[PF32] 規範に関する保育観(2)
規範を示す幼児への保育者の解釈に着目して
キーワード:規範意識、保育観、グループインタビュー
問題と目的
本研究の目的は,幼児が規範を示す場面における保育者の解釈を探索的に検討することである。
幼児の規範意識については道徳性発達(Turiel, 1983など)をはじめ多様な視点から検討され,実践場面においても規範意識の芽生えに着目した研究(松永他,2013)などによりその実態が明らかにされてきている。幼児が他者の違反に対して規範を示す言動も,近年の道徳性発達の研究において着目されている(Brandl et al., 2015)。ただし実践の文脈では,幼児が規範を示す言動は多様な内容を含み(辻谷, 2014),場面は必ずしも道徳性の育ちと結びつけて捉えられるわけではない。これらの場面における保育者の解釈を検討することで,幼児の規範意識の育ちについて,多角的な視点を得るとともに,規範に関して園や保育者により異なる保育観についても検討するための手がかりになると考えられる。
よって本研究では,4歳児クラスの遊び場面における幼児間のやりとりを撮影した映像を題材に,規範を示した幼児に対する保育者の解釈に着目することとした。なお,ここで「規範を示す」とは幼児が「〜すべきである(ない)」と考えているとみられる事柄について,他児や保育者に示す言動として広く定義している。
方 法
映像を用いたグループインタビューを行なった。なお,インタビューは園内研究を兼ねている(テーマ:「幼児理解と教師の援助」)。
協力者:東京都内区立幼稚園4歳児クラス27名および同園の保育者3〜10名
時期:2018年7月〜2019年1月に5回実施
実施方法:同時期に撮影した動画から8事例を抽出し,視聴後に3〜4人のグループおよび全体で自由に語ってもらった。事例には幼児が規範を示す場面が含まれるとともに,園内研究を兼ねているため,同一の幼児や類似の場面を検討できるよう選定した。
分析:規範を示した幼児に関する保育者の発話を抽出し,その幼児の言動への解釈について帰納的コード化を行なった。さらに同じ発話内で語られていた幼児への保育者の願い(「〜だといい」「〜なってほしい」等)に着目して検討した。
倫理的配慮:撮影開始日前およびインタビュー初日に,研究目的およびデータの扱いについて保護者・保育者に伝え了承を得た。
結 果
分析の結果,Table 1のように3つの上位カテゴリーと7つの下位カテゴリーが生成された。
該当する発話と関連して語られていた,保育者が幼児に対して持つ願いは,(1)では伝わる言い方がわかること,(2)では自分なりの思いを持つことと柔軟性,(3)では他児への受容性であった。(2) (3)では本人の思いと,他児の受容とをそれぞれ保障することの難しさについても語られた。
考 察
結果より,幼児が規範を示す言動を広く定義して具体的な場面をもとに検討した際,幼児に対する保育者の解釈には,幼児自身の言葉の発達やその場での思い,日常的な仲間関係が関わっていることが示唆された。それぞれの解釈において保育者の願いや判断の難しさも可視化された。
規範意識の育ちとして,これまで幼児がきまりの重要性に気づくことやルールを作っていく過程などは重視されてきた。一方で,幼児自身が何らかの主張として規範を用いる場面は,保育者にとって規範意識の育ちだけでなく,多様な育ちの見取りや願いの可視化につながると考えられる。
本研究で得られたカテゴリーについて,それが視聴場面における幼児の言動とどのように関連しているのかをより詳細に検討する必要がある。
付 記
本研究はJSPS科研費18J01873の助成を受けた。
本研究の目的は,幼児が規範を示す場面における保育者の解釈を探索的に検討することである。
幼児の規範意識については道徳性発達(Turiel, 1983など)をはじめ多様な視点から検討され,実践場面においても規範意識の芽生えに着目した研究(松永他,2013)などによりその実態が明らかにされてきている。幼児が他者の違反に対して規範を示す言動も,近年の道徳性発達の研究において着目されている(Brandl et al., 2015)。ただし実践の文脈では,幼児が規範を示す言動は多様な内容を含み(辻谷, 2014),場面は必ずしも道徳性の育ちと結びつけて捉えられるわけではない。これらの場面における保育者の解釈を検討することで,幼児の規範意識の育ちについて,多角的な視点を得るとともに,規範に関して園や保育者により異なる保育観についても検討するための手がかりになると考えられる。
よって本研究では,4歳児クラスの遊び場面における幼児間のやりとりを撮影した映像を題材に,規範を示した幼児に対する保育者の解釈に着目することとした。なお,ここで「規範を示す」とは幼児が「〜すべきである(ない)」と考えているとみられる事柄について,他児や保育者に示す言動として広く定義している。
方 法
映像を用いたグループインタビューを行なった。なお,インタビューは園内研究を兼ねている(テーマ:「幼児理解と教師の援助」)。
協力者:東京都内区立幼稚園4歳児クラス27名および同園の保育者3〜10名
時期:2018年7月〜2019年1月に5回実施
実施方法:同時期に撮影した動画から8事例を抽出し,視聴後に3〜4人のグループおよび全体で自由に語ってもらった。事例には幼児が規範を示す場面が含まれるとともに,園内研究を兼ねているため,同一の幼児や類似の場面を検討できるよう選定した。
分析:規範を示した幼児に関する保育者の発話を抽出し,その幼児の言動への解釈について帰納的コード化を行なった。さらに同じ発話内で語られていた幼児への保育者の願い(「〜だといい」「〜なってほしい」等)に着目して検討した。
倫理的配慮:撮影開始日前およびインタビュー初日に,研究目的およびデータの扱いについて保護者・保育者に伝え了承を得た。
結 果
分析の結果,Table 1のように3つの上位カテゴリーと7つの下位カテゴリーが生成された。
該当する発話と関連して語られていた,保育者が幼児に対して持つ願いは,(1)では伝わる言い方がわかること,(2)では自分なりの思いを持つことと柔軟性,(3)では他児への受容性であった。(2) (3)では本人の思いと,他児の受容とをそれぞれ保障することの難しさについても語られた。
考 察
結果より,幼児が規範を示す言動を広く定義して具体的な場面をもとに検討した際,幼児に対する保育者の解釈には,幼児自身の言葉の発達やその場での思い,日常的な仲間関係が関わっていることが示唆された。それぞれの解釈において保育者の願いや判断の難しさも可視化された。
規範意識の育ちとして,これまで幼児がきまりの重要性に気づくことやルールを作っていく過程などは重視されてきた。一方で,幼児自身が何らかの主張として規範を用いる場面は,保育者にとって規範意識の育ちだけでなく,多様な育ちの見取りや願いの可視化につながると考えられる。
本研究で得られたカテゴリーについて,それが視聴場面における幼児の言動とどのように関連しているのかをより詳細に検討する必要がある。
付 記
本研究はJSPS科研費18J01873の助成を受けた。