日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PF] ポスター発表 PF(01-67)

2019年9月15日(日) 16:00 〜 18:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号16:00~17:00
偶数番号17:00~18:00

[PF07] 親のメッセージフレーミング方略が幼児の自己制御傾向に与える影響

佐々木宏之1, 林洋一郎#2 (1.新潟国際情報大学, 2.慶応義塾大学)

キーワード:幼児、制御焦点、メッセージフレーミング

背景と目的
 制御焦点理論(Higgins, 1997)によれば,自己制御機能は幼少期の養育者との相互作用を通して育まれるとされる。Keller(2008)は養育スタイル尺度(PBQ)を用いて,応答的(responsive)な養育スタイルがポジティブな結果の達成を目指す促進焦点傾向と関連し,統制的(restrictive)な養育スタイルがネガティブな結果の回避を目指す予防焦点傾向と関連することを明らかにした。また,Sasaki & Hayashi(2015)は養育者が子どもの自己制御行動を引き出すための説得的な言葉がけを行う際,状況の制御焦点の方向に適合したフレーミング方略を選択することを見出した。これらをふまえ,我々は前回総会において,親の養育スタイルが,親のフレーミング方略の選好を媒介して,子どもの制御焦点傾向に与える影響を報告した。Keller(2008)や前回総会報告は,大学生に幼児期の親の養育を想起してもらう方法を採ったが,本報告では幼児の親による回答をもとに子どもの自己制御傾向に対する言葉がけのフレーミング方略および養育スタイルの影響を検討した。
方  法
調査対象:新潟県のA幼稚園とB子ども園に通園する幼児の保護者182名(平均育児年数7.8年)が回答した。
測定:調査に用いた尺度は以下の3つである。(1) PBQ尺度から,制御焦点に関連する応答的養育7項目,統制的養育7項目を用いた。保護者が幼児に対してどのように接しているか7件法で回答した。(2)説得的メッセージのフレーミング方略に関する質問は6項目である。予防焦点を強調した3項目と促進焦点を強調した3項目から構成された(Sasaki & Hayashi, 2015)。各項目の見出しに状況設定(保育園に遅刻しそう)を提示し,ポジティブ方略(急げばまだ間に合う)とネガティブ方略(急がないと間に合わない)のどちらを使っているか6件法の双極尺度で測定した。(3)幼児の自己制御傾向の測定には,子ども用親評定BIS/BAS尺度を使用した。予防焦点はBIS尺度7項目,促進焦点はBAS尺度7項目を用いて測定した。幼児の自己制御傾向についても,保護者が自分の子どもについて7件法で回答した。
結  果
 子どものBIS/BAS得点を目的変数,親の促進・予防メッセージのフレーミング方略を説明変数とする重回帰分析を行ったところ(Figure 1),予防焦点メッセージにおいてネガティブ方略を採用し,促進焦点メッセージにおいてポジティブ方略を採用する親の幼児はBAS得点が高く(R2=.055, β=.20, p<.01),予防焦点メッセージにおいてポジティブ方略を採用し,促進焦点メッセージおいてネガティブ方略を採用する親の幼児はBIS得点が高かった(R2=.096, β=-.15, p<.05)。
 子どものBIS/BAS得点を目的変数,親の養育スタイルを説明変数とする重回帰分析を行ったところ,BAS得点に対して応答的養育と統制的養育の影響が見られたが(R2=.140, β=.36, p<.01),BIS得点に対してはいずれの養育スタイルも影響は見られなかった。
考  察
 子どもの自己制御傾向に対する親のフレーミング方略の影響については,メッセージの制御焦点の方向に適合するフレーミング方略を採用すると子どものBAS傾向が促され,不適合のフレーミング方略を採用すると子どものBIS傾向が促されることがわかった。また,養育スタイルの影響がBAS傾向においてのみ見られたことについては,前回総会報告で見られた非対称性と一致する。促進焦点傾向と予防焦点傾向が異なるメカニズムで発達することを示唆していると言えよう。