立を回避し,学校や授業の秩序維持を重要視するために,管理・統制的指導や一斉型の指導が強調されていることが推察される。第二に,教師が生徒の困難さを理解できていない,関心が薄い,あるいは困難さの背景を理解する時間的,精神的余裕がないことが考えられる。この背景に,発達上の課題や家庭環境の問題が見えにくいという要因がある他に,生徒たちは受験を経て入学しているという「適格者主義」の考え方がいまだに根強いこと,さらに,高校教師の特別支援教育への抵抗の強さが考えられる。
「教育困難校」と称される高校では,低学力や学習意欲の低下などの学習面の課題,基本的生活習慣の未確立やソーシャル・スキルの不足,反社会的・非社会的問題の多さ,中途退学率や発達障害等のある生徒の割合の高さなど様々な課題が指摘されている。
本研究では,教師の指導行動に関連する教師特有のビリーフについて高校タイプによる比較をおこない,教師に求められる個々の生徒の多様な教育的ニーズに応じた指導について検討する。
方 法
調査対象 A県の全日制普通科高校の教師177名(男性 137名,女性 40名)
調査時期と手続き 20XX年2月~3月,調査対象の教師に「教師の信念尺度」(鈴木,2008)への回答を求めた。この尺度は河村・國分(1996)により作成された「教師特有のイラショナル・ビリーフ尺度」68項目から選択された26項目3因子(毅然とした集団指導,教職への熱意・使命感 ,敬慕される教師像 )から構成される。
結 果
高校入試情報サイトの高校偏差値.net(2018)に記載されている高校入学の目安となる偏差値により,教師の所属する学校を3つの高校タイプに区分した。平均値±1/2標準偏差により「学力上位校」,「学力中位校」,「学力低位校」に区分した。教師の信念尺度の下位尺度得点を算出し,学校タイプ間の有意差の検定のために一要因分散分析をおこなった。結果,「毅然とした集団指導」ビリーフにおいて有意なF値が得られたため,Tukey法による多重比較をおこなった(Table 1)。「毅然とした集団指導」ビリーフにおいて,学力低位校が学力上位校と学力中位校よりも有意に得点が高いことが明らかになり,高校タイプによる特性の違いによって教師特有のビリーフが強い領域に差異があることが示唆された。
考 察
結果から,学力低位校では教師の生徒を管理・統制するビリーフが強く,画一的・固定的な一斉指導がおこなわれている可能性が示唆された。しかし,学力低位校には多様な教育的ニーズを持つ生徒が多数在籍することが考えられ,教師の管理・統制ビリーフの強さが生徒の多様性を認識することを妨げ,個々の教育的ニーズに応じる指導を阻害するイラショナル・ビリーフであることが示唆された。
学力低位校の教師のイラショナル・ビリーフが強い要因について次の2点が考えられる。第一に,学力低位校では授業不成立が指導の危機とされ(古賀,2001),授業不成立は教師のメンタルヘルスに影響を与えている(小島,2002)。このため授業不成立を回避し,学校や授業の秩序維持を重要視するために,管理・統制的指導や一斉型の指導が強調されていることが推察される。第二に,教師が生徒の困難さを理解できていない,関心が薄い,あるいは困難さの背景を理解する時間的,精神的余裕がないことが考えられる。この背景に,発達上の課題や家庭環境の問題が見えにくいという要因がある他に,生徒たちは受験を経て入学しているという「適格者主義」の考え方がいまだに根強いこと,さらに,高校教師の特別支援教育への抵抗の強さが考えられる。