日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PF] ポスター発表 PF(01-67)

2019年9月15日(日) 16:00 〜 18:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号16:00~17:00
偶数番号17:00~18:00

[PF35] 他者の情動を調整する方略の有効性認知に関する日米比較

野崎優樹 (甲南大学)

キーワード:情動調整、日米比較

目  的
 自分の友人が強いネガティブ情動を経験した際,私たちはしばしばその友人のネガティブな情動を和らげようとする。他者の情動を調整する際には,様々な方略があり,私たちは複数の方略の候補の中から,最も効果的であると考えられるものを選択して実行に移す (Reeck et al., 2016)。方略の有効性認知は,実際に選択される方略を方向づけるため,重要な検討対象として提唱されている (Gross, 2015)。一方,「他者の情動の調整」と対をなす「自己の情動の調整」研究では,方略の効果の文化差(特に東洋の国々とアメリカとの比較)が検討されており,異なる国々の間で有効性が同程度の方略と異なる方略の両方が明らかにされている (Ford & Mauss, 2015)。本研究は,他者の情動を調整する方略の有効性認知に関して日米比較を行い,二国間の類似点と相違点を検討した。
方  法
 参加者 日本人のデータは,株式会社クロスマーケティングを通じて収集し,アメリカ人のデータはAmazon Mechanical Turkを通じて収集した。参加者のうち,satisfice項目に不適切な回答をしておらず,また後述する「あなたの仲の良い同性の友人の性格」に関する自由記述の回答が適切に行われていた日本人258名(平均年齢 40.29歳, SD = 10.78),アメリカ人232名(平均年齢 35.62歳, SD = 10.06)を分析対象とした。
 材料と手続き まず,参加者は「あなたの仲の良い同性の友人を1人,思い浮かべてください。その人はどのような性格の人でしょうか?以下に3-5文で説明してください。」という質問に自由記述で回答した。そして,「前ページで思い浮かべてもらったあなたの友人が,何か嫌なことがあり,『強い怒り/悲しみ/不安感情』を感じています。この時,この友人の怒り/悲しみ/不安を和らげる上で,以下の各方略はどの程度効果的だと考えられますか?」の教示文の後,Table 1に示した他者の情動を調整する各方略の有効性を,1(全く効果的でない)~7(非常に効果的である)の7件法で回答した。なお,情動の種類(怒り/悲しみ/不安)は,参加者間でランダムに設定した。
結果と考察
 回答のバイアスを補正するため,有効性認知の評定得点はイプサティブ化(ローデータ-参加者ごとの全ての評定に対する平均値; He et al., 2017)した得点を分析に用いた。各国の平均値と標準偏差をTable 1に示した。まず,国ごとに変数に対する階層的クラスター分析(ウォード法)を行った結果,方略の有効性の高低に基づき,日米とも4群に方略が分類された (Table 1)。
 続いて,方略の有効性認知に関して,日米間の類似点と相違点を検討するために,JASP 0.9.2.0 (JASP Team, 2018)を用いてベイズファクター (BF10)を算出し,群間比較を行った (Table 1)。事前分布はJASPのデフォルト:δ ~ Cauchy(0, 0.707) を用いた。その結果,表出,共感的理解,行動的な気晴らし,リラクゼーション,認知的な気晴らし,反芻については,「H0:母集団で両群の平均値が変わらない」をより強く支持する結果となった(BF10 < 1/3)。一方,問題解決,ユーモア,身体的接触,受容,抑止,抑制については,「H1:母集団で両群の平均値が異なる」をより強く支持する結果となった(BF10 > 3)。肯定的再解釈については,決定的な結論が得られなかった(1/3 < BF10 < 3)。
 以上より,日米ともに表出と共感的理解を他者の情動を調整する際に特に有効であると考えていること,アメリカでは問題解決とユーモアが特に有効であると考えられているのに対して,日本では中程度に留まること,抑止と抑制は日米ともに有効ではない方略と考えられており,特にその傾向はアメリカで強いことが明らかになった。