日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PF] ポスター発表 PF(01-67)

2019年9月15日(日) 16:00 〜 18:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号16:00~17:00
偶数番号17:00~18:00

[PF05] 分数と量との対応の理解がゆるやかに進む小学生の事例

大西美香子1, 伊藤康児2, 加藤幸久3 (1.名城大学, 2.名城大学, 3.名城大学大学院)

キーワード:分数、小学生、量との対応

研究の目的
 分数は小学校段階での重要な学習内容であるが,分数が分母・分子という2つの数で表記されることなどから,その理解と計算の習熟は難しいとされる(吉田, 1997)。
 本研究は自身の学年よりも低い学年に配当されている算数の課題に多くの誤答を示してきた児童について,分数と量との対応の理解がゆるやかに進んだ経過を分析し,この児童の数の認知の一面を明らかにすることを目的とする。
方  法
(1)対象者
 B県内のH教室に通う小学生1名。2年生のとき,加減算の習得につまずきが見られたため,教室での学習を始めた。6年生の現在まで,基礎となる内容に立ちもどりながら学習し,ひとつの真分数に対応する量を正しく図示できている。本発表については,保護者より承諾を得ている。
(2)期間
 2018年3月から4月。
(3)手続き
 H教室内で対象者が取り組んだ算数学習課題プリントの解答を分析し,また課題に取り組む際の対象者の行動を参考とした。
結果と考察
(1)二つの真分数の大小を問う課題への誤答
 Figure 1は分子が等しい二つの真分数の大小を比較して不等号を記す課題への解答例である。
分子が同じなら分母が小さい分数の方が大きいが,この種の課題にはすべて誤答している。ひとつの真分数と量との対応は理解できているため,2つの真分数が表す量同士を比較することが難しいと推測される。
(2)仮分数と量との対応を問う課題への誤答
 Figure 2は仮分数,帯分数に対応する量を図示する課題への解答例である。帯分数の課題にはすべて正答しているところから,整数と真分数がそれぞれ表示する量を理解していると推測される。
 対照的に,仮分数の課題にはすべて誤答しており,仮分数と量との対応が十分理解されてはいないと考えられる。真分数は全体を分母で分けたうちの小さい部分と理解できるが,仮分数は分母より分子が大きく,全体-部分の図式を適用できないため,理解が難しいものと推測される。
(3)仮分数を帯分数に変換する課題への誤答
 Figure 3は仮分数,帯分数を変換する課題への解答例である。帯分数から仮分数へは正しく変換されるのに対して,仮分数の変換はすべて合理的な思考をフォローできない誤答をしている。
 帯分数-仮分数の変換は整数×分母の積と分子の加算で行われるのに対して,仮分数-帯分数の変換には分子÷分母の商と減算による余りの算出が求められ,本児のこれまでの四則演算の習得過程を考慮すると,演算の負荷が大きいと考えられる。これに仮分数と量との対応の理解が十分でないことも加わって,仮分数-帯分数の変換が難しい課題であったと推測される。