[PF30] 理科の動機づけと観察・実験における公正な探究態度の関連
制度的利用価値の認知は不正行為を促進するか?
キーワード:理科、動機づけ、倫理
問題の所在
中学校理科では,「観察,実験を行うことなどを通して,自然の事物・現象を科学的に探究するために必要な資質・能力」を育成することを目標としている(文部科学省,2017)。その下位目標には「科学的に探究しようとする態度を養う」ことが明記されている。そのため,中学校理科の段階で公正な研究活動(research integrity)やそれに反する研究不正について折に触れて指導し,こうした態度を養う必要があると考えられる。
しかし,原田(2019)は,理科の観察・実験で生起しうる17の不正行為の経験について,それぞれゼロ過剰ポアソン分布の適合性が高いものの,無視できない確率で生起しうることを報告した。
本研究では,こうした不正行為と理科に対する課題価値(task value)の認知との関連を検討する。とりわけ入試や就職での有用性を指す制度的利用価値の認知は,高い成績評定を得るための授業参加行動を促進することが知られている(原田・三浦・鈴木,2018)。もし,観察・実験における不正行為が,高い成績評定の取得を目的とするものであるならば,制度的利用価値の認知はこうした行為を促進しうると考えられる。また,理科に対して興味価値を高く認知しているならば,こうした不正行為が抑制される可能性がある。
目 的
本研究は,中学生による理科の観察・実験での不正行為と理科に対する課題価値の認知の関連を明らかにすることを目的とする。
方 法
研究対象者 高知県内の中学校1校の2, 3年生(n = 250)を対象とした。
測定変数 ①公正な探究活動実践尺度 原田(2019)による20項目を使用した。項目例は,“最初の予想と少し違う結果になったので,本当のデータから少しだけ変えて,きれいなデータに書きかえたことがある”(項目2),“実験の結果に,本当ではない嘘のデータを書いたことがある”(項目16)などであった。不正行為には当たらない3項目をフィラー項目として含めた。頻度について,5件法で回答を求めた。 ②公正な探究活動に関する知識 ①の尺度項目に対応して,当該行為を行って良いと思うか否かを尋ねる20項目から構成された。項目例は,“最初の予想と少し違う結果になったとき,本当のデータから少しだけ変えて,きれいなデータに書きかえること”(項目2)などであった。①と同様フィラー項目が3項目含まれていた。回答は“1. 絶対に行ってはいけない”から“3. 行って良い”までの3件法で求めた。 ③理科に対する課題価値の認知 解良・中谷(2014)による尺度のうち,興味価値,実践的利用価値,制度的利用価値の下位尺度を使用した。5件法。
統計的分析 ベイズ推定(MCMC法)によりパラメータの点推定値(EAP)と95%両側確信区間(95%CI) を求めた。無情報分布を事前分布とした。
結果と考察
公正な探究活動実践尺度について,カテゴリカル因子分析(i.e. 項目反応理論)を行った結果,1次元構造が確認された。本尺度による特性値は高い値を持つ子どもほど,不正行為をしやすいことを意味するため,“不正行為傾向”とした。
理科に対する課題価値の認知が不正行為傾向に及ぼす影響を検討するため,構造方程式モデリングによる分析を行った(Figure 1)。その際,公正な探究活動に関する知識による不正行為の抑制効果には内容特異性が考えられたため,観測変数へのパスを設定した。
分析の結果,興味価値による不正行為傾向への負の影響が確認された。この結果は,理科に対して楽しさや面白さを見出している子どもほど,不正行為をしにくい傾向があることを示す。一方,制度的利用価値による不正行為傾向への確かな影響力は認められなかった。事後分布を吟味するとβ>0である確率は31%であるものの,95%CIの上限はβ = .12と小さな値であることから,制度的利用価値の認知は不正行為傾向に対して実質的な影響は及ぼしていないと考えられる。
中学校理科では,「観察,実験を行うことなどを通して,自然の事物・現象を科学的に探究するために必要な資質・能力」を育成することを目標としている(文部科学省,2017)。その下位目標には「科学的に探究しようとする態度を養う」ことが明記されている。そのため,中学校理科の段階で公正な研究活動(research integrity)やそれに反する研究不正について折に触れて指導し,こうした態度を養う必要があると考えられる。
しかし,原田(2019)は,理科の観察・実験で生起しうる17の不正行為の経験について,それぞれゼロ過剰ポアソン分布の適合性が高いものの,無視できない確率で生起しうることを報告した。
本研究では,こうした不正行為と理科に対する課題価値(task value)の認知との関連を検討する。とりわけ入試や就職での有用性を指す制度的利用価値の認知は,高い成績評定を得るための授業参加行動を促進することが知られている(原田・三浦・鈴木,2018)。もし,観察・実験における不正行為が,高い成績評定の取得を目的とするものであるならば,制度的利用価値の認知はこうした行為を促進しうると考えられる。また,理科に対して興味価値を高く認知しているならば,こうした不正行為が抑制される可能性がある。
目 的
本研究は,中学生による理科の観察・実験での不正行為と理科に対する課題価値の認知の関連を明らかにすることを目的とする。
方 法
研究対象者 高知県内の中学校1校の2, 3年生(n = 250)を対象とした。
測定変数 ①公正な探究活動実践尺度 原田(2019)による20項目を使用した。項目例は,“最初の予想と少し違う結果になったので,本当のデータから少しだけ変えて,きれいなデータに書きかえたことがある”(項目2),“実験の結果に,本当ではない嘘のデータを書いたことがある”(項目16)などであった。不正行為には当たらない3項目をフィラー項目として含めた。頻度について,5件法で回答を求めた。 ②公正な探究活動に関する知識 ①の尺度項目に対応して,当該行為を行って良いと思うか否かを尋ねる20項目から構成された。項目例は,“最初の予想と少し違う結果になったとき,本当のデータから少しだけ変えて,きれいなデータに書きかえること”(項目2)などであった。①と同様フィラー項目が3項目含まれていた。回答は“1. 絶対に行ってはいけない”から“3. 行って良い”までの3件法で求めた。 ③理科に対する課題価値の認知 解良・中谷(2014)による尺度のうち,興味価値,実践的利用価値,制度的利用価値の下位尺度を使用した。5件法。
統計的分析 ベイズ推定(MCMC法)によりパラメータの点推定値(EAP)と95%両側確信区間(95%CI) を求めた。無情報分布を事前分布とした。
結果と考察
公正な探究活動実践尺度について,カテゴリカル因子分析(i.e. 項目反応理論)を行った結果,1次元構造が確認された。本尺度による特性値は高い値を持つ子どもほど,不正行為をしやすいことを意味するため,“不正行為傾向”とした。
理科に対する課題価値の認知が不正行為傾向に及ぼす影響を検討するため,構造方程式モデリングによる分析を行った(Figure 1)。その際,公正な探究活動に関する知識による不正行為の抑制効果には内容特異性が考えられたため,観測変数へのパスを設定した。
分析の結果,興味価値による不正行為傾向への負の影響が確認された。この結果は,理科に対して楽しさや面白さを見出している子どもほど,不正行為をしにくい傾向があることを示す。一方,制度的利用価値による不正行為傾向への確かな影響力は認められなかった。事後分布を吟味するとβ>0である確率は31%であるものの,95%CIの上限はβ = .12と小さな値であることから,制度的利用価値の認知は不正行為傾向に対して実質的な影響は及ぼしていないと考えられる。