[PF22] ルールの適用場面における学習者の認識的信念の分析
課題の事前認識に着目して
キーワード:ルール学習、事前認識、認識的信念
問題と目的
学習者のもつ誤ルールは,これまでルール学習を阻害するものと指摘されてきた。しかしながら,佐藤・永山(2016)では,事前テストにおいて,課題に対する回答を個別に判断した対象者(個別判断者)に比べ,誤ルールに則り一貫した誤答パターンを示した対象者(誤ルール所有者)の方が,事後テストにおいて教授されたルールを適用し一貫正答に至る割合が高かったことが示された。本研究では,なぜ誤ルール所有者が事後テストにおいてルールを適用して一貫正答に至り,個別判断者が一貫正答に至らなかったのかについて,ルール適用場面における仮説的世界観(野村・丸野,2011)及びその背景にある認識的信念を調査することで明らかにすることを目的とする。
方 法
調査協力者 佐藤・永山(2016)の調査協力者の私立大学文系学部生46名のうち,誤ルール所有者1名,個別判断者1名,計2名を対象とした。
課題構成 課題として光合成ルール「光合成は植物の緑色の部分(葉緑体)でおこなわれている」を取り上げた。調査冊子は,1事前認識問題,2光合成ルールの教授,3ルール適用場面(1)スイカの実,4予想確認および質問の記述,5ルール適用場面(2)熟す前のトマトの実,6予想確認および質問の記述,7事後認識問題により構成された(佐藤・永山,2016)。
手続き 理科の学習についての認識的信念に関してインタビューした後,調査冊子の記述内容を確認しながら,仮説的世界観についてインタビューを実施した。インタビューは,半構造的インタビューを用いて行い,調査に要した時間は約60分であった。インタビューデータは,調査者によってテキスト化された。テキスト化されたデータは,意味のまとまりによってセグメント化された後,大谷(2008)によるSCAT(Steps Coding and Theorization)に従って分析された
結果と考察
分析の結果として形成された概念を理科の学習に対する認識的信念,ルール適用場面における仮説的世界観に分類した。対象者ごとの主な概念をTable1,2に示す。誤ルール所有者は,理科で学習する知識を体系化された普遍性のある知識と捉えており,知識の習得は現象が生起する原因と結果と知識を対応づけ,学習者自らが体系的に整理しながら行うものであると認識していた。こうした信念から,事前テストの際は「光合成は葉のみで行われる」という誤ルールを普遍的な知識と認識し,回答の基準としていたものの,ルールが提示され,指示による仮説的判断を行う過程で誤りに気づいていた。その後は,ルールの確証を高めるために模索を繰り返しながらも,各質問に対して基準をもって回答していた。一方,個別判断者は,理科で学習する知識は進化的であり,答えが複数存在するものとして捉え,知識の習得は教師に依存するものと認識していた。当初から例外の存在を想定しており,特定の対象のみルールを適用せずに直感で回答する場面がみられた。また,新しい知識の受容は教授者への信頼度に依存するため,理科の教師ではない調査者から提示されたルールへの信用度が低く,適用範囲が限定される場面がみられ,事後テストにおいても回答に一貫性が見られなかった。知識の普遍性を認める誤ルール所有者の認識的信念は,ルール適用場面での判断に一貫性をもたせていた。その結果,学習者自身が模索することでルールの確証が高まった後の事後テストでは,新しく提示されたルールを基準に回答し,一貫正答に至ったものと考えられる。
学習者のもつ誤ルールは,これまでルール学習を阻害するものと指摘されてきた。しかしながら,佐藤・永山(2016)では,事前テストにおいて,課題に対する回答を個別に判断した対象者(個別判断者)に比べ,誤ルールに則り一貫した誤答パターンを示した対象者(誤ルール所有者)の方が,事後テストにおいて教授されたルールを適用し一貫正答に至る割合が高かったことが示された。本研究では,なぜ誤ルール所有者が事後テストにおいてルールを適用して一貫正答に至り,個別判断者が一貫正答に至らなかったのかについて,ルール適用場面における仮説的世界観(野村・丸野,2011)及びその背景にある認識的信念を調査することで明らかにすることを目的とする。
方 法
調査協力者 佐藤・永山(2016)の調査協力者の私立大学文系学部生46名のうち,誤ルール所有者1名,個別判断者1名,計2名を対象とした。
課題構成 課題として光合成ルール「光合成は植物の緑色の部分(葉緑体)でおこなわれている」を取り上げた。調査冊子は,1事前認識問題,2光合成ルールの教授,3ルール適用場面(1)スイカの実,4予想確認および質問の記述,5ルール適用場面(2)熟す前のトマトの実,6予想確認および質問の記述,7事後認識問題により構成された(佐藤・永山,2016)。
手続き 理科の学習についての認識的信念に関してインタビューした後,調査冊子の記述内容を確認しながら,仮説的世界観についてインタビューを実施した。インタビューは,半構造的インタビューを用いて行い,調査に要した時間は約60分であった。インタビューデータは,調査者によってテキスト化された。テキスト化されたデータは,意味のまとまりによってセグメント化された後,大谷(2008)によるSCAT(Steps Coding and Theorization)に従って分析された
結果と考察
分析の結果として形成された概念を理科の学習に対する認識的信念,ルール適用場面における仮説的世界観に分類した。対象者ごとの主な概念をTable1,2に示す。誤ルール所有者は,理科で学習する知識を体系化された普遍性のある知識と捉えており,知識の習得は現象が生起する原因と結果と知識を対応づけ,学習者自らが体系的に整理しながら行うものであると認識していた。こうした信念から,事前テストの際は「光合成は葉のみで行われる」という誤ルールを普遍的な知識と認識し,回答の基準としていたものの,ルールが提示され,指示による仮説的判断を行う過程で誤りに気づいていた。その後は,ルールの確証を高めるために模索を繰り返しながらも,各質問に対して基準をもって回答していた。一方,個別判断者は,理科で学習する知識は進化的であり,答えが複数存在するものとして捉え,知識の習得は教師に依存するものと認識していた。当初から例外の存在を想定しており,特定の対象のみルールを適用せずに直感で回答する場面がみられた。また,新しい知識の受容は教授者への信頼度に依存するため,理科の教師ではない調査者から提示されたルールへの信用度が低く,適用範囲が限定される場面がみられ,事後テストにおいても回答に一貫性が見られなかった。知識の普遍性を認める誤ルール所有者の認識的信念は,ルール適用場面での判断に一貫性をもたせていた。その結果,学習者自身が模索することでルールの確証が高まった後の事後テストでは,新しく提示されたルールを基準に回答し,一貫正答に至ったものと考えられる。