[PF23] ゼミナール実践の課題と教員の試行錯誤の関係
Keywords:大学教育、学習環境、質問紙調査
問題と目的
大学の専門教育として展開されるゼミナールは,教員の研究分野をベースに,大部分が自由な裁量に任されている(向居,2012)。山田(2012)によれば,実践共同体であるゼミナールは,大学という組織・カリキュラムにおいて安定的な維持・再生産が可能となるよう,教員主導でデザインされているという。
つまり,何を意図し,どのように活動や指導を行うのかという点については,大部分が担当教員の暗黙知に依存しており,互いに共有し合う機会は少ない。また,ゼミナールの授業構成に関する調査研究(伏木田・北村・山内,2014)を除いて,複数事例を基に広く示唆を与える研究は不足している。
ゆえに,多くの教員が直面する課題を明らかにすることは,現場に根差した知見の導出につながるであろう。そこで本研究では,ゼミナールの実践上,教員が抱える困難とそれに対する試行錯誤の実情を検討したいと考えた。
方 法
調査手順 東京都内に本部が所在する大学の中で,人文学,社会科学,総合科学系学部に所属している教員(専任講師以上)約14355名のうち, 525名を系統抽出した。学部2年生以上が対象のゼミナールについて,当該年度の状況を回答するよう求めた。調査の期間は,2015年2月下旬~3月下旬までとした。
調査項目 年齢,性別,専門分野,対象学年と人数,学習テーマのほか,実践上の困難などから構成した。具体的には,「そのゼミナールを実践する上で,どのような点が難しいと感じていますか?」という質問に対して,計12の選択肢それぞれに5件法 (1.全くそうでない,2.あまりそうでない,3.どちらともいえない,4.まあそうである,5.とてもそうである)で回答を求めた。選択肢は,教員85名の自由記述回答文の分析結果(伏木田 2013)を基に,文章を一部修正して作成した。
結果と考察
調査票一式を郵送した全体の約30%にあたる157名の教員より回答が得られた。重複回答や未回答などを欠損値として処理した後,有効回答は130名であった。性別については,男性92名(70.8%),女性37名(28.5%),年齢は平均51.1歳(S.D.=10.4),ゼミナールの経験年数は平均14.4歳(S.D.=9.5)であった。
Table 1について,多くの教員が感じていた困難に着目すると,平均値が3.50以上で,かつ4と5の合計が60%を超えたのは,「c.学生の能力や意欲にばらつきがある(91名,70.0%)」と「a.学生の基礎的な学力や知識や不足している(83名,63.8%)」であった。つまり,学問の基礎力をつけさせることや,意欲の不揃いを解消することに苦心している様子が窺える。
また,これら2つの顕著な困難との関係については,「h.教員の専門性と学生の興味、関心とのバランスをとる」「j.議論を活発化させる」「k.学生の現状に合わせた指導を行う」がそれぞれr=.30程度の弱い相関(p<.01)を示していた。ゆえに,ゼミナールの教員は,学生の意欲や能力,知識等の実情を把握し,自身の専門性をどこまで押し出すのかを熟考しながら,構成員間(教員-学生,学生-学生)の議論が充実するよう工夫を重ねていることが明らかになった。
引用文献
伏木田 稚子・北村 智・山内 祐平(2014).学部ゼミナールの授業構成が学生の汎用的技能の成長実感に与える影響 日本教育工学会論文誌,37,419-433.
向居 暁(2012)大学のゼミナール活動における批判的思考の育成の試み 日本教育工学会論文誌,36 (Suppl.),113-116.
山田嘉徳(2012)ペア制度を用いた大学ゼミにおける文化的実践の継承過程 教育心理学研究,60,1-14.
付 記
本研究は,JSPS科研費26885022の助成を受けた研究の一部である。ご協力くださった方々に深謝いたします。
大学の専門教育として展開されるゼミナールは,教員の研究分野をベースに,大部分が自由な裁量に任されている(向居,2012)。山田(2012)によれば,実践共同体であるゼミナールは,大学という組織・カリキュラムにおいて安定的な維持・再生産が可能となるよう,教員主導でデザインされているという。
つまり,何を意図し,どのように活動や指導を行うのかという点については,大部分が担当教員の暗黙知に依存しており,互いに共有し合う機会は少ない。また,ゼミナールの授業構成に関する調査研究(伏木田・北村・山内,2014)を除いて,複数事例を基に広く示唆を与える研究は不足している。
ゆえに,多くの教員が直面する課題を明らかにすることは,現場に根差した知見の導出につながるであろう。そこで本研究では,ゼミナールの実践上,教員が抱える困難とそれに対する試行錯誤の実情を検討したいと考えた。
方 法
調査手順 東京都内に本部が所在する大学の中で,人文学,社会科学,総合科学系学部に所属している教員(専任講師以上)約14355名のうち, 525名を系統抽出した。学部2年生以上が対象のゼミナールについて,当該年度の状況を回答するよう求めた。調査の期間は,2015年2月下旬~3月下旬までとした。
調査項目 年齢,性別,専門分野,対象学年と人数,学習テーマのほか,実践上の困難などから構成した。具体的には,「そのゼミナールを実践する上で,どのような点が難しいと感じていますか?」という質問に対して,計12の選択肢それぞれに5件法 (1.全くそうでない,2.あまりそうでない,3.どちらともいえない,4.まあそうである,5.とてもそうである)で回答を求めた。選択肢は,教員85名の自由記述回答文の分析結果(伏木田 2013)を基に,文章を一部修正して作成した。
結果と考察
調査票一式を郵送した全体の約30%にあたる157名の教員より回答が得られた。重複回答や未回答などを欠損値として処理した後,有効回答は130名であった。性別については,男性92名(70.8%),女性37名(28.5%),年齢は平均51.1歳(S.D.=10.4),ゼミナールの経験年数は平均14.4歳(S.D.=9.5)であった。
Table 1について,多くの教員が感じていた困難に着目すると,平均値が3.50以上で,かつ4と5の合計が60%を超えたのは,「c.学生の能力や意欲にばらつきがある(91名,70.0%)」と「a.学生の基礎的な学力や知識や不足している(83名,63.8%)」であった。つまり,学問の基礎力をつけさせることや,意欲の不揃いを解消することに苦心している様子が窺える。
また,これら2つの顕著な困難との関係については,「h.教員の専門性と学生の興味、関心とのバランスをとる」「j.議論を活発化させる」「k.学生の現状に合わせた指導を行う」がそれぞれr=.30程度の弱い相関(p<.01)を示していた。ゆえに,ゼミナールの教員は,学生の意欲や能力,知識等の実情を把握し,自身の専門性をどこまで押し出すのかを熟考しながら,構成員間(教員-学生,学生-学生)の議論が充実するよう工夫を重ねていることが明らかになった。
引用文献
伏木田 稚子・北村 智・山内 祐平(2014).学部ゼミナールの授業構成が学生の汎用的技能の成長実感に与える影響 日本教育工学会論文誌,37,419-433.
向居 暁(2012)大学のゼミナール活動における批判的思考の育成の試み 日本教育工学会論文誌,36 (Suppl.),113-116.
山田嘉徳(2012)ペア制度を用いた大学ゼミにおける文化的実践の継承過程 教育心理学研究,60,1-14.
付 記
本研究は,JSPS科研費26885022の助成を受けた研究の一部である。ご協力くださった方々に深謝いたします。