[PF12] 幼児同士の二者関係に広がりを生みだす遊びの特徴
ごっこ遊びにおける目的の曖昧さに着目して
キーワード:幼児、仲間関係、ごっこ遊び
問題と目的
豊かな仲間関係の形成は,保育における重要な教育目標の1つである。この目標と関連して先行研究は,洋の東西を問わず,仲良しを形成して遊べずにいるひとりぼっちの幼児に注目し,能力的な弱さを説明し(例えば,大内・櫻井, 2008),専門的介入を開発してきた(例えば,佐藤, 2015)。
しかし,わが国の保育者たちは,ひとりぼっちだけでなく,“親密すぎる”二者関係などの固定化した仲間関係に対しても,実践上の困難感を抱えていることが報告されてきた(例えば,平松, 2012)。そのような固定化した仲間関係を問題とする場合,個の社会性や相互作用の巧みさに注目する先行研究のアプローチを援用するのではなく,関わる相手が固定化してしまっている状況それ自体を再編していく視座が必要であると考えられる。
幼児は仲良しと遊びを共有することで,決まった相手と継続的に関わり,他児と関わらないことが可能になっている。この点と関連して川田(2018)は,幼児の遊びを検討する際には,「主体-道具(媒介)-対象(目的)」という遊びの三角形を分析単位とする必要性を指摘している。つまり,仲良し同士で取りくむ遊びの要素が再編されることで,幼児は親密な相手との関わりを維持しながらも他児との関わりを広げていくことができる可能性,およびその再編を容易にする遊びの特徴が存在することが推察される。以上より本研究は,仲良しが固定化している幼児が,一緒に遊ぶ相手の幅を広げていく際に,いかなる特徴を有する遊びが有効となっているのかを検討することを目的とする。
方 法
協力者 北海道X市の私立認定子ども園Y園の年少Z組(男児13名,女児12名)を対象とした。なかでも,保育者たちから,特にいつも一緒に行動していると報告された,AとBに注目した。Bは家庭の事情から入園から欠席が頻繁に生じ,園に定着したのは2学期後半になってからであった。
観察期間 201X年2月初旬~3月中旬の約1ヶ月半を対象とした。観察日数は8日であった。
観察方法 午前および午後の自由遊び場面において,AとBの遊びの様子を縦断的に追跡する自然観察を行った。また,時折保育者に対して簡単なインタビューを行った他,保育の流れをフィールドノートに記録し,分析の補助資料とした。
分析資料 AとBの両者が登園して以降の記録を分析資料とした。その上で,8日間の記録を午前と午後の自由遊びに分け,各時間帯で参加人数が最も多かった2人の遊びを事例として抽出した。分析対象となった遊びは全12事例であった。
倫理的配慮 園長に対して書面・口頭で研究概要,プライバシー保護,幼児への非侵襲性を説明して同意を得た。個人や園の名称は全て仮名を用いた。
結果と考察
3学期開始直後から,いつも一緒にいるAとBは「プリキュアごっこ」に夢中になって取り組みはじめていた(5事例/全12事例)。2人はプリキュアになりきるステッキ等のグッズを制作し,その制作物を着飾って架空の敵を倒し,そして作ったグッズを翌日も使うために保管する,「A・B(主体)-グッズ制作・装備(手段)-架空の敵を倒す(目的)」という構造の遊びを日々反復していた。しかし,遊びの「目的」が明確かつ固定的であるがゆえに,2人の遊びはいくら反復しても,媒介となる道具の精度,具体的にはグッズの内容が充実するのみであった。結果,他児の遊びと合流できたのは,類似の構造をもつ仮面ライダーごっこをしていた男児3名と偶然合流した1事例のみであり,2人は閉鎖的に遊び続けていった。
その後しばらくして,プリキュアごっこで使用していたグッズが無い,もしくは持ち帰ってしまった状況下において,2人は「A・B(主体)-うさぎ跳びをする(手段)-うさぎになりきる(目的)」や,「A・B(主体)-かわいい物を作る・着飾る(手段)-妖精になりきる・かわいさを他児にアピールする(目的)」等のごっこ遊びを展開しはじめた(4事例/全12事例)。そうした遊びは「敵を倒す」等の明確な目的を有しておらず,何かになりきることそれ自体を目的としていた。結果,2人は何となくかわいさをアピールしていた先で“妖精になったままラーメン屋さんのお手伝いをはじめる”などし始めた。これは,2人の遊びにおける「目的」を「手段」に移し,他児の遊びの「目的」を共有する形で,他児の遊びに合流することができたものと考えられる。以上より,遊び相手が固定化した関係がほぐれていく際には,「目的」それ自体が曖昧な遊びが,他児の遊びとつながっていく際の有効な媒介となっている可能性が示唆された。
付 記
本研究は科研費JP1813193の助成を受けた。
豊かな仲間関係の形成は,保育における重要な教育目標の1つである。この目標と関連して先行研究は,洋の東西を問わず,仲良しを形成して遊べずにいるひとりぼっちの幼児に注目し,能力的な弱さを説明し(例えば,大内・櫻井, 2008),専門的介入を開発してきた(例えば,佐藤, 2015)。
しかし,わが国の保育者たちは,ひとりぼっちだけでなく,“親密すぎる”二者関係などの固定化した仲間関係に対しても,実践上の困難感を抱えていることが報告されてきた(例えば,平松, 2012)。そのような固定化した仲間関係を問題とする場合,個の社会性や相互作用の巧みさに注目する先行研究のアプローチを援用するのではなく,関わる相手が固定化してしまっている状況それ自体を再編していく視座が必要であると考えられる。
幼児は仲良しと遊びを共有することで,決まった相手と継続的に関わり,他児と関わらないことが可能になっている。この点と関連して川田(2018)は,幼児の遊びを検討する際には,「主体-道具(媒介)-対象(目的)」という遊びの三角形を分析単位とする必要性を指摘している。つまり,仲良し同士で取りくむ遊びの要素が再編されることで,幼児は親密な相手との関わりを維持しながらも他児との関わりを広げていくことができる可能性,およびその再編を容易にする遊びの特徴が存在することが推察される。以上より本研究は,仲良しが固定化している幼児が,一緒に遊ぶ相手の幅を広げていく際に,いかなる特徴を有する遊びが有効となっているのかを検討することを目的とする。
方 法
協力者 北海道X市の私立認定子ども園Y園の年少Z組(男児13名,女児12名)を対象とした。なかでも,保育者たちから,特にいつも一緒に行動していると報告された,AとBに注目した。Bは家庭の事情から入園から欠席が頻繁に生じ,園に定着したのは2学期後半になってからであった。
観察期間 201X年2月初旬~3月中旬の約1ヶ月半を対象とした。観察日数は8日であった。
観察方法 午前および午後の自由遊び場面において,AとBの遊びの様子を縦断的に追跡する自然観察を行った。また,時折保育者に対して簡単なインタビューを行った他,保育の流れをフィールドノートに記録し,分析の補助資料とした。
分析資料 AとBの両者が登園して以降の記録を分析資料とした。その上で,8日間の記録を午前と午後の自由遊びに分け,各時間帯で参加人数が最も多かった2人の遊びを事例として抽出した。分析対象となった遊びは全12事例であった。
倫理的配慮 園長に対して書面・口頭で研究概要,プライバシー保護,幼児への非侵襲性を説明して同意を得た。個人や園の名称は全て仮名を用いた。
結果と考察
3学期開始直後から,いつも一緒にいるAとBは「プリキュアごっこ」に夢中になって取り組みはじめていた(5事例/全12事例)。2人はプリキュアになりきるステッキ等のグッズを制作し,その制作物を着飾って架空の敵を倒し,そして作ったグッズを翌日も使うために保管する,「A・B(主体)-グッズ制作・装備(手段)-架空の敵を倒す(目的)」という構造の遊びを日々反復していた。しかし,遊びの「目的」が明確かつ固定的であるがゆえに,2人の遊びはいくら反復しても,媒介となる道具の精度,具体的にはグッズの内容が充実するのみであった。結果,他児の遊びと合流できたのは,類似の構造をもつ仮面ライダーごっこをしていた男児3名と偶然合流した1事例のみであり,2人は閉鎖的に遊び続けていった。
その後しばらくして,プリキュアごっこで使用していたグッズが無い,もしくは持ち帰ってしまった状況下において,2人は「A・B(主体)-うさぎ跳びをする(手段)-うさぎになりきる(目的)」や,「A・B(主体)-かわいい物を作る・着飾る(手段)-妖精になりきる・かわいさを他児にアピールする(目的)」等のごっこ遊びを展開しはじめた(4事例/全12事例)。そうした遊びは「敵を倒す」等の明確な目的を有しておらず,何かになりきることそれ自体を目的としていた。結果,2人は何となくかわいさをアピールしていた先で“妖精になったままラーメン屋さんのお手伝いをはじめる”などし始めた。これは,2人の遊びにおける「目的」を「手段」に移し,他児の遊びの「目的」を共有する形で,他児の遊びに合流することができたものと考えられる。以上より,遊び相手が固定化した関係がほぐれていく際には,「目的」それ自体が曖昧な遊びが,他児の遊びとつながっていく際の有効な媒介となっている可能性が示唆された。
付 記
本研究は科研費JP1813193の助成を受けた。