[PF43] 「うつ病の友人を援助することの利益・コスト感」に関するプロトタイプ分析
キーワード:うつ病、援助行動、利益・コスト
問 題
近年,ピアサポートを通じてうつ病の早期予防を目指す上で,「うつ病の友人を援助することの利益・コスト感」をいかに調整するかが課題となっている。例えば,ピアサポート教育の受講者が対象のインタビュー (Rossetto et al., 2018) では,「受講後,うつ病の友人を実際に目にしたが,『余計な責任を抱えたくない』と思ってしまった」というコスト感が頻繁に語られていた。また,大学生が対象の自由記述調査 (Kashihara & Sakamoto, under review) では,「うつ病の友人への援助行動について,自身や友人にとっての利益が20種類にわたって記述された一方で,12種類ものコスト感が想起されていた」という結果が示されている。
本研究は,上記のKashihara & Sakamoto (under review) の知見を土台に,複数ある「うつ病の友人を援助することの利益・コスト感」のうち,いずれが典型的 (プロトタイプ的) であるのかを特定することとした。援助に踏み切ることの「利益」への気づきを促し,行動の「コスト」感を低減する動機づけ教育を今後発展させるべく,その土台となる知見を示すことが本研究の目的である。
方 法
調査概要
首都圏の私立大学2校で質問紙調査を実施した。回答者は292名 (男性121名,女性171名; 平均年齢19.26歳,SD = 1.08) であった。
場面想定
調査の冒頭でスライド資料を用い,「友人がうつ病の症状を呈しており,援助するかどうかの判断が回答者自身に委ねられている」という場面を提示した。
質問項目
Kashihara & Sakamoto (under review) がKJ法 (川喜多,1967) で抽出した,「うつ病の友人を援助することの利益 (20種類)・コスト感 (12種類)」の諸カテゴリ (Table 1) を提示した。上記の場面想定のもと,各種の利益・コスト感をどの程度気にかけるか,7段階 (-3: まったく気にかけない―3: 非常に気にかける) で回答するよう求めた。
結 果
まず,「うつ病の友人を援助することの利益」20項目に着目し,いずれの項目が特に「気にする」と評定されやすかったのかを検討した。分散分析 (F(19, 5568) = 107.96, p < .001, ηp2 = .27) と,Bonferroni法による下位検定を実施した結果,「相手の状態の改善」という項目の評定値が,残りの19項目よりも有意に大きいことが示された。
次に,「うつ病の友人を援助することのコスト」12項目に着目し,同様の分散分析 (F(11, 3241) = 51.72, p < .001, ηp2 = .15) と下位検定を実施した。その結果,①「友人側の負担の懸念」「役に立てないときの罪悪感」という2項目の評定値が,残りの10項目よりも有意に大きい,②上記2項目の間に評定の有意差がない,という2点が示された。
考 察
上記の結果から,①「うつ病の友人を援助することの利益」の中でプロトタイプ的なのは,「相手の状態の改善」であり,②「うつ病の友人を援助することのコスト」の中でプロトタイプ的なものは,「友人側の負担の懸念」と「役に立てないときの罪悪感」であると結論付けた。援助行動への動機づけを今後高めていく上では,①「相手の状態の改善」以外の利益への気づきを促すことや,②「友人側の負担の懸念」「役に立てないときの罪悪感」というコスト感を低減することが有効だろう。
近年,ピアサポートを通じてうつ病の早期予防を目指す上で,「うつ病の友人を援助することの利益・コスト感」をいかに調整するかが課題となっている。例えば,ピアサポート教育の受講者が対象のインタビュー (Rossetto et al., 2018) では,「受講後,うつ病の友人を実際に目にしたが,『余計な責任を抱えたくない』と思ってしまった」というコスト感が頻繁に語られていた。また,大学生が対象の自由記述調査 (Kashihara & Sakamoto, under review) では,「うつ病の友人への援助行動について,自身や友人にとっての利益が20種類にわたって記述された一方で,12種類ものコスト感が想起されていた」という結果が示されている。
本研究は,上記のKashihara & Sakamoto (under review) の知見を土台に,複数ある「うつ病の友人を援助することの利益・コスト感」のうち,いずれが典型的 (プロトタイプ的) であるのかを特定することとした。援助に踏み切ることの「利益」への気づきを促し,行動の「コスト」感を低減する動機づけ教育を今後発展させるべく,その土台となる知見を示すことが本研究の目的である。
方 法
調査概要
首都圏の私立大学2校で質問紙調査を実施した。回答者は292名 (男性121名,女性171名; 平均年齢19.26歳,SD = 1.08) であった。
場面想定
調査の冒頭でスライド資料を用い,「友人がうつ病の症状を呈しており,援助するかどうかの判断が回答者自身に委ねられている」という場面を提示した。
質問項目
Kashihara & Sakamoto (under review) がKJ法 (川喜多,1967) で抽出した,「うつ病の友人を援助することの利益 (20種類)・コスト感 (12種類)」の諸カテゴリ (Table 1) を提示した。上記の場面想定のもと,各種の利益・コスト感をどの程度気にかけるか,7段階 (-3: まったく気にかけない―3: 非常に気にかける) で回答するよう求めた。
結 果
まず,「うつ病の友人を援助することの利益」20項目に着目し,いずれの項目が特に「気にする」と評定されやすかったのかを検討した。分散分析 (F(19, 5568) = 107.96, p < .001, ηp2 = .27) と,Bonferroni法による下位検定を実施した結果,「相手の状態の改善」という項目の評定値が,残りの19項目よりも有意に大きいことが示された。
次に,「うつ病の友人を援助することのコスト」12項目に着目し,同様の分散分析 (F(11, 3241) = 51.72, p < .001, ηp2 = .15) と下位検定を実施した。その結果,①「友人側の負担の懸念」「役に立てないときの罪悪感」という2項目の評定値が,残りの10項目よりも有意に大きい,②上記2項目の間に評定の有意差がない,という2点が示された。
考 察
上記の結果から,①「うつ病の友人を援助することの利益」の中でプロトタイプ的なのは,「相手の状態の改善」であり,②「うつ病の友人を援助することのコスト」の中でプロトタイプ的なものは,「友人側の負担の懸念」と「役に立てないときの罪悪感」であると結論付けた。援助行動への動機づけを今後高めていく上では,①「相手の状態の改善」以外の利益への気づきを促すことや,②「友人側の負担の懸念」「役に立てないときの罪悪感」というコスト感を低減することが有効だろう。