[PF25] 適切な図表スキルは数学文章題解決における脳活動を最適化する
EEGを使った神経科学の統合
Keywords:図表スキル、文章題、EEG
問題と目的
問題 数学文章題解決において生徒は深刻な困難を抱き,図表の使用が特に有効とされる(Hembree, 1992)。しかし,生徒は自発的に図表を使用しない (Uesaka & Manalo, 2006)。Ayabe and Manalo(2018) は一連の図表知識を明示的に与えたところ,特定の図表が役に立つと想定された問題において,認知負荷が下がって図表使用が高まり,正答率が高まることを実証した。しかし,認知負荷は質問紙によって測定されたため,神経科学的機序は明らかではない。
目的 図表スキルによって認知負荷が低下するとき,生理学的変化(脳活動)が生じることを明らかにする。
方 法
実施手順は研究代表者が所属する大学の倫理審査委員会によりレビューされた。健常な参加者42名(16.4±6.7才,女性18)を募集し,図表要因(表/グラフ:参加者間)×テスト段階要因(プレ/ポスト/フォローアップ:参加者内)の2要因混合デザインで実施した。表,グラフのいずれかの知識を与える群(表群/グラフ群)に振り分け,ポスト時の脳波を測定した。テストではいずれかの図表が解法構造とマッチすると想定した文章題(約200字)をランダムに与え,図表産出時,計算時の静止メンタル思考中の脳波(30s)と認知負荷を測定した(4項目,Leppink et al. 2014; 10件法)。介入した図表知識は宣言的,条件的,手続き的知識であった。産出された図表の品質は図表ルーブリック(適切性・数量・推論),問題得点は問題得点ルーブリック(正答・数量)に基づき検査した(Ayabe & Manalo, 2018)。脳波をまんべんなく収集できるように全頭から16電極を選び,EEGLABを用いて解析した。その際,アルゴリズム(MARA,ADJUST)の判定一致成分をアーティファクトとして取り除いた。
結果と考察
結果 図表スキルと問題の解法構造がマッチする条件において図表得点,問題得点が高まり,認知負荷が下がることを確かめたうえで(Figure 1),脳活動の変化をパフォーマンスレベル別にプロファイリングした(Figure 2)。すると,図表と解法構造がマッチする問題で推論や計算に成功したときは頭頂部(左右中心溝),または右前頭葉・後頭葉(グラフ産出時)が共通して活動した(DS活動)。一方,失敗したときは,(1)広範な活動,(2)限局的な活動,(3)活動なし,の特徴が見出された(DF活動)。図表得点,問題得点が高いほど認知負荷は小さいが,同レベルでは認知負荷も同等であった。この結果から,認知負荷の低下はDSの増加にともなうDFの減少を意味し,DFとDSの特徴の違いから脳活動が変化する挙動が示された。
考察 前述の3種類のDF活動の特徴から,(1)思考や手続きのロス,(2)推論,計算への図表利用の失敗(右後頭葉と前頭前野),(3)図表知識習得の不足,という認知過程が推察され,適切な図表スキルが脳活動を最適化するメカニズムを脳科学的に示唆している。また,適切な図表スキルは脳の機能的結合を要求しないことを示唆している。これらの結果から,図表スキルは問題解決中の神経科学的機序に影響を与え,主観的認知負荷の共変量となることが示唆された。認知負荷(主観評定)と脳波の関連を報告した先行研究の多くは特定の関心領域に絞って検討してきたが(Antonenko et al., 2010; So et al., 2017; van Leeuwen et al., 2015),数学文章題解決のような高次認知プロセスにおける関連を検討するときには,全頭観察が有効であることを理論的示唆とする。
問題 数学文章題解決において生徒は深刻な困難を抱き,図表の使用が特に有効とされる(Hembree, 1992)。しかし,生徒は自発的に図表を使用しない (Uesaka & Manalo, 2006)。Ayabe and Manalo(2018) は一連の図表知識を明示的に与えたところ,特定の図表が役に立つと想定された問題において,認知負荷が下がって図表使用が高まり,正答率が高まることを実証した。しかし,認知負荷は質問紙によって測定されたため,神経科学的機序は明らかではない。
目的 図表スキルによって認知負荷が低下するとき,生理学的変化(脳活動)が生じることを明らかにする。
方 法
実施手順は研究代表者が所属する大学の倫理審査委員会によりレビューされた。健常な参加者42名(16.4±6.7才,女性18)を募集し,図表要因(表/グラフ:参加者間)×テスト段階要因(プレ/ポスト/フォローアップ:参加者内)の2要因混合デザインで実施した。表,グラフのいずれかの知識を与える群(表群/グラフ群)に振り分け,ポスト時の脳波を測定した。テストではいずれかの図表が解法構造とマッチすると想定した文章題(約200字)をランダムに与え,図表産出時,計算時の静止メンタル思考中の脳波(30s)と認知負荷を測定した(4項目,Leppink et al. 2014; 10件法)。介入した図表知識は宣言的,条件的,手続き的知識であった。産出された図表の品質は図表ルーブリック(適切性・数量・推論),問題得点は問題得点ルーブリック(正答・数量)に基づき検査した(Ayabe & Manalo, 2018)。脳波をまんべんなく収集できるように全頭から16電極を選び,EEGLABを用いて解析した。その際,アルゴリズム(MARA,ADJUST)の判定一致成分をアーティファクトとして取り除いた。
結果と考察
結果 図表スキルと問題の解法構造がマッチする条件において図表得点,問題得点が高まり,認知負荷が下がることを確かめたうえで(Figure 1),脳活動の変化をパフォーマンスレベル別にプロファイリングした(Figure 2)。すると,図表と解法構造がマッチする問題で推論や計算に成功したときは頭頂部(左右中心溝),または右前頭葉・後頭葉(グラフ産出時)が共通して活動した(DS活動)。一方,失敗したときは,(1)広範な活動,(2)限局的な活動,(3)活動なし,の特徴が見出された(DF活動)。図表得点,問題得点が高いほど認知負荷は小さいが,同レベルでは認知負荷も同等であった。この結果から,認知負荷の低下はDSの増加にともなうDFの減少を意味し,DFとDSの特徴の違いから脳活動が変化する挙動が示された。
考察 前述の3種類のDF活動の特徴から,(1)思考や手続きのロス,(2)推論,計算への図表利用の失敗(右後頭葉と前頭前野),(3)図表知識習得の不足,という認知過程が推察され,適切な図表スキルが脳活動を最適化するメカニズムを脳科学的に示唆している。また,適切な図表スキルは脳の機能的結合を要求しないことを示唆している。これらの結果から,図表スキルは問題解決中の神経科学的機序に影響を与え,主観的認知負荷の共変量となることが示唆された。認知負荷(主観評定)と脳波の関連を報告した先行研究の多くは特定の関心領域に絞って検討してきたが(Antonenko et al., 2010; So et al., 2017; van Leeuwen et al., 2015),数学文章題解決のような高次認知プロセスにおける関連を検討するときには,全頭観察が有効であることを理論的示唆とする。