日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PF] ポスター発表 PF(01-67)

2019年9月15日(日) 16:00 〜 18:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号16:00~17:00
偶数番号17:00~18:00

[PF34] 学校の組織風土と教師のチームワークの関連性

三沢良1, 森安史彦#2, 樋口宏治#3 (1.岡山大学, 2.岡山大学, 3.岡山市立伊島小学校)

キーワード:教師、学校組織風土、チームワーク

問題と目的
 学校組織における複雑化・多様化する教育課題への対応や労働環境の改善などを背景に,中央教育審議会(2015)が「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について(答申)」を公表して以来,外部の専門家と連携した「チーム学校」を実現するための方策が模索されている。外部連携を視野に入れた学校運営が重要であることに異論はないであろう。ただし,その前段階として,学校組織内の教師集団をチームとして機能させる必要性を看過すべきでない(片山, 2017)。つまり,教師のチームワークを向上することが必要である。
 しかし,わが国ではいくつかの例外(高校教師を対象:稲川・五十嵐, 2016)を除き,教師のチームワークに関する実証的な検討は不足している。教師の「協働」や「同僚性」などの近接概念を扱った研究は存在するが,こうした概念の定義は研究者によって異なり,知見の体系化は図られていない。近年,チームワークは社会心理学や産業・組織心理学の分野で知見が蓄積されている(e.g., McDaniel & Salas, 2018)。その理論的視座を学校組織へ適用することにより,教師のチームワークの実像を理解する上で有用な示唆が得られると考えられる。
 そこで本研究では,実証的データを用いて,教師のチームワーク,特に行動面の特徴(チーム・プロセス)に焦点をあてて,その概念構造を把握する。加えて,チームワークの醸成に寄与する組織レベルの要因として,学校の組織風土に着目し,教師のチームワークとの関連性を検討する。
方  法
 調査対象者 2018年12月に開催された教員免許状更新講習の参加者を対象に質問紙調査を行った。回答不備のない常勤の教諭98名を分析対象とした。性別は男性44名(44.9%),女性54名(55.1%),年代は30代が64名(65.3%)と最も多く,教職歴は10年以下が53名(54.1%)と約半数を占めた。勤務校の校種は小学校が52名(53.1%)と最も多く,次いで中学校が21名(21.4)であった。
 調査項目 (1)チームワーク:三沢ら(2009)のチームワークの行動的特徴を測定するチーム・プロセスの尺度を基に,高校教師のチームワークを測定した稲川・五十嵐(2016)を参考にしつつ,教師集団の活動の文脈に即した表現に修正した24項目を用いた。(2)学校組織の風土:淵上ら(2004)による協働的風土と同調的風土に関する各4項目を使用した。また,心理的安全風土について,Edmondson(1999)の概念定義と測定項目を基に作成した9項目を使用した。各尺度の項目には,いずれも5段階評定で回答を求めた。
結果と考察
 チームワークの構造 24項目に対し因子分析(最小二乗法,プロマックス回転)を行い,固有値の減衰と解釈可能性を考慮して,3因子解を採用した。第1因子は仕事における相談や援助,進捗の調整を表す「相互調整」,第2因子は目標・方針・計画の策定に関わる「職務の分析と明確化」,第3因子は教員間での情報や助言の交換を表す「知識と情報の共有」と解釈できるものであった。これは三沢ら(2009)の原尺度よりも少ないが,高校教師に対象を限定した稲川・五十嵐(2016)よりも多い因子数である。教師のチームワークを分析的に捉えるのに,適度な複雑さの構造を持つ評価の観点として活用できると考えられる。また,各因子を構成する項目の信頼性係数は,α=.80~.90と十分な内的整合性を示した。
 組織風土とチームワークの関連性 協働的風土,同調的風土,心理的風土の尺度の信頼性係数を確認した(α=.61~.92)。これら学校の組織風土の3変数,およびチームワークの3因子の尺度得点の相関係数を算出した。相関係数の値から,概して協働的風土と心理的安全風土は,チームワークの全ての因子と中程度の強さの正の関連(r=.58~.68)をもつことが示された。これとは対照的に,同調的風土はチームワークのいずれの因子とも,弱い負の関連(r=-.33~-.38)を示した。
 上記の結果から,学校組織において協働を指向し,率直で開放的な議論ができる風土のもとでは,教師の行動面でのチームワークも発揮されやすいことが示唆されたといえる。ただし,本研究で分析対象とした回答データの規模は小さいため,今後,追加調査を行って十分なサンプルサイズを確保し,今回の知見をさらに検証する必要がある。
付  記
 主な引用文献は当日の発表資料で提示する。また,当日は追加調査によって得られたデータを加え,さらに分析を進めた結果を報告する予定である。