[PF02] 幼稚園の運動会が5歳児の発達に及ぼす影響について(2)
向社会的行動の調査から
キーワード:運動会、5歳児、向社会的行動
問題と目的
人間関係の脆弱さが問われる現代社会において,子どもの社会性を涵養する心理学的アプローチは重要といえる。そこで,本研究では社会性の育ちに不可欠な向社会的行動に着目した。向社会的行動とは,他者の利益を目的とされる自発的な行動である。ところで,幼児期における保育実践を具現化するため,幼稚園では運動会が実施されている。運動会は,かかわろうとする力など幼稚園児の発達の質に大きな変化を生み出す。そこで,本調査では,幼稚園児の運動会体験によって向社会的行動がどのように変化することに着目し,幼稚園5歳児の運動会前後(プレ-ポスト)の向社会的行動について検討した。
方 法
調査対象者 幼稚園5歳児(男児32名,女児30名)の計62名と担任教諭2名。
測定尺度 向社会的行動の測定:伊藤(2004)が用いた向社会性の評定項目を参考にして作成した。伊藤(2004)では児童の向社会性を小学校教諭が評価するため,本調査では幼稚園児用に項目内容を修正し,向社会性に関する10項目について担任教諭が園児個別に回答した。
項目例は「友だちが忘れ物をしたとき自分の物を貸す」,「自分がいいものをもらったとき,友だちにもわける」などである。なお,評定は「全く見られない(1点)」から「よく見られる(5点)」であった。
また,5歳児の担任教諭の記録等をふまえ5歳児個別の運動会時のエピソードを尋ねた。
結 果
調査対象者である幼稚園児の日齢と運動会プレ-ポストの向社会的行動得点との関連を検討した。その結果,有意な相関関係は認められなかった(プレ r =.10,n.s.;ポスト r =.18,n.s.)。
運動会前後における向社会的行動の検討
プレ-ポストにおける5歳児の向社会的行動得点を検討した(Table 1)。その結果,ポストテストの得点がプレテストの得点よりも高いことが示された(t (61) =8.54,p <.001)。また,性別の差異を検討するため,男女別の平均値を算出し,t検定を行ったところ,プレ-ポストの得点の両方において,女児の得点が男児の得点よりも高いことが明らかになった(プレ 男児
M =35.97(7.49),女児M =39.80(7.46),t(48)=2.11,p <.05; ポスト 男児M =41.59(5.39),女児M =44.80(5.31),t(50)=2.51, p <.05)。
運動会に関するエピソードの検討
運動会のプレ-ポストにおいて,得点の上昇が著しかった園児2名について,担任教諭が報告した運動会に関するエピソードを検討した。
園児A(プレ-ポスト得点差17点)は,ボール転がしのコース作りの際,「コース作りができないときには,2人組でいっしょに作るといいよ」などの一緒に行うことを意識した発言が多かった。また,運動会に向けての活動中において,「ぼくもやってみたい」と上手くできるわけではないが,自発的な言葉がでるようになったことが明らかになった。また,園児B(プレ-ポスト得点差16点)については,皆で何かを取り組むときに,一緒に行動することが少なったが,運動会に関する活動をとおして,周囲に目を配るようになった。例えば「○○くんがこんなことをやっているから,こうしないと」,「○○くん,今はこうしたほうが良いよ」など,友だちのことを考える行動を頻繁に示したと担任教諭からの報告があった。
考 察
本調査の結果より,幼児期の保育実践である運動会の前後において,5歳児の向社会的行動得点が上昇することが明らかになった。また,向社会的行動得点が顕著に上昇した5歳児個別のエピソードを検討したところ,運動会に関する活動をとおした向社会的なエピソードがみられた。
向社会的行動の発現には多様な心理機能が関連しているが,本調査より,5歳児の運動会をとおした経験が,向社会的行動を高めるのに効果的である可能性が示唆された。今後,5歳児の運動会後の向社会的行動得点がどのように変化するのかを継続的に検討する必要があろう。
人間関係の脆弱さが問われる現代社会において,子どもの社会性を涵養する心理学的アプローチは重要といえる。そこで,本研究では社会性の育ちに不可欠な向社会的行動に着目した。向社会的行動とは,他者の利益を目的とされる自発的な行動である。ところで,幼児期における保育実践を具現化するため,幼稚園では運動会が実施されている。運動会は,かかわろうとする力など幼稚園児の発達の質に大きな変化を生み出す。そこで,本調査では,幼稚園児の運動会体験によって向社会的行動がどのように変化することに着目し,幼稚園5歳児の運動会前後(プレ-ポスト)の向社会的行動について検討した。
方 法
調査対象者 幼稚園5歳児(男児32名,女児30名)の計62名と担任教諭2名。
測定尺度 向社会的行動の測定:伊藤(2004)が用いた向社会性の評定項目を参考にして作成した。伊藤(2004)では児童の向社会性を小学校教諭が評価するため,本調査では幼稚園児用に項目内容を修正し,向社会性に関する10項目について担任教諭が園児個別に回答した。
項目例は「友だちが忘れ物をしたとき自分の物を貸す」,「自分がいいものをもらったとき,友だちにもわける」などである。なお,評定は「全く見られない(1点)」から「よく見られる(5点)」であった。
また,5歳児の担任教諭の記録等をふまえ5歳児個別の運動会時のエピソードを尋ねた。
結 果
調査対象者である幼稚園児の日齢と運動会プレ-ポストの向社会的行動得点との関連を検討した。その結果,有意な相関関係は認められなかった(プレ r =.10,n.s.;ポスト r =.18,n.s.)。
運動会前後における向社会的行動の検討
プレ-ポストにおける5歳児の向社会的行動得点を検討した(Table 1)。その結果,ポストテストの得点がプレテストの得点よりも高いことが示された(t (61) =8.54,p <.001)。また,性別の差異を検討するため,男女別の平均値を算出し,t検定を行ったところ,プレ-ポストの得点の両方において,女児の得点が男児の得点よりも高いことが明らかになった(プレ 男児
M =35.97(7.49),女児M =39.80(7.46),t(48)=2.11,p <.05; ポスト 男児M =41.59(5.39),女児M =44.80(5.31),t(50)=2.51, p <.05)。
運動会に関するエピソードの検討
運動会のプレ-ポストにおいて,得点の上昇が著しかった園児2名について,担任教諭が報告した運動会に関するエピソードを検討した。
園児A(プレ-ポスト得点差17点)は,ボール転がしのコース作りの際,「コース作りができないときには,2人組でいっしょに作るといいよ」などの一緒に行うことを意識した発言が多かった。また,運動会に向けての活動中において,「ぼくもやってみたい」と上手くできるわけではないが,自発的な言葉がでるようになったことが明らかになった。また,園児B(プレ-ポスト得点差16点)については,皆で何かを取り組むときに,一緒に行動することが少なったが,運動会に関する活動をとおして,周囲に目を配るようになった。例えば「○○くんがこんなことをやっているから,こうしないと」,「○○くん,今はこうしたほうが良いよ」など,友だちのことを考える行動を頻繁に示したと担任教諭からの報告があった。
考 察
本調査の結果より,幼児期の保育実践である運動会の前後において,5歳児の向社会的行動得点が上昇することが明らかになった。また,向社会的行動得点が顕著に上昇した5歳児個別のエピソードを検討したところ,運動会に関する活動をとおした向社会的なエピソードがみられた。
向社会的行動の発現には多様な心理機能が関連しているが,本調査より,5歳児の運動会をとおした経験が,向社会的行動を高めるのに効果的である可能性が示唆された。今後,5歳児の運動会後の向社会的行動得点がどのように変化するのかを継続的に検討する必要があろう。