[PF33] 学校組織の分散型リーダーシップ測定尺度の開発
Keywords:学校組織、分散型リーダーシップ、尺度開発
Spillane(2006)は,リーダーシップを「組織の中核的業務に関連付けられた活動」の中で定義し,リーダー,フォロワー,状況の3要素から構成される実践(Practice)を分析単位とする,分散型リーダーシップ(DL)理論を提唱した。DL理論は,欧米において学校改善の拠り所として既に応用されつつあり,質的な現象記述に優れた理論である。しかし,簡易的に学校の全体像をアセスメントするような尺度開発が十分に行われて来なかったため,有効性やプロセスを説明する定量的なエビデンスは十分に蓄積されていない。本研究は,Spillane(2006)に準じ,全体論的アプローチから,簡易的にDLを測定するための尺度開発を試みた。
研究1
方 法
2018年6,7月に,教員免許状更新講習の参加者386名に対し調査を行った。得られた362名の回答のうち,小学校,中学校,高校に勤務する210名を分析対象とした。63.8%が女性であり,教職歴は10年以下40.8%,20年以下が33.7%であった。Spillane(2006)に準じ演繹的に作成したDL尺度, Professional Learning Community(PLC, Oliver & Hipp, 2010)に関し5件法で回答を求めた。
結果と考察
項目分析 DL尺度に含まれる20項目の記述統計量,先行研究で学校改善におけるDLとの関係性が指摘されているPLCとの相関値を求めた。項目の平均値の範囲はMs=2.97-3.96 (SDs = 0.82-1.21)であり,極端に歪んだ分布の項目は検出されなかった。1つの項目のみ,PLCと有意な相関が認められなかったため(r=-.05),尺度から除外した。
探索的因子分析 19項目について,スクリーテストを行った結果,平行分析およびMAPの値が1因子構造を提案した。因子数を固定し,カテゴリカル因子分析を実施したところ全ての項目が単一因子に負荷していた(.76-.91)。αの95%信頼区間は,CI [.89, .90]であった。
研究2
方 法
楽天インサイト(株)が提供するWeb調査サービスにより,小・中学校教員600名(男性421名,女性179名)に調査を行った。DL尺度の他,基準関連妥当性を検討する目的で共有リーダーシップ(Grille & Kauffeld, 2015), PLC(露口, 2013),教育相談の定着化(西山, 迫田, 淵上, 2009), コミットメント(Mogotsi & Fletcher, 2011), 組織風土(鎌田, 2017), PMリーダーシップ(吉田,1979)についても回答を求めた。なお(e)~(g)は,負担軽減の目的で,参加者を等確率かつランダムに割り充てた。
結果と考察
記述統計量 尺度を構成する項目の記述統計量はM=3.37, SD=0.83であり,クロンバックのαの95%信頼区間は,CI [.92, .97]であった。
項目反応理論に基づく検討 19項目に関し,段階反応モデルに基づく検証を行った。識別力の平均値はa=1.46(Min0.98, Max1.81)であった。困難度の平均値はb1=-1.93 (Min-2.67, Max-1.67), b2=-1.01 (Min -1.63, Max-0.75), b3=-.04 (Min -.50, Max -.23), b4=1.45 (Min1.12, Max1.73)であり,テスト情報関数は尺度値-1付近と,1.5付近で2相のピークを示した。この尺度はDLに関する認知が中程度から比較的低い教員と,やや高い教員の測定に適している。
基準関連妥当性の検討 測定変数の下位尺度得点とDL尺度得点との相関値を以下に示す。(a)共有リーダーシップ(関係・変革r=.82, 課題r=.80, マイクロポリタンr=.76), (b)PLC(学校改善r=.78, 学び合いr=.70, 組織への信頼r=.78, フィードバックr=.59, 相互尊重 r=.77), (c)教育相談の定着化(r=.80),(d)コミットメント(教職r=.42,学校 r=.46), (e)組織風土(協働r=.76, サポ―ト r=.68, 同調 r= -.25), (g)PMリーダーシップ(P型 r=.51, M型 r=.71)。各下位尺度と論理的な予測と整合する形の有意な相関値が得られた。
総合考察
DL尺度の内的整合性,構造的妥当性,基準関連妥当性は支持された。本尺度は,全体論的な視点から学校におけるDLが機能しているかどうかに関する教員個人の認知を簡易的に測定することが可能である。今後,個人認知だけではなく,集団レベルでアグリゲートして測定する場合に関する妥当性について更なる調査が求められる。
引用文献
発表当日に掲示する。
付 記
This work was supported by JSPS KAKENHI Grant Number 17K18314.
研究1
方 法
2018年6,7月に,教員免許状更新講習の参加者386名に対し調査を行った。得られた362名の回答のうち,小学校,中学校,高校に勤務する210名を分析対象とした。63.8%が女性であり,教職歴は10年以下40.8%,20年以下が33.7%であった。Spillane(2006)に準じ演繹的に作成したDL尺度, Professional Learning Community(PLC, Oliver & Hipp, 2010)に関し5件法で回答を求めた。
結果と考察
項目分析 DL尺度に含まれる20項目の記述統計量,先行研究で学校改善におけるDLとの関係性が指摘されているPLCとの相関値を求めた。項目の平均値の範囲はMs=2.97-3.96 (SDs = 0.82-1.21)であり,極端に歪んだ分布の項目は検出されなかった。1つの項目のみ,PLCと有意な相関が認められなかったため(r=-.05),尺度から除外した。
探索的因子分析 19項目について,スクリーテストを行った結果,平行分析およびMAPの値が1因子構造を提案した。因子数を固定し,カテゴリカル因子分析を実施したところ全ての項目が単一因子に負荷していた(.76-.91)。αの95%信頼区間は,CI [.89, .90]であった。
研究2
方 法
楽天インサイト(株)が提供するWeb調査サービスにより,小・中学校教員600名(男性421名,女性179名)に調査を行った。DL尺度の他,基準関連妥当性を検討する目的で共有リーダーシップ(Grille & Kauffeld, 2015), PLC(露口, 2013),教育相談の定着化(西山, 迫田, 淵上, 2009), コミットメント(Mogotsi & Fletcher, 2011), 組織風土(鎌田, 2017), PMリーダーシップ(吉田,1979)についても回答を求めた。なお(e)~(g)は,負担軽減の目的で,参加者を等確率かつランダムに割り充てた。
結果と考察
記述統計量 尺度を構成する項目の記述統計量はM=3.37, SD=0.83であり,クロンバックのαの95%信頼区間は,CI [.92, .97]であった。
項目反応理論に基づく検討 19項目に関し,段階反応モデルに基づく検証を行った。識別力の平均値はa=1.46(Min0.98, Max1.81)であった。困難度の平均値はb1=-1.93 (Min-2.67, Max-1.67), b2=-1.01 (Min -1.63, Max-0.75), b3=-.04 (Min -.50, Max -.23), b4=1.45 (Min1.12, Max1.73)であり,テスト情報関数は尺度値-1付近と,1.5付近で2相のピークを示した。この尺度はDLに関する認知が中程度から比較的低い教員と,やや高い教員の測定に適している。
基準関連妥当性の検討 測定変数の下位尺度得点とDL尺度得点との相関値を以下に示す。(a)共有リーダーシップ(関係・変革r=.82, 課題r=.80, マイクロポリタンr=.76), (b)PLC(学校改善r=.78, 学び合いr=.70, 組織への信頼r=.78, フィードバックr=.59, 相互尊重 r=.77), (c)教育相談の定着化(r=.80),(d)コミットメント(教職r=.42,学校 r=.46), (e)組織風土(協働r=.76, サポ―ト r=.68, 同調 r= -.25), (g)PMリーダーシップ(P型 r=.51, M型 r=.71)。各下位尺度と論理的な予測と整合する形の有意な相関値が得られた。
総合考察
DL尺度の内的整合性,構造的妥当性,基準関連妥当性は支持された。本尺度は,全体論的な視点から学校におけるDLが機能しているかどうかに関する教員個人の認知を簡易的に測定することが可能である。今後,個人認知だけではなく,集団レベルでアグリゲートして測定する場合に関する妥当性について更なる調査が求められる。
引用文献
発表当日に掲示する。
付 記
This work was supported by JSPS KAKENHI Grant Number 17K18314.