日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PF] ポスター発表 PF(01-67)

2019年9月15日(日) 16:00 〜 18:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号16:00~17:00
偶数番号17:00~18:00

[PF36] 中学校進学後の生徒の学習規律認識の変化

出身小学校による違いに着目して

笹屋孝允 (三重大学)

キーワード:中学校、学習規律、中1ギャップ

問題と目的
 中1ギャップに代表される,進学後の中学校での生徒の学校適応が課題とされている。授業については,学級担任が密に関わる小学校の学級担任制から,教科で教師が交代する中学校の教科担任制への移行し,生徒の学習規律認識の再構成の必要性が生じていると予想される。
 その一方で,生徒は小学校段階で授業中の学習規律についての認識を構成し,その認識を持ったまま中学校に進学する。このことから,小学校での授業経験が,生徒の学習規律認識の構成や中学校での学校適応に関係すると考えられる。
 中学校における学習規律認識に関する研究は加藤・大久保(2006)などに散見される程度で,これまで十分に調査,分析がなされてこなかった。また,進学に焦点を当てた研究,すなわち小学校と中学校を横断する調査研究も行われてこなかった。中学校での学校適応支援の端緒の1つとなりうる,中学校進学後の生徒の学習規律認識の変化の特徴や,その特徴と出身小学校との関係の解明はなされていない。本研究の目的は,生徒の出身小学校の違いが,中学校での生徒の学習規律認識に関係するかどうか,学習規律の重要度認識に焦点を当てた質問紙調査から明らかにすることである。
方  法
 三重県内公立中学校1校4学級を研究協力者とした。中学校区内には5校の小学校がある。
 予備調査として,生徒にどのような学習規律が成立していると認識しているか,自由記述で回答を得た。この回答をボトムアップ的に集約し,カテゴリ化した。回答数の多かった,「友人と話す・聞くに関する学習規律」カテゴリ(学習規律例・友達の発言はうなずきながら聞く)と,「一斉指導時の態度に関する学習規律」カテゴリ(同・授業に関係のないことは話さない)に関する学習規律各7項目について,それぞれどの程度重要と認識しているのか,5段階評定で回答を求める学習規律重要度認識質問紙を作成した。2018年度前期末(9月)と,後期末(3月)の2回,調査を実施した。中学校区外の小学校から進学した生徒の回答,及び,どちらか一方でも調査を欠席した生徒の回答は,分析から除外した。
結果と考察
 各回,中学校の学級ごと,出身小学校で群分けを行い,2カテゴリの学習規律の重要度認識それぞれについて,回答を集計した。結果はTable1の通りである。
 回答の分布が高得点に偏ったため,出身小学校間の有意差検定はクラスカル・ウォリス検定(全ペア毎)を採用した。その結果,2回目の1組「話す・聞くに関する学習規律」についてのみ5%水準で有意となった(2回目の1組「一斉指導時の態度に関する学習規律」,2回目の3組「話す・聞くに関する学習規律」と「一斉指導時の態度に関する学習規律」について,それぞれ10%水準で有意)。学級によっては,1年生前半期では生徒の学習規律認識について出身小学校間で差が見られないものの,次第に出身小学校の違いが認識の違いとして現れる場合があることが明らかとなった。
 これらの結果の要因として,以下2点が推察される。1点目は,前半期には中学校の学習規律が教師から指導されることで,生徒は画一的に学習規律の認識を構成するが,次第にその認識が弱まるためである。2点目は,中学校で学習規律の継続的指導がなされないためである。質問紙調査と同時期に行った授業観察において「話す・聞くに関する学習規律」についての指導が見られなかった。生徒は小学校での授業経験を基に,この学習規律についての認識を再構成したと推察される。
付  記
 本研究は科研費(2017年度若手研究(B)・17K13980)の助成を受けた。